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作戦決行


 九十九の勢力拡大を食い止めるための作戦。

 その決行当日の夜。

 俺と鈴音は、襲撃地点周辺にある建物の屋根に陣取った。


「――なんか、不謹慎だけどドキドキするね」


 夜風に当たりながら時を待っていると、隣で鈴音が囁いた。


「そうだな。すこし、そわそわする」


 これまで何度か対人戦を経験したけれど。

 いずれも襲われる側だった。

 けれど、今回はその逆である襲う側。

 奇襲をかける側だ。

 不安と期待が綯い交ぜになって、心が落ち着かない。


「ほかのみんなは、もう配置についたかな?」

「たぶんな。秋月さんが遅れるとは思えないし、魔術師がヘマをする可能性も低いだろうし」


 秋月さんと、本調子に戻った凜。

 そして魔術師の二人は、それぞれ別の場所で待機している。

 決行の時刻は深夜零時きっかり。

 あとすこしで、時間がくる。


「敵の数は……三人か」


 屋根から気づかれないように、狩り場を見下ろした。

 寂れた公園を駆け回るのは、そぐわない年齢の三人。

 いずれも妖魔化していることから、半妖であることに間違いはない。

 そして、当然ながら、ここは九十九の勢力下。

 あの三人が九十九の構成員であることに、疑いの余地はない。


「俺が二人を受け持つ。それでいいか?」

「うん、大丈夫。でも、危なくなったら、助けにいくからね」

「あぁ。そいつは心強い」


 そうこうしている間に時間は過ぎる。

 決行の時がきた。


「時間だ。行こう」

「うん!」


 互いに妖魔化し、臨戦態勢を整える。

 そして、一息に屋根から飛び降りた。


「な――なんだっ!?」


 公園の中心部に着地。

 敵の動揺を誘い、それに乗じて先手を打つ。

 最寄りの敵に肉薄して鳩尾へと掌底を放ち、呪符を貼り付ける。


「ぐっ……うぅ……」


 急所への一撃と妖力の封印によって、意識を刈り取った。

 これで一人を無効化。

 直ぐさま標的を次ぎに切り替える。


「くそっ! なんなんだよ、お前らっ!」


 悪態をついて、その半妖は鉄パイプを握りしめる。

 錆び付いたそれを大きく振りかぶり、赤褐色が弧を描く。

 それを硬化させた狐尾で払い、手元から弾く。

 丸腰になったところへ、一人目と同じように掌底を打った。


「ぐぇっ!?」


 意識の剥奪と妖力の封印を同時に行い、この場を制した。


「鈴音っ!」

「大丈夫、こっちも終わったよ」


 鈴音に視線を向けると、その足下には敵が横たわっていた。

 傷を負っている様子もない。

 互いに無傷で、狩り場を奪い返せたみたいだ。


「とりあえず、初動はうまく言ったな」

「そだね。この調子なら、意外と早く終わるかも?」

「そう簡単にいくといいけどな」


 そんな未来に期待をしつつ、手早く後処理をする。

 気を失った三人を一箇所に集め、魔術師にもらった道具を使う。

 懐から取り出すのは、ミサンガのようなもの。

 それを三人に向かって投げる。

 すると。


「おぉ」

「すっごいね」


 ミサンガは長い縄となって、三人を拘束した。

 縛られる様子は、まるで人が蛇に絞め殺される最中のようだった。

 あまり表現がよろしくないが、縄が独りでに動き出すのは見ていて新鮮だ。


「これで一般人から認識されなくなるんだったよね?」

「俺たちからはそうは見えないけど、そうみたいだな」


 無力化した半妖の拘束と、その隠蔽。

 それを同時に行える優れた道具。

 これを魔術師は魔術道具と呼んでいるらしい。

 呪符といい、便利なものがあったものだ。


「さぁ、次ぎに行こう。もたもたしてると遅れちまう」

「よーし。私、もっと頑張っちゃうからっ!」


 縛り上げた半妖たちをその場に放置し、次ぎの狩り場へと向かう。

 勢力図の末端にあたるこの周辺は、だからこそ構成員の下っ端しかいない。

 九十九の報復を恐れて手出しが出来なかったとは言え。

 狩り場の奪取は、あっけもないほど滞りなく進んでいく。

 そして、いくつかの狩り場を潰した後。

 俺たちは予め決めて置いた合流地点に到着する。


「――いるか?」


 所定の位置。

 民家の屋根に降り立ち、膝をつく。

 その体勢から、そう小声で問う。


「あぁ、いるぞ」

「お疲れ様でーす」


 返ってきたのは、慎重な声とお気楽な声。

 ここで合流する手筈となっていた、魔術師二人組だ。

 彼女たちも屋根に降り立ち、体勢を低くした。

 ちなみに、秋月さんと凜との合流地点はまだ先である。


「時間通りってことは、うまく言ったんだな。そっちも」

「あぁ、なんとかな。人には見られてないはずだし、言われた通り魔術道具で縛ってきた」

「よし。私たちのほうに問題はなさそうだな」


 そう言いつつ、伽藍は手帳にペンを走らせる。

 書き写した地図に制圧した狩り場を記しているみたいだ。

 ただし、手帳もペンも宙に浮いていて、独りでに動いているけれど。

 あれも魔術か。便利なものだ。


「で、だ。ちょっとそこを覗いてみてくれ」

「覗く?」


 指さされたのは、この建物の付近。

 鈴音と顔を見合わせ、首を傾げつつ覗いてみる。

 すると、地図上にはなかったはずの広い空き地が見えた。

 しかも、そこは狩り場のようで、八人ほどの半妖がいる。


「こんなところに……」

「恐らく、最近になってできた狩り場だ。この地区の担当魔術師に、一言文句を言ってやらないと」


 情報更新の遅れか。

 あの地図は、すこし古いものだったようだ。


「どうする? 予定にない狩り場だけど」

「みんなで一気に倒しちゃう?」


 八対四ではすこし分が悪いが、勝てない相手じゃない。

 奇襲を成功させれば、制圧は可能だろう。


「いや、これはこちらの不手際だ。私たちで制圧する。だから、見ておいてほしい」

「見る?」

「あぁ。先日、あんたを襲ったお詫びに、魔術師の魔術を見せてやるよ」


 そう言って、二人は立ち上がる。


「鳴。手短に済ませるぞ」

「はーい」


 そう会話を交わしたかと思えば、次の瞬間には異変が起こる。

 彼女が身に纏う雰囲気が、がらりと変わった。

 思わず息を呑むほど、空気が張り詰める。

 その最中にあって、伽藍は口ずさむように、言葉を唱える。


「そぼ降る雨に熾火を曝せ――」


 詠唱は成され、魔術は発現する。


封火ふうか


 それは天候にすら影響を及ぼし、局地的な雨を降らせる。

 その空き地のみに降る雨という事実は、けれど当事者である半妖は認識できない。


「――チッ、降ってきやがった」

「急になんだよ、にわか雨か?」

「やっぱ天気予報って当てになんねーわ」

「さっさと狩りを済ませて返ろうぜ。風邪引いちまう」


 突然の雨に驚きはすれど、不審に思うことはない。

 それどころか、総出で狩りを行うまでになる。


「よし、狙い通り。あとは頼んだぞ、鳴。くれぐれも静かにな」

「わかってますよー。私に任せてください」

「つい最近、それで痛い目を見たのはどこの誰だっけ」

「知りませーん、もう忘れちゃいました」


 そんな軽口を叩く鳴も、次の瞬間には雰囲気が変わる。

 まるで別人のように静かに集中し、言葉を唱える。


「其は天地貫く神の残光――」


 顕現するのは、閃光。


天鳴てんめい


 一瞬にして、片が付く。

 雷鳴なき静かなる稲妻は、雨に濡れた半妖たちを襲う。

 水を伝い、ほとばしり、不可避の雷撃となって焼き焦がす。

 閃光が掻き消えると、空き地に立つ者は一人もいなくなっていた。


「やったー! 大成功ですよっ、先輩っ!」

「あぁ、よくやった」


 地べたに力なく転がる、八人もの半妖。

 二人はたった二つの魔術で、彼らを無力化した。


「どうですか? どうですか? 凄いでしょ、私の魔術!」

「私たちの、な」


 天候を操り、攻撃となす。

 披露してもらった魔術は、驚くべきものだった。

 鈴音も同様のことを思っているのか、開いた口が塞がっていない。


「あぁ、とても凄いと思うよ……けど」

「けど? けど、なんですか?」

「大丈夫なのか? あの半妖たちは。死んでないよな?」


 雷に打たれるなんて、かなり危険なことだ。

 常人なら死んでいても可笑しくない。

 人間より頑丈な半妖とは言え、倒れてぴくりとも動かないのは。


「あぁ、そんなこと。大丈夫ですよー、本当の雷じゃないし、ちゃんと手加減してますから」

「まぁ、あれでも一応、人間として扱わなくちゃいけないからな。とっ捕まえて牢屋に放り込むためにも、生け捕りが基本なんだ」

「そう、なのか。それを聞いて、安心したよ」


 一瞬、死が過ぎるほどの閃光だった。

 雨によって広範囲に拡散することを考えると、ぞっとする。

 しばらく、雨に打たれるたびに思い出しそうだ。


「じゃ、さっさと縛っちゃいましょう!」


 俺たちは空き地に降り立ち、魔術道具で八人を縛り上げる。

 予定にない狩り場の奪取だったが、難なく成功できてほっとした。

 この調子で最後までうまく行けるよう、頑張ろう。

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