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05 チュートリアル

 中に浮かぶ小さな太陽で照らされた洞窟内を、五人は進んでいた。


 先頭にはパワードスーツのような装備と大きな盾を二枚持った男性。

 その少し後ろに白の頑丈そうなローブを着た男性と、背中に刀を二本差したメイド服の女の子。

そして最後尾に作業着の男女がメモやカメラを持って進んでいた。


 何も知らない人が見れば何事だと思うような組み合わせ、コスプレ大会の会場に向かう途中かと思うだろう。


 初めての探索に気を抜くわけには行かない藍たちは、ゲームだったときの、割とガチ目な装備で探索に望んでいた。


 実はここに来るまでに装備の装着テストが行われている。

 ゲームだったときは、メニューからコマンドで装備を選択すると、その装備を小着することができた。

 また、装備を一括で切り替えるスキルなども存在していた。

 それがどうなったか。


 DCDの実験で、そのスキルなどはゲーム時代と同じく使用することができ、ショートカットキーも存在していた。

 詳しく言うと、通常の服装から戦闘時の装備に切り替えるのは一瞬だった。

 スキルを使用する際は使いたいスキルをイメージしながらスキル名を宣言することで使用することができた。

 スキル使用時の動きは体に染み付いているようだった。


 そんなわけで、装備の入れ替え自体簡単になったけど、やはり不意打ち対策としても、常に戦闘用装備をしたまま、探索をしていた。


 若干一名、探索する格好ではないようにも思えたが……


 ちなみにDCDから来た二人は作業着が戦闘用の装備だ。

 見た目に反して、結構強い。


 そうこうして、洞窟に入ってから二十分弱が経過した頃、ついに状況が動く。


「警戒!エネミー出現!」


 声を上げたのは本探索部隊の索敵担当の幸だ。


「位置は?」

「地面の中を移動中、動きから見て敵意あり」

「さて、この洞窟内で地下を移動できるモンスターといったらなんだ?」

「なんか蛇みたいなやつがいたな」

「ミミズじゃなくて?」

「あんま気持ち悪くないものがいいな……」


 藍としずく、そして幸が会話を交わしている間に、エネミーはどんどん近づいてくる。

 藍たちが会話しているのは、単に暇だったからではない。

 会話を重ねることでお互いのリズムを合わせ、より精密に連携を取れるようにするためだ。

 そしてついに、エネミーは姿を現す。


 ドゴォゥォーーンー

「シャーーー」


「いきなり大物だな。しずく!」

「了解!」


 地面に大穴を空けながら現れたのは「ヘイモス」だ。

 ヘイモスは2~3体グループで活動することの多い生物で、常にプレイヤーに対して敵対状態にある。

 今回は一体だけ現れたようだ。

 容姿を現すのなら、岩蜥蜴がふさわしい。

 レベルは50~70と高めである。


「グォォォォゴゥォォ」


 そのヘイモスは現在しずくをターゲットしている。

 最も位置が近く、真正面に立っているからだ。

 そして。


「ヘイト!」


「ジャァーーー」


 今しずくが使ったヘイトというスキルは名前の通り、周囲の敵対生物のヘイトを集め、ターゲットを自身に固定する、主に前衛防衛職が使用するスキルだ。

 「ヘイト系」スキルの中では初期レベルのスキルだったが、今回はそもそも使用する必要が無いほどだったため、それで十分に足りた。

 むしろ何かあった時用に、最初は弱めなものから使用すべきだ。

 もちろん状況によるが、今回は正解だった。


 ヘイトを使用したことによりヘイモスは完全にしずくに注意を向けていた。

 しずくもまた自身とヘイモスの間に盾を挟み、両者間でにらみ合いが続いた。


 ヘイモス側は自身よりレベルの高い相手を前に警戒しているが、しずくは警戒とは別に、にらみ合いを続けている理由がある。

 記録だ。

 DCDの二人が記録をとりやすいよう、立ち位置を変えながら、ヘイモスに攻撃されるか、されないかのぎりぎりのラインで動いている。

 初めての実戦でここまでできる者はそう多くはいないだろう。


 しずくは藍とMWFをプレイして、初心者の期間が過ぎた頃ある約束をした。


「じゃあぼくは後方に徹しよう。ぼくの前にいる仲間はぼくが絶対に守る。だから君は、ぼくの無茶振りすべてに答えてくれ」


 しずくは藍の言った言葉をしっかりと守り、これまで藍の要求にはすべてこたえてきた。

 それこそ、MWF最高レベルのプロプレイヤー誕生と噂されるほどだった。

 実際は断ったが。


さて、話題を戻そう。


 記録が十分に取れたことを確認した藍は次の指示を出す。


「よし、もういいぞ」

「ほーい、次は?」

「うーん、とりあえず一人で軽く戦闘をしてみて。バフは無いから気をつけろ」

「了解!」


 そういって、しずくはヘイモスと戦闘を始める。

 本来であれば、安全第一ということで「ダメージ吸収系」のバフをかけるべきだが、今回はデータを集めるため、素の状態で戦ってもらうことにした。

 もっとも、しずくがこの程度の敵に遅れをとることは無いと確信しての判断だ。


 しずくはまず一歩大きく踏み込み、すぐにもとの体勢に戻り、防御体制を作る。

 急に接近してきた敵に対し攻撃をしようと体当たりしてきたヘイモスだったが、その攻撃は盾に阻まれる。


「ダメージは230位か」


 しずくのステータスを確認しながら藍がつぶやく。

 もし、しずくがしっかりと防いていたらおそらくダメージはほとんど通らなかったはずだ。

 だが今回は様子見で軽く受け流す程度だった。

 とはいえ、しずくのHPは17000強あるわけだから、今のダメージも微々たるものだ。


「あの巨体の体当たりを食らった割にはそこまでの衝撃じゃなかったな」

「どんな感じだ?」

「よそ見してたら着ぐるみにぶつかった時感覚かな?」

「それな……どうなんだ?」


 こうして藍としずくがやり取りしているときにも、ヘイモスは攻撃を続けている。

 さすがにずっとこのままやられっぱなしってわけにも行かないので、しずくも反撃をする。

 ヘイモスが攻撃してきたタイミングで盾をヘイモスに向かって突き出し、カウンターを狙う。


「グガィァァー」


 軽い反撃ではあったものの、攻撃を受けたヘイモスは新たな攻撃を仕掛けてくる。

 一旦盾と距離をとり、尻尾で地面をたたくとその部分が割れる。

 その際にできた石を再び尻尾でしずくの方に飛ばす。


「おっと」


 一旦地面を割る動作が入ったため攻撃はわかりやすく、簡単に防ぐことができた。


「さて、こちらもそろそろ本気を出すぞ」


そういうとしずくは一気にヘイモスに肉薄し、右手に持った盾を振るう。


「ヘビースイング!」


「グガハァァゥゥ」


 スキルを使った一撃はヘイモスに大きなダメージを与える。

 だが、それだけでは終わらせない。


「バックアタック」


 右での打撃の流れのまま、体を回転し、今度は左手の盾を振るう。

 シンプルな2連撃ではあったが、レベル差や装備性能のこともあって、かなりのダメージを与えることになった。

 それでも、まだ致命的なダメージとなったわけではない。

 しかし、どうやらこのまま行くと自分が負けてしまうことを予測できたのか。


「グァァァアァァアー」


「新たに反応、2」

「仲間呼ぶのかこいつ!?」

「遊びすぎたのかな?」


 そしてまもなくして、ヘイモスが新たに2体現れた。

 そもそもヘイモスは単体で活動することは少ないので、この状態の方が正しい。


「どうする?俺が全部ひきつけようか?」

「いや、1on1は今の位でいいでしょう。あとは神崎にたのむとして。ぼくたちは、集団戦と行こうか!」

「「了解!」」


 藍の号令に、しずくと幸が声を合わせて答える。


「さあ、第二ラウンドだ!」


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