03 ネコ耳が生えました!
有識者会議から約一週間が経った。
藍は今、長野県のとある山奥に来ていた。
ダンジョンらしきものが見つかったのだ。
「こちらです」
案内がいなければたどり着くのはきわめて困難に思える場所で、目の前にあるのは広い入り口の洞窟だった。
以前には無かったという。
「洞窟内に入るとゾーンが切り替わりますね、『ダンジョン・深緑の洞窟』、報告通りですね」
「ダンジョン・深緑の洞窟」、名前に「ダンジョン」とついているものは特別で、低レベルから高レベルまで対応したレベルデザインがなされている。
『マティフロ』の世界では多くのモンスターがレベル差の大きいプレイヤーにはよってこなかったり、見つけると逃げたりする。
そしてこの「深緑の洞窟」では、全レベル台のモンスターが出現し、プレイヤーのレベルにあったモンスターと出会える。
この特徴から、一般的にはスキルの試し撃ちなどに使われることが多い。
そのようなダンジョンが最初の調査目標になるのは、ある意味かなり幸運なことであるかもしれない。
「よし、予定通り『DO2』で行こう」
今回の編成はまだ休みである結城 藍と青葉 しずく、そして中学時代からともにゲームをプレイしている桜井 幸の三人だ。
本来であれば、いつも一緒にプレイしているメンバーがもう一人いるのだが、そちらは別件でこられなかった。
本人は来たがっていたが、今回の探索はそこまで難易度の高いものではないと判断して、三人で来たのだ。
といっても三人で洞窟を潜るわけではなく、記録要員としてDCDメンバーから二人来ている。
ちなみに『DO2』というのは陣形の呼び名で、一人の前衛守備職と二人の後衛支援職オペレーターが付く、第一種偵察編成に属する形だ。
「本日ははるばる来て頂いて、ありがとうございます」
「いえ、春休みでどうせ暇ですから。」
「旅行行事の一つだと思えば結構楽しいですしね」
DCDメンバーに話しかけられて、藍としずくが答える。
会話の中心は先からずっとこの三人だ。
というのもDCDからは男女一名ずつ来たのだが、男性の方が交渉・相談担当のようで、どうしても話すのは一人になりがちである。
一方、お互いが始めて会うもの同士では、少し人見知りする幸よりも先に藍たちが会話を始めてしまい、そうなれば男性同士で会話は行われるため、なかなか入れないでいた。
別に藍たちが積極的にコミュニケーションをする人間ってわけではなく、むしろ初めて会う人とはあまりしゃべらない方なのだが、誰かが会話を進める必要があるときではやはり、頭脳役である藍が担当することが多いのだ。
そんなこともあって、基本的に後ろで話を聞いているだけの幸だったが、実はついさっき、主役となって会話が進んでいたのだ。
──少し前──
山奥、といっても山道から徒歩五分ほどしか離れていない場所に、五人の姿があった。
いや、正確には四人と一匹といった方がいいかも知れない。
「動いた」
「そりゃ動くだろ」
「……」
四人が一匹に注目をして、五人が困惑していたのだ。
というのも、幸の髪と同じく、光が当たるとうっすら茶色に輝く黒茶色の毛並みに包まれ、内側は薄ピンク色の皮膚と髪の毛よりも少し色の薄い毛が生えているかわいらしい物体が、幸の頭の上にあったからだ。
どうみても猫耳である。
ことの始まりは歩きながら探索系スキルの話をしているときだった。
幸のゲームだったときのキャラの種族は「獣人〈ネコ族〉」だった。
MWFでは、ゲームの世界に転生するという設定で、キャラクリ時に種族を選択でき、各種族でそれぞれの特徴があった。
幸が選択した「獣人」は、獣人の中でもさらに種族が分かれていて、種ごとに細かな違いがあった。
ただ、獣人としての基本スペックは「基礎ステータスに長け、物理的戦闘を得意とし、魔法力に欠ける」というものだ。
そして、幸の属する〈ネコ族〉は、優れた聴力と視力に【暗視】効果があった。
ゲーム時代では、聴力と視力に優れるということで、索敵範囲が広く、暗視の効果で暗いところでもはっきりと見ることができた。
この能力があれば、今回の探索は簡単に済むという話をしているところで、ためしに実際に使ってみたところ、耳をそば立てると回りの音がよく聞こえたという。
そして同時に、本来の耳を残したまま、新たにネコ耳が生えてきたのだ。
ただ、生えてきたのが幸の頭の上ということで、最初幸はなんだかわからなかったが、違和感のある頭を触ってみると、そこには初体験となる感触があったのだ。
猫の耳を触ったこと自体はある。
ただそれが自分の頭の上にあり、さらには触られるのは初めての感覚だったため、本人も見ている方も軽いパニックになっていたのだ。
だがそれもしばらくしたら落ち着き、冷静に状況の把握を始めた。
結局、ゲーム中はずっとあったネコ耳が「獣人〈ネコ族〉」の頭についたことは自然なことであると考えて、落ち着いた。
すでに常識が意味を成していない。
「ねえ、触ってみてもいい?」
「え、あ、はい。たぶん大丈夫だと思うけど」
藍の問いかけに、幸は少しおろおろしながら答えた。
「おおー」
許可をもらえた藍はゆっくりと幸の頭に手を載せる。
藍の身長は約174cmに対して、幸の身長は約151cm。かなり触りやすい位置にあった。
「ん!」
手が耳に触れた瞬間、耳が少しピクってなったが、根元から優しくなでると、ネコのように耳が垂れ下がる。
かわいい。
そして幸は、少しびっくりしたようだが、その後は特に何かある様子は無く、少しうつむいていた。
もっとも、幸は途中から、耳を触られながら、頭をなでられていることになると気付き、少し顔を赤くしたのだが、藍たちは気付かなかった。
「あの、もう……」
「ああ、ごめん」
「いえ……」
幸の声で藍は手を話した。
幸は自分の新しい耳を少しなででから顔を上げて、みんなの方を向いた。
「どうだった?」
「うーん、毛の質は幸の髪質と同じ感じで、あとは普通のネコとほぼ一緒かな?」
「私は、なんか変な感じかな?ちょっとくすぐったかったかな?」
しずくの問いに二人が返し、DCDの二人はメモを取っていた。
「あの、すみません。写真を撮らせていただいてもよろしいですか?」
「あ、えっと、大丈夫です。」
DCDメンバーの女性の方からのリクエストに答えた幸は、その後もしばらく質問攻めに会うことになった。
後にわかることだが、耳は本人に意思によって出したり、引っ込めたりできるようだ。
ちなみに、尻尾を出すこともできたが、そっちはこの場では、幸は触らせることはしなかった。
そして、今に戻る。
「さあでは、そろそろ行きましょうか」
「そうですね、よろしくお願いします」
そうして、また新たな発見ができた上で、今後にとって重要な一歩となる探索を始めるため、藍たちは一歩を踏み出した。
ああ、ネコ耳の部分をもうちょっと書き込んでも良かったかな?って思った。
もしかしたらキャライメージの描画を増やすことがあったら、ついでに増やしてるかも。
【予定】ゴールデンウィーク中に本編とは別途で、用語解説みたいなのを出せたら出します。
わからない単語とかがあったら、そこを見てください。