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※12話 淫魔と吸血鬼に挟まれて


今回、話数の前に※を付けたのはR15色が強めという意味です。

 


 ぼおっと汚れ一つない真っ白な天井をベッドで見上げているとひょっこりと凛々しくも見目麗しいセリカが顔を出した。



「退屈そうですね」

「退屈よ。『悪魔狩り』のせいもあってか、空気も重いし」



 百年に一度の魔界側からしたら迷惑極まりない行事。人間界にいる住民もこの時ばかりは魔界に戻るのだとか。結界が弱まったと言っても、二つの世界を隔てる壁が薄くなっただけ。魔界全土に貼られた強固な結界は簡単には壊せない。何せ、父様とレオンハルト団長、リエル叔父様が総出で作った飛び切り頑丈な結界なのだから。期間は一ヶ月。その間の魔王の仕事は全て、宰相のアリス様が請け負う。結界の維持に集中する為と魔力切れが起きても『魔術師団』の方々が即座に魔力供給を行えるように。城の守りも『騎士団』総出で厳戒体制を敷くとか。



「アシェリーとソラはどうしてるかな」



 父親に会えないのは私やアイリーン、ユーリにハイネだけでなく、レオンハルト団長とリエル叔父様を父に持つ二人も一ヶ月の間は会えない。宰相さんを父に持つネフィだけ会えると言えど、忙殺されている人と遊べるかと聞かれれば別の話になる。



「それぞれのお屋敷にいらっしゃるかと思われます。お会いしたいですか?」

「そうだねえ。あー……でも、向こうからこっちに来てとお願いしないといけないから……ねえ」


「セリカ」と呼ぶ前に「いけません」と否定された。「私何も言っていない」と返しても「お嬢様が何を言うかは分かります。大方、屋敷に遊びに行こうと仰るつもりなのでしょう?」


 と見破られていた。反論の余地もなく、素直に認めるしかない。部屋から出ていけない割に結界は貼られてない。大方、セリカがいるからだと思われているんだろうけど。父様のベッド寝心地最高だけど何度も寝たら睡魔も中々訪れてくれない。暇だなあと瞼を閉じ、開いた私は上体を起こした。



「遅すぎない母様?今日のデザートは豪勢にしようと張り切ってたから、昼食はアイリーンと生野菜をボリボリ食べてたのに。もう二時間は経つよ」

「言われてみればそうですね。使い魔を飛ばします」

「セリカが見に行ってよ」

「その間、お嬢様は部屋を出るつもりでしょう?」

「出ないよ。母様のデザート食べたいもん」



 母様のデザートを食べれるなら行儀良く待ってる。証拠として正座して胸を張った。疑心溢れる眼を頂くも念のため釘を刺して厨房の様子を見に行った。母様どれだけ手のこんだデザートを作ってるのかな。



「そうだ。アシェリーとソラとネフィも呼ぼう」



 城に呼び出すいい口実を見つけ、早速ベッドから降り「ダメだよおアフィーリア。折角丁度いい場所にいるんだから降りないでよお」…たかったのに、聞き覚えのあり過ぎる間延びした声が背後からした。人を羽交い締めにした挙げ句座り込んで拘束するのは。



「……アシェリー」

「そうだよお。ぼくだよお」

「離してよ」

「え~?この間の続きしようよお」

「続き?……!?」



 アシェリーの言ったこの間の続きって…アレしかないよね!?私達まだ子供だよ?いくら魔族といえど、子供の内から経験のある子は「極少数だけどいるよお。子供の身体に興奮する大人がいるからねえ」人の心読むな。



「アフィーリアの心は面白いから、ついつい読んじゃうんだよお。それに怖がらなくていいよお。続きは続きでも延長戦、アフィーリアのキスはとても気持ち良いからキスしかしないよ」

「それが問題なんでしょ!離しなさいっ、ってか、家にいなくていいの!?」



 緊迫した状況の今、迂闊に外に出て天使に出会すよりかは家にいるのは安全。特に、公爵であるノワール家も屋敷に強大な結界を貼っている筈。



「ああ、いいよいいよ。母さんといると疲れるもん」

「アシェリーのお母さん?」

「うん。父さんが暫くお城から戻らないって伝えに来たら……」



『嫌よ!レオに一ヶ月も会えないなんて…!』

『ん~気が向いたら戻るから我慢して。どうしても我慢出来なかったら、適当に遊び相手を見つけれくれて構わないからあ』

『っ……!?私は、レオが他の女と会話するだけでも心底嫌で嫌で仕方ないのに、レオは私が他の男といても良いと言うのね!?」

『アシェリー。セフィのお世話よろしくう~』

『待ってレオンハルト!レオ……!!』



「……」



 レオンハルト団長とノワール公爵夫人のやり取りをアシェリーの記憶から見せられ、何とも言えなくなってしまった。アシェリーのお母さんって初めて見た。濡れ烏の様に艶やかな長い黒髪に長い睫毛に縁取られた金色の瞳。背は低く、それでいて締まる所は締まっており、出る所はしっかりと出ている。おまけに少々童顔。淫魔でも位の高い伯爵家の令嬢と聞いた。庇護欲が沸き上がる容姿をしているが中身はレオンハルト団長にぞっこんなのだとか。



「女の淫魔はねえ、強い魔力持ちの相手に抱かれちゃうとその人と同等か、それ以上の魔力保持者に抱かれないと満足出来なくなるんだ。父さんはノワール公爵家で今まで一番強い人だし、魔法の才能も桁外れだからその強さに母さんが惚れて猛アタックしたみたい」

「詳しいのね」

「母さん本人が言ってたからね。未来の公爵家当主にして『魔術師団』団長。おまけに魔王の昔からの友人で魔界でも絶大な権力を持ってる。父さんを狙う貴族の令嬢はそれもう溢れんばかりにいたって」



 家柄や本人の実力もそうだが容姿もモテる要因の一つだろう。紫がかったふわふわの黒髪に切れ長の黄昏色の瞳、強大な魔力を有している証の非常に整った見目。アシェリーの髪の性質もレオンハルト団長譲りだよねえ。ん?ノワール公爵夫人の瞳の色は金色でレオンハルト団長は黄昏色。アシェリーの紫の瞳って誰の遺伝?ねえ?



「ぼくが心を読めるからって心の中で聞かないでよお。答えは簡単。ぼく()の色は、前ノワール公爵譲りなんだよ」

「そうなんだ」

「うん。で、ぼくの色がこんなだから最初酷く言われたみたいなんだ。ぼくは父さんの子じゃなく、ノワール公爵の子だって」

「酷い……」

「そうだねえ。母さんも否定はしたけど淫魔だからただの言い訳にしか取られなかったって。でも、父さんが黙らせたんだ。その時すごく嬉しかったし、助けられたって母さん言ってたんだあ」



 基本放置されてもノワール公爵夫人がレオンハルト団長を愛しているのは、二人には二人にしか分からない信頼があり、お互いを理解しているから。アシェリー曰く、放置されても数日経てばレオンハルト団長自身が戻ってちゃんと相手をしているらしく。翌日、夫婦のラブラブっぷりを見せられるのだとか。あれで二人目が出来ないのが不思議だと本人は言うがうちも同じだ。


 魔王の娘溺愛振りは身を以て体験している私が言うのだから間違いないが、父様の母様に対する愛情は尋常じゃない。ゲームをしていたから知っている部分もあるけど、目の前で見せつけられるとゲーム以上の物を感じた。…但し、二人の世界に入っていてもその場から逃げようとしたら感付かれる。解せない。ゲーム本編では母様は亡くなっているがちゃんと生きてる。まさかの三人目という、ゲームとは違った内容に進む可能性だってある。


 ――私という、異物が存在するのだから。


 お互いの親の話に花を咲かせていると、ふと気付く。私、アシェリーに拘束されたままだ。いい加減解放してもらいたい。私の心を読んだのか、アシェリーが急に動き出した。一緒に横に倒され顔を両手で固定されてしまった。



「離し……」



 なさい、と続けたかった台詞は途中で引っ込んだ。この前と同じくアシェリーがキスをしてきたから。といっても、触れるだけの、子供がするようなキス。



「怒るわよ。それか、父様に言いつけてやる」

「それは困るよお。父さんにも叱られる。いいじゃない、もうアフィーリアの初めてはぼくがもらったんだから」

「言い方!そこはファーストキスと言ってよ!」



 ……自分で言って悲しくなる。



「変わらないよお。身体もぼくがもらう。言ったでしょ?大人になったら、毎日気持ちいいことして遊ぼうって」



 本気だったの?冗談じゃなく?


 瞠目して固まってもアシェリーは無邪気な笑みを浮かべ、触れるだけのキスを何度もする。アシェリーは気持ちが良いと言うけど私にそんな感覚はない。子供特有の柔らかい唇が触れたり離れたりを繰り返すだけ。「あっ!」と急に怒ったような顔をしたアシェリーに驚く間もなく、首筋に鋭い痛みが襲った。



「いたっ、な、なに」

「もう!横取りしないでよお!」



 私じゃない、私の後ろにいる誰かに怒っているみたいだ。首筋にかかった熱い吐息にびくりと震える。後ろからチラッと見える金髪。ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らして飲んでいるのは――私の血液。



「んう、ちゅう、……ふーん。中身は阿呆でも、血は絶品だな。……んんっ」

「ひいっ、や、そら、なんで」

「喉渇いたなら自分ん家のメイドさんの血をもらえばいいでしょお」



 私の首筋に牙を穿ったのはソラだった。アシェリーがぷりぷり文句を垂れてもソラが吸血を止める気配はない。牙が皮膚を貫通し瞬間感じた痛みは、どこかに消え去った。吸血鬼の吸血行為には、性交を上回る快楽を与えられる。背後から強く抱き締めて吸血され、全身に轟く快楽が私の思考を真っ白にする。みっともない声を聞かれたくないのにソラの吸血の仕方が変わったせいで声が出てしまった。



「や……め……アシェ……リー……たすけ……」

「……なーんかムカつく」

「んん……」



 人が我慢していたのに、と私の助けを無視してアシェリーが口付けてきた。さっきまでの子供戯れの触れるキスじゃない。――大人のするキスを。



「んう、やっぱアシェリーも乗ってきたな」

「……ん……ぼくが最初に目を付けたのに。アイリーンにしなよ」

「アイリーンよりもアフィーリアの方が魔力が強いんだ。それにアフィーリアの方が……」

「ひ、あ……」



 牙を抜いたからやっと終わったと安心したのも束の間、再び同じ場所に牙を埋め込まれた。最初みたいに鋭い痛みはないものの、じんわりと身体が熱くなる。アシェリーに助けを求めても舌を絡ませる深いキスを繰り返すだけ。


 これが大人だったら、この後私は二人に美味しく頂かれるのだろうがまだ六歳の子供。更に彼等も同い年の子供。ベッドで一人の女を二人の男が挟んだらそういうのを期待する人もいるだろうが、欲に忠実な悪魔だろうが姿は子供。そういうのは一切ないと願う。


 ……私がプレイしていたこのゲームは、全年齢版といえど元はPCの大人向け恋愛ゲーム。家庭用ゲーム機に移植されてもプレイ推奨年齢は”17歳以上”だった。激しいキスシーンは勿論、明らか事後と思しきスチルもあれば今から事に入るであろうスチルもあった。又は描写か。



「んん……ちゅ……ソラのせいで抑えられないよお。どうしよお」

「淫魔の特性を俺のせいにするなよ。……んう……じゅる……」



 誰か……誰もでいいから……私の前後にいるこの二人を……――



「お嬢様!たい……」



 ぶん殴ってください……。





読んでいただきありがとうございました!


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