04 初めての探索
説明のし忘れが多そう。
何か不明点がございましたら、コメントをしていただくか、
そのうち上げる用語説明をご覧ください!
「ゾーンが変わりましたね」
「UIはゲーム時と一緒か、まあ町での移動時にもあったけど」
洞窟内に入って数歩歩くと、UIの【ゾーン】の部分が『入笠の森』から『ダンジョン・深緑の洞窟』に切り替わる。
MWFにおけるゾーンは大きく分けて二つ。
モンスターなどの外的脅威が存在する「フィールド」と、街中や室内などの安全が保障されている「ホーム」の二つだ。
深緑の洞窟は当然フィールドに属するゾーンであるが、その中でも閉鎖的空間、出口や入口が限られた空間に入るため、「ダンジョン」という括りになっている。
「何も出てこないね」
ダンジョンに入り進むこと約二分、特に問題は起きない。
こういう場面での二分は意外と長く感じた。
はじめは緊張していて会話も無かったのだが、あまり何も無く進むため、藍が言った言葉から会話が始まる。
「このメンバーだと敵のレベルは最大90くらいなんだよね」
「だと思う。ぼくたちのレベルは95で、新井さんたちのレベルは73と66、パーティーは分かれてるから90も行かないと思うけど
新井さんと呼ばれていたのはDCDから来た二人のうちの男性の方だ。
今の会話は幸と藍のもので、二人はほぼ横に並んで進んでいる。
以前の有識者会議後、日本では「MWF対策本部」が設立され、DCDはその顧問部として協力体制ができた。
その第一回の会議で「MWF的事象の発生における対応マニュアル(仮名)」を作成し、一旦の対策方法を取り決めた。
その中に次のようなルールを決めている。
・強力なモンスターの生息地域付近の探索では、LV95を二名以上、または適正レベルのプレイヤー六人以上、もしくはLV90以上一名以上に適正レベル三名以上、また、高レベルエリアはLV95一名以上にLV90三名以上に合計六人以上、いずれも防衛職や回復職がいる状態で行うこと。
これはゲーム時代の高レベルプレイヤーから見ると過保護に見える対応だった。
高レベル帯ではLV90以上が複数いてほしいのはわかるが、それ以外のエリアすべてで規約通りの保護が必要なのか、疑問に思う者もいた。
しかし、ここには大きな問題があった。
それは、この世界はゲームではないということだ。
ゲーム時代では、モンスターとの戦闘などでHPが0になってしまうと、戦闘不能状態になり大会館に戻されるシステムになっていた。
では現代ではどうか、残念ながらそれを試した者はまだいない、いや、実際には試したがそれが知られていないという可能性もある。
とにかく、現代で何かあったときにゲーム時代と同じように生き返るとは限らない。
そう考えれば、このくらいの対策は必要だった。
また、神崎だけでなく藍も考量すべき点として、「この世界は本当にゲームのシステムが導入されただけとは限らない。我々が予想できないようなことが起きる可能性は十分にある」ということをあげた。
これにより最終的には、しばらくは厳重な警戒体制を敷くべきだという結論に至った。
それも踏まえて、今回の探索での陣形は前衛防衛職であるしずくが先頭を行き、その後ろを後方支援職である藍と遊撃を担当する幸がつく、そして最後方にDCDから来た二人がいる形だ。
探索系では、前後に前衛を置き、前と後ろからの両方の攻撃に備えるのが基本だ。
今回は後方にいる二人が高レベルである程度の戦闘が可能であるため、後方からの急襲にも、遊撃の幸が支援に行くまでは余裕を持って対応できそうと判断したのだ。
そして何よりも、幸の探索スキルはかなり高レベルなものとなっており、そもそも不意打ちを受ける可能性が少ないと判断されたこともある。
「あ、前方に敵」
洞窟に入って歩くこと五分強が経過したところで、この日初めての動きがあった。
幸の報告に全体は再び警戒を強め、詳細情報を待ちながら前進する。
幸の索敵能力は非常に優れているため、報告した時点ではまだ遠くにいると判断しての前進だ。
「そろそろ」
幸はこまめに敵との位置を報告する。
しばらく歩くと、
「見えた!」
「ファーライト!」
幸の合図に藍が魔法を発動する。
『ファーライト』とは名前の通り、周りを照らす弾を飛ばして、遠方の状況を確認する魔法だ。
ちなみに、ここまで来る道中でも、真っ暗な洞窟内を進むために予備の懐中電灯は使わずに「ライト」の魔法を使っていた。
「あれは、モゴンですね」
ファーライトに照らされて、敵の正体が明らかになる。
モゴンはモンスターの一種で、もふもふした硬い外皮を持つ不思議な生き物だ。
容姿はもこもこの羊に似ている。
プレイヤーを見つけても自分から攻撃はせず、逃げる行動もしない。
攻撃したらさすがに逃げるけど、反撃してきたりはしない。
かわいいやつだ。
一時期はマスコットキャラクターとしてグッズ展開されている。
いや、今もされている。
プレイヤー間ではモンスターではなく、動物と呼ばれている。
「いた……モンスター」
「ああ、やっぱりいるか」
「いやでもあれはまあ動物みたいなもんだし」
「それを言うんなら、他のモンスターだって気性が荒いだけで、動物ってことになるけど」
実際にMWFの生き物を確認でき、すべに大収穫なわけだが、さすがにこれだけでは物足りない。
DCDの二人も、さすがに提出する収穫が「もこもこがいた」だけでは、困るだろう。
「どうする、攻撃してみる?」
「いや、かわいそうだしやめておこう」
「うん、賛成」
ということでモゴンは満場一致で、スルーすることになった。
「ここらへんはまだ、平和なエリアだね」
「そうだな・・・少しテンポを上げるか?」
「・・・そうだね、好戦モンスターと鉢合うまでは、ささっと行ってしまおうか」
敵対モンスターではないことに安心しながら、先のことも考える。
慎重なのはいいことだが、無駄に時間をかけることになるのも、あまりよくない。一同は少し進行を速めることにした。
ちなみに、洞窟に入ってからはDCDのメンバー二人はしゃべっていない。
正確には二人間で、小声で話したりはするのだが、藍たちには聞こえないくらいの声だ。
作戦等はすべて藍たちが決めることになっている。
さらに五分ほど進むと、ついに敵対モンスターのいるエリアに到達する。
「警戒!」
幸の掛け声に全員が構える。
「これはおそらく、ララット」
ララットとはネズミがモデルになったモンスターで、レベルは10~40、個体性能で見れば底まで強くは無いが、かなり大勢の集団で活動する。
そのため、ここに勝てるステータスがあっても、全体と戦うとあっけなくやられてしまうこともある。
初心者の多くはこれに直面し、戦略というのを学ぶ。
「ララットか、どうする?」
「できれば避けたいね、面倒だ」
この三人に任せれば、低レベル帯のモンスターが何体来ようと大した問題ではない。
しかし、検証などのことを考えれば、できれば単体で闘うことのできるモンスターが良かった。
「じゃあ行くか。一本道だけど、襲ってこないよな」
「大丈夫だと祈っておけ」
ララットはレベル差が開きすぎているプレイヤーには先制攻撃はしない、または逃げる習性を持っている。今回最低レベルでも66はあるため、襲ってはこないと予想したのだ。
その予想は当たっており、ゲーム時代同様、藍たちを見ているだけで、必ず一定距離をとっていた。
しかし、一応は通りながらも警戒は欠かさずに行う藍たちの後ろで、DCDのメンバー二人は、必死にララットの各レベルの数や外見、気付いたことを記録していた。
動画もとっていて、今後の対策の資料として使われるのだ。
そしてララットゾーンを突破した藍たちは、更なる収穫を目指し、奥に進んだ。