01 マティックスター・ワールド・フロンティア
ざっくりとした説明回です。
『マティックスター・ワールド・フロンティア(英称:MaticStar World Frontier)』
二〇三八年四月より正式版が配信されたオンラインゲームで、一般に『マティフロ』や『MWF』などと略される。
「マティックスター」という単語は「魔法」を「マジック」、「科学」を「テック」、「星」の「スター」を合わせたものである。
システムはかなり作りこまれており、トップクラスの自由度を誇っていた。
マティフロが世間に知れ渡るようになった頃、他のゲーム開発者のほぼすべての者がそのゲームのエンジニアにも注目をした。
マティフロはオープンワールドだ。
ゾーン間の移動にシーンチェンジを挟まない場合も多い。
グラフィックはアニメ調ではあったが、かなり高性能を必要すると考えられた。
さらに、高い自由度を誇るだけあって、必要となる情報量も莫大にあった。
それなのに、マティフロはある程度のスペックを持ったPCであれば十分にプレイに支障が出ないほどのパフォーマンスを誇り、通信によるラグもほとんど見受けられなかった。
多くの機関がマティフロの開発チーム対象にインタビューや懇親会を行ったが、結局そのからくりは明かされることは無かった。
しかしそれも関係して、マティフロはここから怒涛の勢いで、その知名度、人気度を上昇させた。
戦闘のみにならず、生産や流通だけでも十分に楽しめる希少なゲームとなっている。
このゲームをある人は『これはゲームじゃない。ライフスタイルだ』といっていた。
なにをしても良し、のんびりでも、タイムアタックでも、とにかくできることが多く、どのコンテンツで遊んでも楽しいゲームだった。
職業はアップデートを積み重ねるたびに増え、配信から三年ちょっとで世界で最も自由度が高く、システムが豊富なゲームとして世界一位の称号を手にし、その後世界で最も多くアカウントを保持するゲーム、そして世界で一番遊ばれているゲームとなった。
何度か世界大会なども行われ、その第一回の大会で、ダントツでトップ争いをした八名のプレイヤーによって作られたグループが「大八億議会」だ。
その当時の『マティフロ』はまだ世界の中でも新参のほうにあたり、それをもっと広める目的で大きく、そして一億人に遊んでほしいという意味をこめて、当時設立にかかわった八名から取り「大八億議会」となった。
もっとも、今となってはそのメンバーも八名ではなくなっており、とっくに億人単位でプレイされているが、響きが良いということもあって、名前だけは今も残っている。
そしてこの、大八億議会というのは、日本でいうと内閣のようなもので、メンバーはしばし、エキシビジョンマッチやテストプレイなどを務め、ゲームの情報番組の配信や全プレイヤーの要望をまとめて、運営に反映するようなことも行っている。
「ゲームの半分を決める」と言われる大八億議会と対し、三年ほど前から「円卓会議」と呼ばれる組織が作られた。
もとは「円卓会議」という名のギルドで、その活動が公式に認められ、元のギルドメンバーを中心にギルドマスターなどの、世界中のプレイヤーたちの代表が集まってできている。
「大八億議会のサポート」を当時は目標として抱えていたが、「それいる?」という多くのプレイヤーの意見に対し、「I・RU!」とゴリ押しで設立されたが、前まで大八億議会が行っていたプレイヤーへのアンケートの収集をし、整理・分析してから大八億議会に渡すことで、以前より多くの情報をよりすばやく発信することができるようになった。
また、システムの変更・追加などにおいて、よりプレイヤーの要求に近いゲーム運営ができるようなった。
そして円卓会議は大八億議会とともに、運営をするユーザー団体となった。
余談だが、その円卓会議のリーダーとなった男が後に大八億議会に唯一の流通職として加わることになった。
話を大八億議会に戻して、藍は大八億議会の一人で、二位の位置にいる。
といっても、この順位は優劣を決めるものではなく、設立当時順位があったほうがいい、となった際に適当に決めたものだ。ただし、順位決定戦が大型イベントとして開催されたりはしたのだが。
ちなみに、いつも藍と一緒にプレイしているほかのメンバー三人は、特別に何かに所属はしていない。
しずくに至っては藍と一緒で、ギルドにすら入っていない。
さて、現在の大八億議会のメンバーは十四人とかなり増えている。
戦闘職八名、生産職五名、流通職一名によって構成されている。
戦闘職や生産職はほかのゲームでもよく見るのだが、流通は『マティフロ』にしか存在しない職業だろう。
戦闘職と生産職と比べれば職業域はかなり狭いが、『マティフロ』のシステム上、存在だけして機能しない職業でない。
『マティフロ』の舞台は地球をモデルにした星からスタートするのだが、各国でサーバーを分けており、日本サーバーでも八個の地方にサーバーが分けられている。
サーバー同士の移動はマップ内の徒歩移動でも可能であるが、日本サーバーから中国サーバーに行こうとすると徒歩ではなく、船か飛行船が必要となる。
そして問題はこのサーバー間においてアイテム倉庫が共有されないことだ。
同地方の都市なら倉庫は共有できるのだが、いくら近くとも地方が違えば、アイテムは一々運ばなければならない。これが生産職は特に、戦闘職にも影響を与える。
生産職は作ったアイテムや各地方でしか手に入らないアイテムを輸入や輸出する必要がある。
戦闘職も装備やアイテム制作用で何かとアイテムを各地に持っていく必要がある。
少量ならまだしも、大量のアイテムを必要とすることもある、特に生産職の貿易などは、莫大な量を扱う場合も多い。そのたびにアイテムボックスをいっぱいにして運ぶのはかなり大変である。
もちろん一瞬で移動ができるトランスポーターや、短時間で移動できる交通などは存在する。
しかしそれらはただではない。何度も利用していると所持金がスーパーの特売品並みのスピードで消えていく。
そこで流通の出番だ。流通職は馬車等の大規模インベントリー増設系の使用にかかるお金が圧倒的に少ない。また、アイテムをまとめて圧縮できる専用のインベントリーが存在するなど、アイテム運搬に特化できる。
そのため、採取目的などにおいては最高のパフォーマンスを発揮する。
地味ではあるものの、需要はかなり高い。その上で選ぶプレイヤーは少ないのだから、流通職はもっとも利益の出る職業となっている。
流通と呼ばれているが、そのプレイスタイルは商人に近い。
そして、これに特化した団体がいるため、物流はかなり便利になっている。
ちなみに、『マティフロ』での通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種で構成されている。
レートは千単位で、銅貨千枚で銀貨一枚、銀貨千枚で金貨一枚となる。
自由度が高いこのゲームにおいては、いろんなお金の稼ぎ方がある。戦闘であればモンスターを倒して手に入るアイテムを売ったり、生産なら作ったものを売ったりしてお金を集めるのだが、一般には一か月で銀貨三百枚集まれば十分ってところだ。
ただ、お金の入手レートはアップデートのたびに少しずつ上がっている。
もちろんゲームとはそういうものなのだが、多くのゲームはこういうときに性能をインフレさせたり、初心者応援キャンペーンなどでバランスを崩したりして、プレイヤーが減る原因となるのだが、『マティフロ』は八年間、アップデートのたびにこのボスバトルに勝ってきたというのだからすごい。
初期は七十だったレベル上限は今では九十五まで上がっている。
こうしたアップデート情報は毎回事前に公式の番組やサイトなどで取り上げるのだが、今回のアップデートだけは多くの情報が公開されないまま行われた。
数少ない公開情報の中で、最も注目されたのは、バージョン一.一二一.一九.一一.九が二.〇.〇.〇.〇になるということだ。つまり今回のアップデートが『マティフロ』史上、最大なアップデートであるということなのだ。
多くのプレイヤーがどんなアップデートになるか、さまざまな予想を語り合ったり、レベル上げや素材集めをしたりして、アップデートに備えていた。
誰もがそのアップデートに期待を寄せていた。
誰もがそのアップデートに可能性を感じていた。
だがそれが、後に『世界大異変』と呼ばれるアップデートになったのだ。