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11話 ホワイトとノワール



 


 現在、魔王の私室にて。


 人参、胡瓜、セロリ、レタス、キャベツ、パプリカを食べやすく一口サイズにカットしたのを数種類の調味料につけてはボリボリボリボリ食べる音が室内に発せられた。マヨネーズ、ゴマドレッシング、ケチャップ、焼き肉のタレ、醤油、オーロラソースの内生野菜と最も合うのは、王道のマヨネーズだった。しかし、私個人の感想を言わせてもらうと焼き肉のタレも捨てがたい。前の私はよく、サラダにドレッシングでもマヨネーズでもなく焼き肉のタレを掛けて食べていた。家族には変態扱いされたが意外にも合う。なので、テーブルに並べられた生野菜は全て焼き肉のタレを使用すると決めたのでセリカに残りの調味料が入れられた小皿を返した。味見する程度の量しか入ってなかったから勿体無くはないと思う。


 ――天使の襲撃から翌日。母様の口にした『悪魔狩り』の合図は今日の朝空に発生した。異様な緊迫感が城内全体を包み込んでいた。普段、庭園や森の中を走り回る悪戯っ子達も今は城内、又は屋敷にいる。私アフィーリアは、相変わらず父様の続・完全監視生活を送っているわけだが。


 アイリーンは天使襲撃のせいか、やたらと私べったりになり。母様もずっと私に引っ付いていたが、おやつに食べるデザートを作る為に母様専用の厨房へ行ってしまわれた。



「アイリーン。家庭教師の先生とのお勉強は?今日は歴史の授業だったでしょ?」

「姉さまが心配で頭に入りません。あ、食べれますねこのセロリ!独特の風味が案外好きになれそうです」

「好き嫌いない子に育ってる証拠だよ。あ、パプリカも美味しいよ」

「はい!」



 いつもは真面目に勉強に取り組むのに、私のせいでゴメンねアイリーン……。胡瓜も美味しい。


 アイリーンの後ろに控える侍女三人組と私の後ろに控えるセリカの空気が冷えきっているのは何故?ちらっと、セリカを盗み見た。が、すぐに視線に気付かれた。「何ですか?」と聞かれてしまったので正直に話すと。



「ある意味、しょうがない話だ」

「へ?」



 室内の第三者の声に間抜け声を出すと「生野菜をボリボリ食べるって兎か」と全く気配も存在も感知していなかった――ユーリが私の隣に座っていた。今更だけど、私とアイリーンは向かい合って座ってます。



「ユーリ?え、いつ?ってか、ここ入っていいの?」

「ついさっき。父上には許可はもらってる。ねえ、オニオンドレッシングはないの?」

「こちらに」



 ふむ、ユーリはオニオンドレッシング派か。アイリーンは生のまま食べてる。兎はアイリーンの事だろうな。パプリカに手を伸ばし、焼き肉のタレをつけて食べる。ピリ辛とした味がまた生野菜と相性が良いのよなあ。「おい」ユーリに頬を突かれた。



「ん?」

「ん?じゃない。さっきの、気になってメイドに聞いたんだろう?」

「あ、うん。ユーリは知ってるの?」

「知ってるも何も……。アフィーリアのメイドはホワイト伯爵家、アイリーンのメイドの三人の内二人はノワール公爵家出身。昔から、このホワイト家とノワール家は仲が悪いので有名なんだ」

「へえ」



 ホワイトは白、ノワールは黒。白と黒で相性悪いから?


 思ったままの疑問をセリカに当てたら首を横に振られた。



「お嬢様もご存知の通り、ノワール家は数多くの優秀な魔術師を輩出してきた名家です。対してホワイト家は、代々魔王を守る『騎士団』団長を務める家柄です。武術に長けたホワイト家と魔法に長けたノワール家。当然、戦略も異なります」

「なるほど……」



 ノワール家は魔法で敵を封じ込み、ホワイト家は純粋な武力で敵を捩じ伏せる。インテリと脳筋の違いって辺りだね。次にレタスへ手を伸ばした私の横でセリカにオニオンドレッシングを用意してもらったユーリがセロリを選んだ。アイリーンは生のまま。



「ホワイト家はノワール家を魔法しか使えない根性なし、ノワール家はホワイト家を力だけで押し通す筋力馬鹿と長い間いがみ合っているのです。まあ、現ノワール公爵家当主レオンハルト様は、家同士の確執等気にもされていないみたいですがね」

「ホワイト家は?」

「我が父、ホワイト伯爵も同じです。幼い頃から、ノワール家とホワイト家のいがみ合いにはうんざりしておられたとか。ただ、飽くまでもそれは当主のお気持ちで、両家全体の気持ちではありません。なので、私やそこにいるアイリーンお嬢様の付き人の仲が悪いのも当然の摂理なのです」

「そうなんだ。あ、セリカも食べる?美味しいよ胡瓜」

「私は平気です」



 お家同士の問題なら、魔王の娘でも下手に首を突っ込めないよね。セリカが説明してくれててもノワール家出身の二人は一度も口を挟まなかったな。能面の様な表情でそこにいるだけ。肘でユーリを小突き、音量を最低にした。



「ねえ、あの二人ちょっと怖い」

「あぁ、ベルローナとマファルダだっけ。あの二人はノワール家の分家でも末端、しかも当主が娼婦に生ませた子っていう訳ありだから、扱いも酷いものだったらしい。んで、魔力と魔法の才に目を付けたレオンハルト団長が引き取って、お前の侍女にしたんだ」

「……へ?」



 彼女達は最初からアイリーン付きの侍女だけど?


 何を言ってるのとありありな目を向けたら呆れた様にユーリは私にデコピンを食らわせた。痛くはないけど事情がさっぱり。それについてはセリカが説明してくれるみたいで説明役を買って出てくれた。



「ユーリ様の言う通り、本来であれば彼女達がアフィーリアお嬢様の侍女になる予定だったのです。…ですが、お嬢様が『嫌だいらない不必要アイリーンにどんどん回して』と我儘を仰るのでアイリーンお嬢様付きになったのです」

「……」



 言ったような……言ってないような……言いました。はい。認めます。



「セリカが姉さま付きになったのは何故です?」

「アフィーリアお嬢様の我儘に振り回されても無理難題を押し付けられてもスカートを捲られた挙げ句逃げられても、多少のダメージを食らっても一日経てば復活するからって事で奥方に頼まれたのです」

「うぐっ」

「スカート?」

「……最低だな」

「うるさい」



 根に持つよね。まだまだ根に持つよね。魔界の人はねちっこいからまだまだ話題に出すよね。


 ユーリからの冷たい視線を無視するべく色んな野菜をボリボリムシャムシャボリボリムシャムシャを繰り返した。


 用意された生野菜を完食し、私達三人はふかふかのソファーに移動した。食後はここで寛ぐのが今の楽しみ。太る可能性大でも。



「お腹いっぱ……」



 い、と言い切る前にある事に気付いた。ソファーに座ってる順番は、右からアイリーン・私・ユーリ。アイリーン大好きなユーリの隣に私がいるのは良くない。一旦ソファーから降り、お腹一杯とご満悦なアイリーンを左に押して再度ソファーに座り直した。怪訝な眼を向ける二人には気付かず、役目を遂行したとばかりに満足げに胸を張った。





読んでいただきありがとうございました!


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