知らない一面
天界襲撃作戦はウアリウスとシルヴァ公爵に任せ、私とベルベットは好きに過ごした。今日も一日が終わり、後は眠るだけ。シルヴァ公爵が滞在してから、夜中を回ってからウアリウスはベッドに入るから、私は先に一人で寝ている。大きなベッドを一人で寝ると心なしか寂しい。長く一緒に寝ていたから、すっかりと隣に誰かがいるのが当たり前になってしまっている。
どうせ後で来るんだからと自分を納得させて私は瞼を閉じた。不思議と今日はいつもより意識の落ちる時間が早く感じられた。
——理由は夢の世界でネフィに会って分かった。
会って早々私をベッドに押し倒してキスをしてきた。毎回思うんだけどなんでベッドの上?地べたに座ったり、立ったままよりマシだけど……。
久しぶりに会った時のような荒々しさはなくても、長く、執拗にキスをされる。
「ネフィ……っ、ちょっと、待って」
「……」
「ねえってば……んん……」
合間に言葉を挟み、一旦止めるよう訴えてもネフィは止めない。どうも機嫌が悪そうだ。ネフィの気が済むまでさせた方が良いと判断して背に手を回したら、やっとキスを止めた。私の胸に顔を押し付け溜め息を吐くのを見たら、どこに顔を埋めてるのと怒れなくなった。魔界で何があったのかと聞いたら「え?」と私は声を発した。
「嘘」
「こんな嘘言ってどうすんだ」
「だってアシェリーってすごくのんびりというか……怒ってもそこまでって感じだったから……」
ネフィから聞かされたのは、子供の頃のまま記憶が止まっている私からすると驚愕だった。
私を魔界へ連れ戻そうともせず、泣き続けるアイリーンを慰めることもせず、ただただ静観しているネフィやアシェリー、ソラに苛立ちをぶつけたハイネ。ネフィは夢の世界で私と会えるから然程苛立ちは持ってなくて、ソラに関してはシルヴァ公爵が鬱陶しくなったウアリウスがその内鍵を開けるだろうというリエル叔父様の言葉があってやっぱり落ち着いていた。アシェリーの場合はベルベットの誘いに乗らなかったから私に会えないという苛立ちを抱え、日に日に苛立ちが増長してしまっているせいでハイネがぶつけてくる苛立ちを倍にして返してしまったのだ。
大怪我を負ったハイネを部屋からやっと出て来たアイリーンが目撃してしまい、アイリーンの叫び声を聞いて駆け付けたユーリと大喧嘩へ発展してしまった。
「勝ったのはアシェリーだけどな。ユーリは見事に返り討ちに遭っていた」
「魔力量で言うとユーリが上なのに」
「魔力だけで言えばな。魔術の所持数と経験で言うとアシェリーの方が上だ。ノワール家の次期当主が魔力頼りの戦い方しか知らない訳ないだろう」
「教えたのってやっぱり」
「レオンハルト様だな」
やっぱり。身近な人で最も指南役に向いていると言えばレオンハルト団長しかいない。
「人間界で再会した時もそうだった。ベルベットは私の話を聞いて極力魔術を使わないでいてくれたけど、ユーリはお構いなしに威力の強い魔術を使ってた」
「神と関わりの深い王国で魔族の力をお構いなく使う方が問題だっての。その点についてユーリはレオンハルト様に指摘されてたぜ」
当の本人はかなり不貞腐れていたみたいでこればかりは呆れるしかない。胸から顔を上げ、私の両頬に肘を立てて見下ろしてくるネフィ。最初に見た時より苛立ちは消えていた。
「ハイネやユーリの怪我は大丈夫なの?」
「アシェリーだって殺す真似はしない。致命傷も避けていたからな」
「良かった」
「ただ、な」
この騒動のせいで一時的にハイネ、ユーリの二人はアシェリーだけではなくネフィやソラとの接触を禁じられた。魔王の血族が住むフロアから出られない結界をレオンハルト団長が貼ったので突破される心配はない。挑発されたからとは言え騒動を起こした一端たるアシェリーもレオンハルト団長からお叱りを受けた。が、こっちは謹慎も移動の制限もない。
「自分の息子だからってレオンハルト団長に非難がいきそう」
「いや?寧ろ、頭を冷やすのはハイネやユーリの方だ。アシェリーは苛立ってはいても直接誰かにぶつける真似はしていない」
「あの二人が苛立っているのは私のせい……なのは分かってるよ」
分かったところで魔界には戻らない。
……ふと、もうじき魔界に訪れる『虚』を知っているかとネフィに問うた。
「知ってる。イグナイト公爵から聞かされた」と返された。
「ネフィ、あのね……」
私達がいる王国でもうじき『祝祭』という祭事があること、今年は次期神が天界から降りてくること、千年に一度の『虚』の期間を狙って天界側が母様やアイリーン、私を狙って魔界を襲撃する計画を立てている旨を伝えた。話を終えると難しい表情を見せるネフィはとある旨を聞いてきた。
「シェリー様は分かるとしてお前やアイリーンを狙う意味は?」
「ウアリウスやシルヴァ公爵の予想だけど……」
元々母様には『感応増幅能力』という特別な能力があり、天界側が執拗に母様を狙うのはその能力が私やアイリーンを産んでも失われていない事、娘の私達にも遺伝している可能性を狙って母様と揃って『虚』の期間中で攫おうとしていると説明した。因みに私が母様の『感応増幅能力』を受け継いでいるとも加えた。
「……レオンハルト様は、始祖のじいさんがアフィーリアを連れ出したのはその能力があるからだって言ってたぜ」
「それもあるかもしれないけど利用するなら積極的に私に使わせようとする筈だよ。ウアリウスは私に使い方を教えただけで強制的に使わせたりはしなかった」
能力を引き出されたのは魔界を出る時の一度だけ。以降は徹底的に能力の制御方法を私に叩き込んだ。完璧とは言えなくてもある程度の操作は可能になった。
「それとね、もう一つ」
これはネフィを一番驚かせるだろうなあ……なんて呑気に考えていたら、本当にそうなった。天界側が魔界を襲撃する前に私達が天界を襲撃する計画を立てていると知らされたネフィに盛大に呆れられ、立てていた両肘を退かしてまた私の胸に顔を埋めた。
これ以降、ネフィは何も話さなかった。何度か名前を呼んでも返事をしないから私も黙るしかなかった。
天界を襲撃する計画は無茶ぶりだって呆れられたのかな……。
なんとなく青い髪に手を伸ばしたら、想像以上にサラサラでちょっとイラっとした。手入れに力を入れてる風には見えないのにこのサラサラ具合……。
「……」
撫でても何も言わない。
撫でるのを止めて手を離そうとしたら「いい、そのまま撫でてろ」と言われてしまった。
「次期神を狙うなんて考え……誰だよ、最初に言い出した奴」
「ベルベットだけど、ウアリウスやシルヴァ公爵に提案したのは私」
「始祖のじいさんやシルヴァ公爵がいるから成り立つ計画だわな」
「天界には、ウアリウスを崇拝している天使がいるから、天界の内情にも詳しいんだ」
身内から虐められていたところにウアリウスと出会い、敵対関係であるのに始祖の魔王たる彼を崇拝してしまった天使の心情は分からなくもない。きっとウアリウスからすると利用する価値があったから生かしただけで無ければ無慈悲に殺していただろう。
ネフィの髪を撫で続けていたら、体を抱き締める腕に力が込められる。「ネフィ」と呼んでもまただんまり。手を止めたら催促されるだろうからこのまま続けた。
——アフィーリアに髪を撫でさせ、胸に顔を埋めてその柔らかさと温もりを感じているネフィ。内心アフィーリアに夢の世界限定と言えど、会えることに満足感を得ていた。
ずっと此処で、夢の世界に閉じ込めて独占していたい欲がない訳じゃないが外で自由に動き回るアフィーリアがいつも楽しそうにしているのを知っているせいで踏み込めない。
なんだかんだ言いながら強く拒絶されないのを良い事に暫くアフィーリアを抱き締め続けた。
読んでいただきありがとうございます。




