空から落ちてきた7
目が覚めたのは、自室のベッドの上。
どうしてここに?
確か学校帰りに変質者に会ったような気がする。
動かした腕が何かに当たってそちらを向けば隣には居るはずのない存在が、すやすやと寝息をたてていた。
「はぁ?」
どうして、こいつがここに居るのよ。
急いで男から距離をとる。
ちょ・・・ちょっと待って。
慌てて上半身を起こして、自分の体をあちこち触って確認してみた。
何もされた形跡が無いことに、ほっと息を吐く。
「うん、服着てる・・・てか、いつ部屋に?」
自棄に冷静にそんな事を考えた。
うちのマンションは完全セキュリティー。
オートロックなので、一階でカードを差し込み番号入力後、個別のドア前で網膜認証をして開けるようになってる。
なのに、どうやって入ったの?
番号は私以外知らないはずだし、網膜認証は気絶してる私を使う事は出来ない。
「なんなの、こいつ」
長い睫毛を伏せたままの人物をじっくりと見る。
むかつくほどの美形だ。
どうして人のベッドですやすや寝てんのよ。
男を刺すように睨み付ける。
「・・・なんだよ? そんな見つめて俺に見惚れてたか」
パチッと開いた男の瞳が妖艶なうつろいのまま私を見る。
「・・・お、起きてたの?」
ヤバッ噛んじゃった。
「・・・ククク、何をそんなに焦ってんだ?」
男の伸ばした長い指が、私の顎をサラッと撫でる。
「っ・・・さ、触るな」
パシッと振り払って、急いでベッドから飛び降りた。
「ホントに気ぃ強すぎ。俺を見てなんとも思わねぇ?」
ベッドに片肘をついて、獲物を狙うような視線を送ってくる。
ドキッとしない訳でもない。
でも、胡散臭過ぎてそっちに気が取られる。
「うん、なんとも思わないけど。なにか?」
ムカつくから、軽くあしらってやる事にする。
「・・・面白いねぇ。その方が萌える」
あほだ、こいつ。
「それに契約しちまった以上、俺はお前の側に居ねぇといけねぇしな?」
さっきから契約ってなんなのよ。
てか、その前にここに入った方法聞かなきゃ。
気を取り直して、男をキッと正面から睨みつける。
「ここにどうやって入ったのよ。暗証番号と網膜認証どうやったの?」
今後の身の安全の為に是非とも聞いておかなきゃ。
簡単に破れるセキュリティーなんて意味がないもん。
「この状況で、聞くとこそこなのか?」
けらけらと笑う男は妖艶に前髪をかきあげて私を見る。
さらりと流れ落ちる前髪。
うぉ~キューティクルばっちりじゃん。
あっ・・・ダメダメ、そんな事考えてる場合じゃないわ。
「聞きたいことは山ほどあるけど、まずさっきの質問に答えてよ」
やっぱり両手は腰に当てる。
「あ~それな、簡単。俺が神だから。なんでも出来る」
「・・・?」
ダメだ、こいつ頭イカれてる。
神とか言い出したし。
早く警察呼ばなきゃ。
スカートのポケットに忍ばせてある携帯に触れた。
何かあったら直ぐに通報だ。
「お前信じてないだろ?」
「当たり前でしょ。あんたあほだよね。そんな意味不明の理由信じられる訳ない」
コホンと咳を一つついてから男を睨みつける。
男は、寝転んだままクスクス笑う。
「でも、事実だしなぁ。俺の名前はロキ。悪戯の神。大きな力はクソ親父に封じられたが、少しぐらいなら力を使える。ここには窓から入った」
自分をロキと呼んだ男はありえない事を言う。
だってここ20階だよ?
どうやって上がったって言うのよ。
「妄想癖があるのは分かったわ。もう入った理由なんていいか、出てって」
そう言って寝室のドアを指差す。
これ以上、こいつと関わるのはマズい。
頭のおかしな奴の面倒なんて見きれないわよ。
なのにロキは、
「むーりぃ。だって契約のキスしたし。俺達は定期的にキスして、互いの生気を分け合わないと死ぬ」
「・・・」
また、意味不明な事を言う。
なんなのよ、こいつ。
いくら顔が良くても引くわ、ゆっくりと後ずさりする。
どうやってこの事態を乗り切るか・・・。
この変質者を早く追い出さなきゃ。