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10話 昼寝からではなく、本当は



 


 続・完全監視生活二ヶ月目、その日の真夜中。


 不意に目を覚ました私は間近にある父様の寝顔を見て一瞬心臓が止まるかと思った。何度間近で見ても父様って格好いいし綺麗。父親の色気にやられそうになった回数は最早両手では足りず。ちらっと下に目をやれば、シャツのボタンを一つしか閉めてないので前がほぼ全開。間から見える肌が……ゲフン。とまあ、父様が子供の目から見ても見目麗しい色気溢れる魔王様なのは置いといて。


 私は何時までこの完全監視生活を強いられるのだろうか。自業自得なのは重々承知してる。でも、そろそろ許してくれもいい筈。母様やアイリーンがお願いしても頑なに首を縦に振ろうとしない父様。ずっと父様を独占しているのがアイリーンには申し訳ない。時間を見ては侍女の人が連れて来てくれるけど、やっぱりちょっと寂しそうだった。まだまだ母親だけじゃない、父親にだって甘えたい年頃なのにね。…元凶が私だとしても。


 今回の失敗を踏まえ、今後作戦を練る時は部屋の鍵を閉め、完全に一人になってからにしよう。セリカにはどうしよう。何かあった時私を見ていなかったと叱られる場合があるのでセリカには話しても良いんじゃないか。最悪の場合、セリカにも付き合って貰おう。なんて言うのは冗談として。中途半端な時間に起きてしまったので寝れない。腰辺りにある父様の腕を慎重にずらしてベッドから降りた。暗いが月明かりがある窓は比較的明るいのでそこで本でも読もう。一人でも退屈しないようと色々な遊び道具が部屋にあり、本もその内の一つ。



「どれにしよう」



 どれも子供向けなので短時間で読めるのがいい。物色していると深緑色のハードカバーが目についた。金糸で刺繍された題名は『月明かりの下で』。…ん?知ってる題名ね。私がアフィーリアとなってからも、なる前からも本は読んでいたがこの題名は初めて見た。既視感があるのは何故。



「……」


 

 読んでみよう。内容を知れば思い出すかもしれない。


 母様が用意してくれたペンギン型の丸椅子を窓際まで持っていき本を開いた。



「案外読めるね」



 頁数も然程多くなそうなのですらすら読めそうだ。目次から次の頁を開いた時―――窓に何か落ちてきた。



「何だろう」



 気になった私は本を丸椅子に置いて、窓を開けてバルコニーに出た。綺麗に清掃されている地面に白い羽が落ちていた。



「綺麗……」



 一切の汚れがない純白の羽。それに、普通の鳥の羽よりも倍は大きい。夜に活動する鳥は基本梟や夜烏。白い梟はいても、白い烏っているの?



「明日父様に聞いてみよっと」



 新しい発見が出来た私は羽をくるくる回しながら部屋に戻るべく満月に背を向けた。


 突然、バサ、バサと羽の鳴る音を拾った。目の前に落ちる白い羽。ひょっとして、羽の持ち主である鳥がいる?


 どんな鳥か知りたくて振り向き―――後悔した。



「え……」



 満月を背に、私を見下ろしていたのは確かに白い翼を持っていた。純白の大きな翼を。だが、持ち主は私が思っていた大きな鳥ではなく―――



「見つけたぞ……!忌まわしい魔王の娘……!!」

「ひっ……」



 魔界とは遠い昔から対立している天界の天使だった。白い装束に白い翼。白い仮面から見える金色の瞳には、明らかな殺意と憎悪。片手に大きな槍を手にしている天使が刃を私に向けた。恐怖で尻餅をついた私に一切の躊躇を見せず、槍を持つ天使が迫ってくる。


 怖い、怖い、怖いっ!


 助けて、誰か――



「パパぁ……!!助けてえぇ!!!」



 また殺される(・・・・・・)のは嫌!!


 目をぎゅっと瞑り、来るであろう痛みに備えた。





 ……?



 また殺される?



 どうして、そう思うの?



 それに、一向に痛みが襲ってこない。



 天使の槍は刺されても痛みがないとか?…な訳ないか。


 恐る恐る目を開けてみると――



「やれやれ、フライングはルール違反だと言うのに。欲の強い天使だねえ。そう思わないか?ロゼ」

「あ…」



 丁度、私の頭上に先程の天使が黒い縄で縛られ身動きを封じられていた。縄の発生源は、バルコニーにいつの間にかいた『魔術師団』の団員が展開した魔法陣から。そして、ふわりと私を背後から抱き上げると正面を向かせたのは――私の父様。



「大丈夫か?アフィ」

「あ、う……父様……」



 殺される。


 そう覚悟した。


 父様の顔をペタペタ触って、やっと自分が助かった事実を実感した。同時に恐怖が解き放たれ…堪えていた涙が溢れ出た。親を求める赤子の如く泣き出した私を父様は微笑して抱き締めた。強く抱き締められても涙は止まらない、泣くのを止められない。



「ひぐっ……うぅ……ああっ……!!と、さま、とうさまあ!!」

「ああ、恐かったな。もう大丈夫だ。レオンハルト、そいつを地下牢に放り込んでおけ。魔力封じを忘れるな。それと自害防止で適当に何か噛ませておけ」

「猿轡ならぬ、天使轡か。丁度良い。試作品を試そう。我輩の可愛い僕達、遊び場に放り込んでおけ。あれと遊ばせよう。」

「まだ生かしていたのか?道理でいない筈だ」

「前の処刑で失うには勿体無いと思ってねえ。今イい感じに仕上がってる。流石、公爵家の娘だよ」

「好きにしろ」



 父様とレオンハルト団長の会話は大泣きしている私の耳には一切届いていない。父様にしがみついて泣いているだけ。服が涙に染みても止まらない。頭に誰かが触れた気がして、顔を見上げたら優しい父様のエメラルドグリーンの瞳が私を見下ろしていた。



「もう眠りなさい。次に目を覚ましたら、悪夢はもう消えている」

「父様……」

「良い子だから、お眠り。アフィーリア」

「うん……」



 父様のキスを貰って、恐怖は消えていた。それに眠りの魔法が掛けられていたのか、単に泣き疲れただけなのか、お休みなさいも言えず、私は再び眠った。






 ○●○●○●



 ――翌朝、起床してまず驚いたのが母様が泣き出す寸前の顔をして私を抱っこしていた事。真夜中の出来事を父様に聞いたらしく、起きるまでずっと抱いていたのだとか。



「アフィーリア……っ、怖い思いをしましたね。怪我は?何処も怪我はしていないですか?」

「はい、母様。父様やレオンハルト団長、『魔術師団』の方々が助けてくれたのでなんともありません」

「良かった……!私の可愛い愛娘。貴方に何かあったら、ロゼも私もアイリーンも悲しみます。実はね、貴方を襲ったのは、」

「姉さまあ……!!」



 母様の台詞を途中で遮ったのは、事情を聞かされたのかほぼ泣いているアイリーンだった。ノックも礼もなしに突撃したアイリーンを侍女達が窘めるも全く意味を成さず、ベッドの上にいる私と母様に駆け寄るとぴょんっとベッドに飛び乗り私に抱き付いた。



「姉さまあ、姉さまあ……!!」

「わ、わわ、どうしたのアイリーン?何かあったの?」

「なにかあったのは姉さまじゃないですか!!わた、私、姉さまが天使に襲われたと聞いて居ても立ってもいられず、うう……」

「泣かないでアイリーン。平気よ。ほら、ぴんぴんしてるでしょ私?」



 頑丈だけが取り柄な体を誇らしげに両手を腰に置き胸を張った。疑いのサフィアブルーを向けつつ、私の言葉に安堵したのか泣き顔のまま笑顔を見せてくれた。うんうん、可愛い妹は泣いたままの笑顔でもかわ……え?天使?


 アイリーンの頭を撫でながら私はゲーム内容を思い出していた。



「母さま、何故天使が魔界に?結界が張られているのに」

「そっか…アイリーンやアフィーリアはまだ知らなかったわね。無理はないわ」



 天使……幼少期……



「百年に一度だけ、天界では『悪魔狩り』といって、天使達の昇進試験として悪魔を一斉に狩る試験があるの。今年はその『悪魔狩り』の時期で魔界と天界に存在する結界が極端に弱まってしまうの。でも、普通『悪魔狩り』を行う際には合図を出す筈なんだけど」



 ……お、思い出した……『悪魔狩り』……百年に一度の天使達にとって出世に繋がる大事な試験であり、悪魔にしたら迷惑極まりない行事。物語でもしっかりとあった。母様の言う通り、百年に一度の『悪魔狩り』は主人公が幼少期の時一度起きている。で、成人を迎えた直後にもう一回。百年も経っていないのに短いスパンで行われたのは新たな魔王誕生を阻止する為。悪役アフィーリアは天使と手を組み、妹を殺させようとするが勘付いた攻略対象に逆に殺されてしまう。アフィーリアが天使と手を組むルートは各純愛ルートのみ。


 天使もまあ狩る対象と手を組んだものだわ。あれ、成功したらアフィーリアはどうなってたのかな。


 母様の言う合図とは、『悪魔狩り』は始まりと終わりを知らせる閃光が『魔界』に発せられるのだとか。うん、見た覚えがないね。私を襲った天使はどうしているのか、母様に訊ねると難しい顔をされた。



「うーん……私もロゼに訊いたけど詳しくは教えてもらえなかったの。ただ、牢屋に入れたとしか」

「牢屋……」



 城には幾つもの地下牢が存在する。元からあったものや、レオンハルト団長が勝手に作ったものまで。どこの牢屋にいるのだろうか。ふと、枕元に置かれている羽を見つけて手を伸ばした。



「姉さま、それはなんです?」

「羽、だね。最初、大きな白い鳥が落としたものだと思ったの」



 現実は天使だったわけだが。



「きっと、姉さまを誘き寄せるために落としたのです」

「そうかなあ」

「そうです。そうに決まってます」



 珍しく強い口調で決めつけるアイリーンを落ち着かせようと頭をポンポンと撫でつつも、有り得る話だ。『悪魔狩り』でない期間だとしても、魔王の娘の首を取ればあの天使は大出世間違いなしだったろうに。実際、そう思って子供の興味を引かせるべく羽を落としたと考えれる。私はまんまと罠にかかり、バルコニーへ出てしまった。もしも父様の部屋じゃなかったら、レオンハルト団長が助けに来てくれなかったら―――



「また……死んでた」

「アフィーリア?」

「いえ、何でもありません」



 また……?また死んでた?


 あの時もそうだ。私はまた殺されるのは嫌だと強く願った。何時殺されたの?


 まさか、プレイしていた乙女ゲームの主人公の姉になったのは、殺されていたから?昼寝をしてたんじゃないの?


 私には昼寝をした記憶しかない。昼寝をして、起きたらアフィーリアになっていた。



 ――その事実しか、記憶がない。





読んでいただきありがとうございました!

自分がアフィーリアになった切欠をほんの一部分無意識の内に思い出したアフィーリアでした。

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