92話 知っているから、信用出来る
「もしも、お前が本当におにばばみたくなっても嫌ったりしない」
「え」
「さっき言っていただろう。魔王に嫌われるのが嫌だって」
「う、うん」
大好きな父様に嫌われて、捨てられて、処分されると知り自棄になったアフィーリアが最後に取った行動がアイリーンの殺害だった。前は寸でのところで自我を取り戻して自殺したものの、それ以前は攻略対象者達にえぐい方法で殺されていた。
「誰だって人に嫌われて嬉しがる奴はいない。お前がおにばばになっても、お前を見捨てたりしない。俺以外にもお前を見捨てるような真似をしない奴はいる。そう怯えなくていい」
安心しろと言いたげな触れるだけのキスをされる。どうしてかな、信じられるって気持ちがどこからか溢れる。
乙女ゲームの時のネフィのルートは確か……アシェリーと同じで愛憎ルートじゃ、ネフィもアフィーリアが好きだったんだ。純愛、愛憎どちらのルートでもアフィーリアを嫌っているのがユーリとハイネで、愛憎ルートだけアフィーリアが好きなのはアシェリーとネフィ。ソラは確か、どっちも嫌ってない設定だった。
アシェリーのバッドエンドもえぐかったけどネフィも中々すごかったのを思い出した。
二人とも共通するのは、アイリーンの安全の為に先走ったユーリによってアフィーリアが殺される点。アシェリーの場合は、最後の最後自我を取り戻したアフィーリアが好きだったとアシェリーに告げ、アイリーンの中から自分という存在を消して死んだ。
ネフィの場合は……そう……ユーリに致命傷を負わされ、瀕死のアフィーリアを見つけたネフィとアイリーンが駆け寄るとスチルが出る。血塗れのアフィーリアとアフィーリアの体を支えるネフィの。
『アフィーリア……!待ってろ、今すぐに治療を』
『い、いよ……。それより、ネフィに、言いたいことが……あるの』
『黙ってろすぐに怪我を治してやるからっ』
『私の……好きな人はネフィだよ。ずっと言いたかったの……、ネフィが好き』
『……っ』
今となってはリリスのせいだと分かるけど、序盤から終盤までユーリに執着し続けたアフィーリアが死ぬ間際になって本当は誰が好きだったかを告白するシーンは目頭を熱くした。アシェリーの時もだけどスチルがあったから余計泣きそうになった。
私自身の好きな人はネフィだと告げ、アフィーリアの瞳は閉じられた。死んだと絶望するアイリーンと違い、体を支えているネフィはまだ微かに息があると知ってアフィーリアの怪我を治療している間、呆然とするユーリと絶望して泣いているアイリーンに言い放つのだ。
『なあユーリ。お前にいいもの見せてやるよ』
夢の世界でしか主導権を握れないと思われがちな夢魔の力だが、実は現実世界でも通用する能力があった。泣いているアイリーンを無理矢理立たせ、ユーリの近くへ放り投げた。怒るユーリの身に異変が起きたのはすぐ。本人の意思とは関係なくアイリーンを襲い始めた。
愛憎ルートのバッドエンドは攻略対象者の好感度を最高にし、分岐点でバッドエンド直通の選択肢を選ぶことで発生する。普通好感度最低で発生しそうなものだけど、敢えて最高にするのはプレイヤーの心を折る演出。まさかバッドエンドに行くとは誰も思わないだろうから。
好きな人の目の前で犯され心が壊れたアイリーンに愛おしそうにアフィーリアを抱き上げたネフィが笑むのだ。
『お似合いだぜ、アイリーン。お前だって本望だろう?お前に及ぶ害を排除してまでお前を守ろうとするユーリに抱かれて』
『ユーリの精神体を完全に支配した。二度とお前の意思でお前の体は動かない。精々、長い時間をアイリーンを愛する為に使うこった』
勝手に動く体はアイリーンを犯し、心はネフィに対する憎悪と絶望に染まったユーリも泣いていた。愛するアイリーンを無理矢理襲っている事に。
夢の世界にいる精神体を完全支配すると現実世界の肉体さえも完全支配が成される。術の解除方法は夢魔自身が解除しないと永遠に操られたまま。
アシェリー、ネフィに限って愛憎ルートのバッドエンドではヒロインが入れ替わってない?とネットでも話題になっていた程だ。
「ネフィはアイリーンの事をどう思ってるの?」
「アイリーン?」
「うん」
急な質問でもネフィは嫌な顔をせず、考えた後「アイリーンは王女様って感じだな」と答えた。額はまだくっ付けたままだから顔の距離は近いまま。恥ずかしさは健在でも慣れてきた。
「お前達の遊び相手として魔王城へ行っていた時から、アイリーンは根っからの箱入り王女だなとは感じてた」
「私も箱入り王女だったじゃない」
「お前の場合はじゃじゃ馬の間違いだろう」
「失礼ね!」
「事実だろ」
そうだとしても失礼よ!
むすっと膨れて見せたら、青の瞳を細められ優しく見つめられて次の言葉が出せない。あまりに優しい瞳で見られては私でも言葉が出なくなる……。
「お前はお前、アイリーンはアイリーン。それでいいだろ」
「……うん」
「お前がおにばばになろうが何になろうが味方でいてやる。これだけは覚えてろ」
「うん」
確証がなくてもネフィの言葉を信じられるのは、過去の記憶をウアリウスから見せられた際、子供の頃から側にいてくれたと知っているからだ。純血の魔族ではなかったからこそ、リリスの脅威と支配からアフィーリアを助けられるようにとレオンハルト団長に守護の術を掛けられたネフィとアシェリー、ソラだけが味方だった。ベルベットもアシェリーから話を聞いて手伝ってくれていた。
見るだけで泣けるから過去の記憶はあまり見ないようにしていたがこれからは少しずつ見せてもらおう。きっと、リリスの支配から完全に逃れるヒントくらいある筈だ。
「おやすみ、アフィーリア」
まるでおやすみのキスのように唇に口付けられると強い睡魔が襲った。
「んう……」
眩しい……夢の世界でネフィに眠らされた後の目覚めは意外にすっきりとしているっぽい。隣に誰かいるな、と感じ、瞼を上げたら寝る前にはいなかったウアリウスとバッチリ目が合った。
「おはよう……ふあ……」
「ぐっすり寝ていたねアフィーリア」
「ウアリウスは何時から?」
「夜中が回ってから君の隣で寝たよ。ついさっき起きたばかりなんだ」
「そっか。朝ご飯の時間だから起きなきゃね」
「そうしよう」
二人同時に体を起こし、う〜んっと腕を伸ばす。
今日からはシルヴァ公爵とベルベットがいるのか……と同時に別のとある事を思い出した。
「あ」
「どうしたの」
「来月、毎年恒例の『祝祭』があるね」
「あるね。今年は特別なものになるから、王国側も気合を入れるだろうね」
「なんで?」
「今年は次期神となる王子がこの国に降りるからさ」
嘘!?
「ホントだよ。次期神として、祝福を授ける国を見に来るのさ」
「うわあ……絶対に正体バレちゃいけないやつ」
「僕達全員ね。特にアフィーリアは」
「なんで」
「天界の姫の娘で唯一、姫の『感応増幅能力』を持っているからさ。バレたら確実に奪いに来るよ」
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