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ハーレム


 想定外のことがありつつも、作戦は着実に進んでいた。

 しかし、物事がうまく行っている時こそ、注意しなければならない。

 自身の与り知らないところで、不都合が起きているかも知れないからだ。


「――なにっ!?」


 屋根伝いに次ぎの狩り場へと向かう途中のこと。

 唐突に、伽藍が声を荒げた。

 何事かと思って見てみると、彼女は片耳に手を当てていた。

 鳴のほうも同じようにしている。

 耳に装置や道具がついていたようには見えなかったが。

 誰かと会話をしているようだった。


「……わかった。今からそっちに向かう。鳴、聞いたな」

「きちんと聞いてましたよ。すぐに行きましょう」


 そう短く会話を交わし、二人は立ち止まる。

 それに釣られて、俺と鈴音も足を止めた。


「どうかしたのか?」

「あぁ、どうやらこの近くで味方がしくじったみたいだ。居場所がバレて囲まれてるらしい」

「囲まれてる……」


 やはり、想定外は起こるもの。

 いや、このくらいのことは、むしろ想定内か。

 わかっていたはずだ。最初から。

 何もかもがうまくいくことなど、ありはしない。


「一番近いところにいる私たちが行かないと全滅だーって」

「だから、私たちはそちらに向かう。この場は任せることなるけど、いいか?」


 いいも悪いも、そうするほかにない。


「あぁ、わかった。俺たちに任せてくれ」

「はやく行ってあげて。こっちはこっちで何とかするから」

「悪い、助かる。いくぞ、鳴」

「はーい」


 二人は俺たちに背を向けて、進路とは別方向へと向かう。


「――そうだ」


 けれど、すぐにまたこちらを向いた。


「私たちの存在が露見した以上、奇襲はうまく行かなくなるかも知れない。気を付けてくれ」

「……あぁ、肝に銘じておく」


 忠告を胸に刻み、俺たちは二人を見送った。


「また二人だけになっちゃったね」

「そうだな。でも、なんとかするさ。そうだろ?」

「うん! 頼りにしてるからね」


 いつまでも立ち止まっている訳にはいかない。

 俺たちは二人と別れ、当初の予定通りに狩り場へと向かう。

 歯車が、すこしずつ噛み合わなくなって来ている。

 その実感を、胸に抱きながら。


「――ここが合流地点のはずだけど」


 秋月さんと凜の姿が見当たらない。

 合流場所は、ここで合っていたはずだ。

 時間も遅れてはいないはず。

 二人が道に迷ったと楽観的に考えることなど、この状況下では難しい。


「なにか……あったのかな?」

「たぶんな」


 この状況で考えられることは限られている。


「敵に見つかったか、待ち構えられていたか。それとも……」


 敵対組織の存在に気がついているのなら、十分にありえる。

 待ち伏せし、逆に奇襲をかけることだって可能だ。

 奇襲をかける側から、一転してかけられる側に逆転した。

 もし、いま二人が敵と交戦しているのなら、俺たちはどうするべきだ?


「……ダメだ。電話にも出ない」


 二人と通信を試みても、応えてくれない。

 いつでも応えられるようにしておくと、事前に決めていたのにだ。

 つまり、それどころではない状況に、二人は陥っているということ。


「――ねぇ、創也。あと五分だけ待ってこなかったら、私たちだけでも先に進むべきだと思う」

「……どうしてだ?」

「お母さんと凜を信じてるから」


 その目に、戸惑いや不安と言ったものはない。


「お母さんはとっても強いし、凜だって簡単にやられるような弟じゃない。だから平気、大丈夫だよ」


 ただ遅れているだけかも知れない。

 敵の奇襲に遭っているかも知れない。

 しかし、どちらにせよ二人なら平気だと鈴音は断言した。

 それならば、俺もそれを信じない訳にはいかない。


「……わかった。じゃあ、あと五分だ。それで来なかったら、書き置きを残して先に進もう」


 逐一、時刻を確認しながら二人を待つ。

 時は無慈悲に流れ、とうとう五分が過ぎる。

 二人の姿は未だ見えず、現れる気配もない。


「時間だ。行こう」

「うん。大丈夫、きっと平気だから」


 それは鈴音自身が、自分に言い聞かせているようにも見えた。

 けれど、それを口にすることはなく、俺たちは屋根を蹴る。

 次なる狩り場に向けて、動き出した。


「――ここか」


 路上から見上げるのは、朽ち果てた雑居ビル。

 古びてひび割れ、今にも崩れ落ちそうなほどボロボロだ。

 とても耐震基準を満たせているようには思えない。

 これも邪気の吹き溜まりゆえの滅びなのだろうか。


「幽霊でも出そうな雰囲気だな」


 何気なく、思ったことが口に出る。


「ゆっ!?」


 ゆ?


「どうかしたか?」


 いま、鈴音から妙な声が聞こえたけれど。


「や、やめてよ。そういうこと言うの」


 なぜか、鈴音は怯えたように声を震わせていた。


「そういうことって……もしかして、幽霊うんぬんの話か?」


 そう聞くと、鈴音は無言で頷いた。


「いや、だって、妖魔と一緒だろ? 幽霊なんて」


 俺からすれば、どっちも似たようなものだ。

 今更、怖がるようなものでもないはずだけれど。


「ぜんぜん違うよっ! 妖魔は倒せるけど幽霊は倒せないもん!」


 訴えかける目が本気だ。

 幽霊も妖魔も類似したものだと俺は捉えていたけれど。

 どうやら半妖歴の長い鈴音の考えは違うらしい。

 価値観の相違。

 その辺が最近まで普通の人間だった俺との違いなのかも知れないな。


「わ、悪かったよ。幽霊なんて出ないって。出るとしたら、九十九の半妖くらいだよ」

「……ホントに?」

「ホントホント。ほら、行こう」


 多少、強引ではあるけれど話を切り替え、本来の作戦を遂行する。

 不気味な雰囲気の雑居ビルを見据えて、入り口に向かおうと一歩を刻む。

 けれど。

 服の袖を引っ張られ、足は止まった。


「どうした?」

「ううん、なんにも。でも、ちょっとだけ、ちょっとだから」


 本当に、幽霊が苦手なんだな。

 なにかを握っていないと、不安になるくらいに。

 鈴音はいま俺を掴んだが、俺だって幽霊みたいなものなんだけれどな。

 一度死んでいて、今でも心臓が止まっている。

 それを知ったら、どんな顔するだろう。

 そんなこと、言えるはずもないが。


「わかった。じゃあ、一緒に行こう」

「うん」


 ちょっとしたアクシデントがあったが、俺たちは雑居ビルへと乗り込んだ。

 割れた窓ガラスから射しこむ月明かりだけが、仄暗い室内を照らしている。

 その心許ない明かりを頼りに、すこしずつ雑居ビルを探索していく。

 奇襲は失敗に終わるかも知れない。

 それどころか、逆に奇襲を受けるかも知れない。

 警戒心を最大にまで引き上げ、たしかめていく。


「――話し声?」


 雑居ビルの階段を上ったところで、何者かの話し声が聞こえた。

 それは張り詰めた様子も、警戒した様子もない暢気なもの。

 俺たちの存在が、まだ伝わっていない?


「静かに進もう」

「うん、ゆっくりとね」


 通路に散らばったガラス片に注意を払いながら、ゆっくりとそちらへと向かう。

 何度か角を曲がるたびに、声はより鮮明になっていく。

 そして、声のする部屋のまえにまでやってきた。

 俺と鈴音で扉を挟むようにし、聞き耳を立てる。

 耳を澄まし、会話の内容に意識を向けた。

 そうすれば、すこしずつではあるが聞き取れてくる。


「――ねぇ、風太くぅん。ここに誰か攻めてくるってほんとぉ?」

「そうだよ、順子。愚かにもこの城へ、攻め込もうとしているんだ」

「それってぇ、ヤバいんじゃないのぉ?」

「大丈夫さ、里実。侵入者なんて、この僕が返り討ちにしてみせよう」


 都合よく事が進むなんて幸運はなかったようだ。

 彼、風太と呼ばれていた者は、俺たちの存在を知らされていた。

 けれど、それを脅威には思っていないらしい。

 攻め込まれるかも知れない。攻め込まれているかも知れない。

 そんな状況で、女を二人もはべらせているのだから。

 なぜだか、無性に腹が立った。


「――こんな風にね」


 瞬間、部屋の扉が轟音を鳴らして弾け飛ぶ。

 何らかの攻撃で、吹き飛び壁へと叩き付けられた。


「招かれざる客と言ったところか。招待した覚えはないが、ようこそと言っておこう」


 確信を持って、彼は告げる。

 ここに侵入者がいると見抜かれていた。

 こうまでされた以上、隠れ続けるのは無駄だろう。


「俺が先に出る」


 鈴音にそう小声で言い。

 俺は観念して、彼の目の前に姿を晒す。


「お前が、この狩り場を管理している奴か?」


 目の前にいる男は、玉座のようなイスに座している。

 両脇には女が二人。

 いずれも半妖のようで、全裸に近い格好をしている。

 それと、その近くにも何人かの女がいる。

 この半妖、いったい何人の女をはべらせているんだ?


「そうだとも。この僕がここの管理を任されている。キミは……この狩り場を奪いにきた侵略者、ということでいいのかね?」

「侵略ってのはすこし違う。元々、ここはお前の狩り場じゃないだろ」

「なるほど、侵略ではなく奪還だと。これはこれは失礼をしたね」


 彼は玉座から立ち上がる。


「我が名は三陰風太みかげふうた、この城の主だ」

「城? なるほど、随分とみすぼらしい城もあったもんだ」

「なんとでも言うといい。僕が座せばそこが城だ」


 この朽ち果てた雑居ビルを、あくまで城だと彼は言う。

 城の定義について意見を交わす気はないが。

 彼とは意見や気というものが、合いそうになかった。


「ところで、もう一人は隠れたままなのかね?」


 鈴音のことも把握済みか。

 あわよくば奇襲を成功させられるかと思っていたけれど。

 元からその思惑は破綻していたみたいだ。


「正面突破しかないみたいだね」

「残念なことにな」


 鈴音は隠れるのをやめ、三陰に姿を見せる。

 すると。


「ほう?」


 三陰は妙な反応を示した。


「なかなか、可憐な少女を連れているじゃないか。奪還者くん」


 鈴音を見る目が、怪しくなる。


「どうだい? そこの少女よ」


 そして、彼はこう告げた。


「キミも加わってみないかい? この僕の――」


 それは耳を疑うようなものだった。


「ハーレムにっ!」


 なに言ってんだ、こいつ。

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