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95話 賭ける価値はある①


短めです。

 



 千年に一度、魔界を襲う『虚』は全ての悪魔の魔力を極端に弱らせてしまう。期間は約一月程。詳細を聞くと人間界にいる悪魔も弱体化の対象となる。一月後と言えば、王国では毎年恒例の祝祭が始まる。しかも今年は、次代の神となる天界の王子が王国に降りるとウアリウスが言っていた。


 タイミング的にどれも最悪。



「はあ」

「溜め息なんて吐くと幸せが逃げるよ」

「ベルベット」



 自分の部屋に戻って一人掛けソファーに座った直後に吐いた溜め息は、いつの間にか入っていたベルベットにばっちりと聞かれていた。



「タイミングが悪いなって」

「案外、天界側はそれを狙って次代の神を人間界へ寄越すんじゃない?」

「どういう事?」

「悪魔の力が極端に弱まるのなら、人間界にいる悪魔を殲滅するのだって不可能じゃない。人間界へ降りた後、魔界に行って大量の悪魔を屠るのもね」

「!」



 天界側にとってはまたとないチャンス。ましてや魔界には、天界の姫だった母様がいる。私が子供の頃、一度熾天使が母様を攫った事もあり、天界側が未だ母様を連れ戻す機会を窺っていると知っている。更にもう一つある。



「これはさっき父上と始祖のじいさんが話していたんだけど……魔界の姫を狙っている可能性もあるって」

「え?アイリーンを?」

「君もだよ」

「あ、そっか」



 あくまでも私を忘れていたのは魔界に住む悪魔だけであって、人間界で暮らしている悪魔や天界側は除外。魔王の血を引くと言えど、半分は母様の血を引く二人の姫を神やその王子達が狙っているという情報をウアリウスが得ていた。



「どうも、始祖のじいさんを崇拝している天使がいるみたいで情報源はそこから来ているみたいなんだ」

「天使なのに魔族を?」

「うん」



 聞くと出会ったのは約二百年前くらいで件の天使は長年天界で不遇な扱いを受けていて、任務で単身人間界へ降りた際ウアリウスに出会った。神をも凌駕する美しさに相手が魔族だと忘れ、天使の方がウアリウスに夢中になったのだとか。



「美形って有利だよね……」



 チラリとベルベットを見やる。魔力量に応じて容姿が決まる悪魔。美しければ、美しい程悪魔の強さが分かる。



「なあに?おれの事も美形って言ってくれるの?」



 首の後ろに手を回され、顎に触れて上を向かされる。顔を近付けたベルベットの口を自分の手で防いだ。不満げな紫水晶の瞳に私も半眼になって対抗した。



「隙あらばキスする」

「君に求愛しているんだよ」

「末っ子でもシルヴァ家は大貴族なんだから、もっと身分の良い相手がいるでしょう」

「あのさ、フィーや王女様以上に身分の良いご令嬢って何処にいるの?」

「あ……」



 忘れてた……一応記憶が戻ったから魔界の王女として認識されていたんだっけ。呆れ顔のベルベットから視線を逸らしつつ、無理矢理話題を元に戻した。『虚』の期間に入る前に天界への対策を考えようとベルベットの口から手を離すと逆に空いている手で掴まれてしまう。



「対策ねえ……魔界には父上と同じ歳のイグナイト公爵がいるんだし、人間界にいるおれ達が真面目に考える?」

「でも、人間界にいる悪魔にも影響はない訳じゃない。例えば、悪魔に構う暇がない程のダメージを天界に与えるとか」

「誰がするの」

「私!」



 母様の血を引いている私なら天界へ足を踏み入れても大丈夫な気がする。呆れ顔のままだが、考える素振りを見せたベルベットが此方を向いてとある提案をした。



「伯父上や父上がフィーを覚えていたのは、天使の聖なる魔力で作る『浄化結晶』を持っていたからだって聞いたんだ。熾天使で始祖の魔王が掛けた魔術を防げるなら、次代の神っていう王子で『浄化結晶』を作ればフィーの体の中にあるリリスの種もどうにか出来るんじゃない?」






読んでいただきありがとうございます。



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