空から落ちてきた6
スタスタスタ・・・バタバタバタ・・・。
確実に追い掛けてくる。
絶対あの俺様、変態野郎だ!
無視無視・・・。
関わり合いになんてなりたくなんてな~い。
巻こうと早足で路地を右に左に進むも、諦める気配がない。
なんとも、ホントにしつこい奴だ。
ある意味、変質者と変わりない。
自宅マンション前まで来て、振り返る。
このままじゃ、拉致があかないわ。
「なんなの、あんた? 付き纏わないでくれる」
腰に手を当てて、男を真っ直ぐ見据える。
「だって、お前が逃げるからじゃん」
「はあ?」
うん、今日一でマヌケな顔した気がする。
逃げるからって見ず知らずの人間を追いかけるとかなんなのよ。
「だから、逃げんなよ?」
私の腕を掴もうとした男の手を振り払う。
「触らないでよ」
「きっつい女」
ククク・・・と笑って男は妖艶に口角をあげた。
マジで、なんなの? こいつ・・・。
「私帰りたいから。じゃ、さようなら」
「待てよ、まだ帰さねぇよ」
踵を返してマンションに入ろうとしたら、腕を絡め取られて、男の胸元に引き寄せられた。
「なっ・・・離せ、この変質者」
男の腕の中で、力任せにジタバタと暴れる。
「ホント、気が強えぇな? まぁ、そんな女を組み敷くのも、悪かねぇ」
ニヤリと口元に笑みを浮かべた男。
背筋がゾワッとしたし。
イケメンでも気味悪いんだけど。
「じゃ、契約な?」
意味不明の言葉を口にした男は、頭に? を浮かべて見上げる私の唇を容易く奪った。
「んっ・・・やっ」
男の胸倉を何度もグーで殴っても、唇が離される事がなくて。
悔しい、こんな奴に唇を奪われるなんて。
チュッとリップ音を鳴らして男が離れた瞬間、アッパーカットを男の顎に食らわせた。
「なにすんじゃい、この変態野郎」
「・・・グフッ」
手を離した男は顔を歪めて顎を押さえる。
「・・なにすんのよ、この変質者」
叫んだ私の顔は顔が真っ赤だ、色んな意味で。
「あ~いってぇ。なにって、契約のキス。今から俺もお前をお互い以外の人間とはキス出来なくなった」
「はっ?」
何度目のは? なんだろうか。
目の前の男は完全にイカレテル。
怪しむようにジト目で男を見る。
「おかしな奴を見るような目で見るなよ」
男は嫌そうに顔を歪める。
「・・・」
いやいや・・・見るでしょ。
間違いなくおかしな男なんだから。
「だぁーっ詳しく説明するから、部屋に入れろ」
「いやいや、それは無理だから」
顔の前で手を横に振る。
「部屋に入れねぇんなら、ここで襲うぞ」
低い声で脅された。
一瞬にして黒いオーラを発した男。
えっ・・・なにこれ?
不思議な感覚に襲われた。
体の中の血がたぎるような感じ。
私の血が何かを求めてる、そんな感じ。
両手で自分の体を包み込む。
ガタガタと震え出す体を止められない。
男の漆黒の瞳に、考える力が低下する。
血の気が引いていくのが分かった。
ダメだ...倒れる。
体が崩れ落ちそうになった時、目の前の男の手で支えられた。
「おい大丈夫か?・・・おい」
私を抱き締めた男は心配そうに顔を覗き込んできた。
暖かい温もりを感じたと同時に歪んだ視界、私の意識はそこで途絶えた。