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96話 賭ける価値はある②

 

 熾天使で作られた『浄化結晶』がウアリウスの掛けた忘却の魔術からレオンハルト団長やシルヴァ公爵を守ったのなら、次期神で作った『浄化結晶』なら私の中にあるリリスの種をどうにかするのでは、というベルベットの提案を早速ウアリウスとシルヴァ公爵に相談しに二人がいるサロンに行くと、丁度その話をしていたらしくてこっちにおいでと誘われウアリウスの隣に腰掛けた。



「末っ子も良いところに目を付けたね。確かに次期神となる王子の聖なる力で『浄化結晶』を作ってしまえば、アフィーリアの中にあるリリスの種を消滅とまではいかなくても半永久的に成長を停止させられるかもしれない」

「消滅はさせられないの?」

「それをするには、アフィーリアの体のどこにリリスの種があるか探さないとならない。君の全部の臓器を弄って良いならしようか?」

「断固お断りします!」



 グロいのは本当に無理なんだって!



「言ったおれがこれを言うのはなんだけど……いくらフィーが天界の姫を母親に持つからって次期神の聖なる力と同等の『浄化結晶』を身に着けて危険はないの?」

「直接体内に注ぎ込む真似をしない限りは安心だよ」



 曰く、もしも完全にリリスの種を消滅させるなら、私の体の何処にあるのか見つけるか、或いは『浄化結晶』に宿る聖なる力を直接私の体に流し込んで消滅させるかのどちらしかない。但しどちらも非常に危険な賭けとなる。

 前者は体の中を開いて臓器や脳味噌というありとあらゆる内部をくまなく探さないとならず、後者は半分魔王である父様の血を引いているから猛毒に等しい聖なる力を流し込まれると途轍もない激痛に襲われる羽目になる。

 安全な方法は『浄化結晶』を身に着ける以外にない。



「天界側はまたとないチャンスを生かそうと魔界へ進軍するでしょうな」

「だろうね」



 さっきベルベットが言っていた内容だと確信し、二人に聞くと頷かれる。



「たとえ、アフィーリアやアイリーンを産もうと天界の姫の『感応増幅能力』は消えていない。二人の娘の内、どちらかが姫の能力を受け継いでいても不思議じゃないと天界側は君やアイリーンも攫う対象に入れているんだ」

「もしも、『虚』の期間中に天使が進軍したら魔界はどうなるの?」

「大量の悪魔が狩られる羽目になる。魔力なしの戦いとなると……ホワイト伯爵家の出番かな」



 ホワイト伯爵家と言えば私の侍女をしていたセリカの……。



「とはいえ、群を抜いて身体能力が優れているのはティフォーネ殿やセリカ殿だけ。たった二人では、上位天使が攻めてくると苦戦を強いられますぞ」

「ふむ……」



 天界側は絶対に大軍を率いて魔界へ侵攻する。いくら魔力がなくても強いと言えど限界はある。それも二人だけとなると圧倒的に数で言うと魔界側が不利になる。此処に来るまでベルベットにした提案を考えるウアリウスに出してみると呆気に取られた表情をされた。シルヴァ公爵も。


 へ、変なこと言っちゃった……?って不安になっているとシルヴァ公爵の深緑の瞳がキラリと光った。



「そういえばウアリウス様。貴方が所持している天使は、天界でもかなり特別な天使でしたな?」

「特別って?」



 訊ねるとウアリウスが所持している天使は特別な天使と言われ、現在四大天使と呼ばれる熾天使が五大天使であった時代の象徴で最も神に近いと恐れられた熾天使だとか。



「私やガルディオス殿も見たのは二度くらいだったかな」


「そんなすごい天使をどうやって?」とウアリウスに向いたら、始祖の魔王の首を神への土産にしたかった件の熾天使に襲撃され、返り討ちにした後脳を弄って所有物にしたのだ。



「神に絶対的な忠誠心を誓っていたからね、僕に負けた時は殺せって喚いていたなあ。ふふ、魔族に隷属させられると分かった時の絶望した顔は何度思い出しても面白い」

「うわー悪趣味」

「悪魔だからね」

「そうだよねえ」



 忘れそうになっちゃ駄目だけど今この場にいる面子は全員悪魔だ。私も含めて。



「天界へ乗り込んで次期神を直接殺しに行く、か。王国に降りて来るのを待つよりかは手っ取り早いね」

「『祝祭』を待っていたら『虚』の期間に入っちゃかもしれないからね。そうなる前に手を打ちたいの」



 少しでも魔界への危険が遠くなるなら打てる手は打ちたい。ウアリウスとシルヴァ公爵は視線を交わせ、暫し黙った後、ウアリウスが私の頭に手を置いた。



「分かった。それでいこう」

「いいの?」

「僕も偶には真面目に運動しないと体が鈍るからね」

「運動って」



 軽い二文字で済ませていいのかな?天界への襲撃を。

 次期神を殺して『浄化結晶』を作るなら、作戦を立てる必要性があり、これについてはウアリウスとシルヴァ公爵に任せる運びになった。


 一旦、私とベルベットはサロンを出た。



「良かった。二人が話を飲んでくれて」

「始祖のじいさんの場合は、最後に言った通りなんじゃない?」

「運動?」

「うん」

「ま、まあ、ウアリウスが乗り気で助かったよ」



 理由がアレにしても……。



「父上にしたって、今母上が八人目を妊娠中だから上位天使の羽が欲しいんだろう」

「どうして?」

「力の強い天使の羽は魔除けにもなるんだ。特に妊婦にはね。胎内にいる赤子を守護する力がある」

「魔族でも有効なんだ」

「おれを身籠っている時も渡してたって言ってたから、子供達全員そうなんじゃない?」



 魔族を目にした天使が聖なる力を高めた瞬間に殺して羽を剥ぎ取るらしくて、愛情深いのは良いとして方法がエグイ。毒も使い方次第で良薬となるのは前世でも同じ。魔族が天使にとって良薬になる事はなくても、逆となると違ってくる。



「フィーはこの後どうする?」

「街へ行きたい気分でもないし、ウアリウスに魔術の特訓をしてもらいたかったけどそれも気分じゃなくなったし、……寝る」

「寝るんだ」

「寝たい時に寝れるって最高だよ」

「一緒に寝る?」

「やだ」



 隙あらばキスをしてくるんだもん、隣で寝られたら何をされるか。

 即答したらジト目で睨まれるけど断固拒否した。「はいはい」と拗ねた声色で諦めてくれた。と思ったら間違いだった。


 いきなり後頭部に手を回され、そのまま顔をベルベットに引き寄せられキスをされた。周囲に誰もいないからっていきなり過ぎる。

 魔力を奪わず、触れるだけのキスをするベルベットが少し顔を離した。



「おれはフィーが好きだよ」

「魔力が強いからでしょう?」

「女の子として好き。おれと同じ事思ってるのは多分他にもいるよ」

「……」



 ふざけていない、真剣な眼差しで言われてしまうと何も言えなくなる。目を逸らしたくてもベルベットの瞳がさせてくれない。もう一度、触れるだけのキスをしてベルベットは離れた。



「案外、あの王子様はフィーが好きなんだと思う」

「王子様?」

「第一王子様」

「まさか、ユーリは私が嫌いだよ」



 私自身がよく知っている上、ユーリが好きなのはアイリーンだ。子供の頃から見てきた私が言うんだから間違いない。


 ベルベットは些か不満げではあったものの、私がそう言うならと一応納得してくれた。寝ると言ってしまった手前、出掛ける気にもなれず、本当にウアリウスの寝室に入った私はベッドに飛び込んだ。私室でも良いけど誰にも邪魔されず寝るならウアリウスの寝室となる。私のベッドよりフカフカで寝心地が最高。

 枕に頬を乗っけて思う。



「私にアイリーンのお姉ちゃんを名乗る資格はなくても、妹を守る為なら出来る事は何でもする」


 


 


 


 ●○●○●○


 



 ——同じ頃、魔王城にある魔王の寝室に眠るロゼを側で見守るシェリーは温もりはあってもピクリともしない手を握り続けていた。眠り続ける理由は夢魔による干渉。アフィーリアの記憶を取り戻した直後から、怒りを増幅させ暴走寸前だったロゼを止める為の苦肉の策としてレオンハルトがネフィに夢の主導権を握らせた。夢魔であるネフィが主導権を放棄しない限りロゼは眠り続ける。



「ねえロゼ……貴方に黙っていた事があるの」



 深い眠りに就いたロゼには聞こえない。聞こえないからこそシェリーは紡ぐ。



「私……アフィーリアを覚えていたの。覚えていたのに、ロゼやアイリーンに、誰にも言わなかった」



 始祖の魔王が魔界全土に掛けた忘却の魔術は、天界の姫であるシェリーには効果がなかった。突然皆の中からアフィーリアの存在が消え、初めこそ混乱したシェリーであるがアフィーリアの部屋へ向かった際、扉の前でレオンハルトとシャルルの会話をこっそりと聞いて大体の状況を把握した。

 魔界にいる悪魔の記憶からアフィーリアという存在は消えた。二人がいなくなったのを確認後、そっとアフィーリアの部屋に入った。


 アフィーリアの好みやアフィーリアに似合うだろうとシェリーが選んだ家具も壁紙も全て消えていた。そこにアフィーリアが暮らしていた形跡は一つも。



「アフィーリアが人間界へ行きたがっていた理由を聞いたの。自分勝手だってユーリやハイネは怒っているけれどロゼはどう思う?」



 理由を聞いたらロゼも怒るだろうか、それともリエル達のように厄介極まりないと頭を抱えて静観する側に立つだろうか。

 きっとロゼは無理矢理連れ戻して自分でどうにかしようとする。始祖の魔王を嫌っているとしか知らず、実際にどんな出来事があって嫌っているかまではシェリーも知らない。双子の片割れたるリエル曰く「親子喧嘩を永遠に続けているだけ」と苦笑交じりに語っていた。



「親子、喧嘩……」



 生まれた時から特別だったシェリーは父親以外との異性の接触を厳禁とされていた。婚約者と言われていたラファエルとて同じだった。確か、兄がいたとも聞いていたが此方も会っていない。

 家族で顔を知っているのは父と母だけ。ただ、父も母も滅多に会いに来なかった。シェリーの側にいたのは世話係と監視役のみ。友人だって一人もいなかった。時が来たら決められた婚約者と結婚させられ、強い天使を産む人生を送っていただろう。実際、お前の役割は強い天使の子を産む事だと神である父に言われ続けた。疑問を持ちながらもシェリーも自分の人生はそうなのだと思い込んでいた。


 ロゼが天界へ来るまでは……。



「ロゼ……」



 ロゼもアイリーンもアフィーリアも今の自分にとって必要不可欠な大事な人達。一人でも欠けたくない。

 天界の姫であった自分が母としてアフィーリアに出来る事は何か。アフィーリアを助けられる方法はないか。



「ロゼ、待ってて。必ずアフィーリアを助ける方法を見つけるからね」



 握るロゼの手を離し、寝室を出たシェリーが書庫室へと足を向き掛けた時。後ろから「シェリー様!」と呼ばれる。

 マファルダだ。



「アイリーン様が!」



 訳を聞き、急ぎアイリーンがいる会議室へ突入したシェリーが目にしたのは、泣きながらアフィーリアの所に行きたいとレオンハルトに訴えるアイリーンだった。困ったようにアイリーンを見下ろし、胸元を叩く小さな手を握ってそっと返すと「アイリーン嬢」と金色の頭を落ち着くようにと撫でた。



「気持ちは分かるがアフィーリア嬢の現状無理に魔界へ連れ戻しても問題は解決しない。また魔界から逃げようとあの子は動くだけになる。側に始祖のジジイがいる今が一番安全なのだよ」

「姉様の側にいるのが私達のお祖父様なら、尚更姉様を助ける術を探すべきです! 姉様が魔界に戻らないなら、私も姉様の所に行きたい、姉様の側にいたい!」

「人間界と魔界を繋ぐ扉に鍵が掛かっている以上、今は人間界へは行けない。辛抱してくれ」



 そう。アイリーンがどれだけ頼んでも二つの世界を繋げる扉がウアリウスによって施錠されている現状どちらの世界も互いを行き来不能となってしまっている。内心、天界を経由して人間界へ行けると知っているレオンハルトだが勿論アイリーンの前では口を滑らせない。

 嫌だ、姉様、と泣くアイリーンに近寄り肩を抱いたシェリーは「アイリーン」と呼ぶ。



「お母様と部屋に戻りましょう。レオンハルトを困らせては駄目よ」

「姉様に会いたいんです……っ、母様だって姉様に会いたいでしょう?」

「アフィーリアに会いたい気持ちは私にもあるわ。でも、アフィーリアが魔界から出たがっていた理由を聞いたらアフィーリア自身が戻ると決めるまでは待つ事にしたの。無理に連れ戻したってレオンハルトの言う通り、アフィーリアなら何度でも逃げ出そうとするから」

「母様までっ」

「アイリーン。今はアフィーリアを思い出したばかりで混乱してしまっているのよ。まずはゆっくり休みなさい。泣いてばかりいると何時まで経っても落ち着けないわよ?」

「……」



 優しく、冷静に、涙を零す次女を諭した。渋々、首を縦に振ったアイリーンに安心し、様子を見ていたマファルダにアイリーンを託し会議室を出て行かせた。残ったシェリーはレオンハルトに振り向き、自身の記憶からアフィーリアが消えていない旨を伝えた。瞠目する黄昏色の瞳に苦笑しつつ、心当たりを口にし、なるほどと納得された。あくまでも魔界全土に住む悪魔が対象であってシェリーは天界の姫で悪魔じゃない。魔界にいても対象外とみなされたのだ。



「アフィーリア嬢を連れ戻す気はないのか?」

「うん。アフィーリアはロゼと一緒よ、一度そうと決めたら考えを変えない。あ、あの子がちゃんと安全な場所で暮らしていると知ったからそう思うだけだよ?」

「まあ、始祖のジジイ以上に打ってつけな保護者がいないのは事実だからな……」

「アフィーリアのしたいようにさせてあげたい。もしも、魔界に戻って来たらお帰りなさいってアフィーリアを抱き締めてあげたい」



 理由を語られなかったのは信用がないからじゃない、アフィーリア自身どうしようもなかったからだ。方法がないのなら、危険が減る人間界へ行った方がマシだと考えたのだ。



「ロゼが聞いたら苦い顔をしそうだ」

「ロゼは過保護で心配性なのよ。アイリーンの事は私に任せて、すぐには無理だけれど落ち着かせて見せる」



 時間を掛けて諭せばアイリーンもきっと何時か理解をしてくれる。

 レオンハルトと別れたシェリーは会議室を出てアイリーンの部屋へと向かうも、途中で血相を変えて走るマファルダと遭遇した。



「どうしたの?」

「そ、それがアイリーン様が部屋を飛び出してしまわれて」

「何処へ行ったか分かる?」

「魔力の気配を辿った感じからすると恐らく——」


 


 


 マファルダと部屋に戻ったアイリーンだが、やはりアフィーリアを諦めきれず制止を振り切って部屋を飛び出した。向かう先はネフィ達がよく利用するサロン。魔力の気配がするから三人はいる。

 ノックも無しに勢いよく開けた先に広がる光景に唖然とする。



「アイリーン? どうしたんだ」

「どうしたって……ソラ……なんでハイネが……」



 魔力を上昇させていたのかアシェリーの体からはバチバチと静電気が鳴り、足下にはハイネが血を流して倒れていた。側にあるソファーに腰掛けたままのネフィとソラは突然のアイリーンの登場に視線を向けるだけで動く気配を見せない。


 アフィーリアの記憶を取り戻してから魔界の平穏が崩れつつあると誰もが肌で感じている……。




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