二人の時間7
ここから蒼空の視点です。
『蒼空・・・私の可愛い蒼空』
『お母さん・・・』
目の前で綺麗に微笑む彼女に手を伸ばした。
『幸せに・・・幸せにおなりなさい。貴女は、道を間違えないで』
後少しで手が届きそうになった時、彼女の姿が突然消えて伸ばした手は空を切った。
『・・・行かないでお母さん』
真っ暗な闇に、私の声だけが響いた。
「はぁはぁ・・・」
マラソンでもして来たぐらいの息苦しさに目が覚めた。
「うぉっ」
目を開けた瞬間、目の前にロキの綺麗に整った顔が在って、驚きのあまりに頭をのけ反った。
体はロキの腕が巻き付くようにして抱き着いていたので、首だけがカクッとなって危うくムチウチになりかけた。
うそっ、どうしてこんな事に?
近距離で寝息を立てるロキ。
長い睫毛に、通った鼻筋、薄い唇、ツルッとした肌。
どれをとっても、この男は抜かりないぐらい綺麗だ。
この唇が、私を好きだと言った。
そっと指先で、唇に触れてみた。
ホントに嘘みたい。
手に入らないと思っていたロキの心が私に向いていたなんて。
こんなに綺麗なロキが、本当なら天界に住んでるはずのロキが、私を好きだと言ってくれた事をまだ夢みたいに感じていた。
唇に触れた指を引っ込めようとした時、ガシッと手首を掴まれた。
「えっ?」
驚きに目を見開くと、今まで閉じられていたロキの瞼が開いて、こちらを見ていた。
「寝込みを襲うなんて、積極的だよな?」
ロキの色気を含んだ瞳が、私を捉えて離さない。
「あっ・・・ち、違う。そ、そんなんじゃないの」
体温が沸騰しそうになるのを感じた。
逃げようと掴まれた手を引いても、しっかりと掴まれていてびくともしない。
「蒼空」
ロキが切なげに私の名前を呼んだ瞬間、私の視界は反転した。
見慣れた天井と、妖艶に微笑むロキの顔。
両手をベッドに押さえ付けられて組み敷かれていた。
「な・・・・なななにすんのよ」
ロキを睨み付ける。
「な~に動揺してんのかなぁ~蒼空ちゃん」
口角をあげたロキに背筋が粟立った。
確実に身の危険を感じる。
ダメダメ・・・このままじゃロキの思うツボ。
「離してよ」
「嫌だ」
子供か!
嫌だじゃないわよ。
「何がしたいのよ」
強気でいかないと、ロキの色気にやられる。
「何がって、ナニがしたいんだけど?」
くっそ~この馬鹿、完全に遊んでる。
もうこのやり取り何度もしてる気がする。
「しないわよ」
「しないわよって。何を想像してるのかな。それとも、誘ってんのか?」
「誘ってないわ」
どうやったら、そんな解釈になんのよ。
このエロ神様。
「睨んでも、誘ってるようにしか見えねぇって」
クククと笑いながら私を見下ろすロキ。
だから・・・誘ってないからね。
「離してってば」
「少しだけ」
ロキは私の言葉なんて無視して、私の首筋に顔を埋めた。
「・・・っん・・・や」
ロキの髪が首を掠めてくすぐったい。
「・・ロキ・・・や・・・めて・・やぁ」
ペロリと首筋を舐められてゾゾゾっと鳥肌がたった。
「色っぽい声出んじゃん」
ロキが近距離で笑う。
涙目でロキを睨むけど、やっぱり逆効果だったらしくてそのまま濃厚なキスをされた。
息をつくまもないぐらいの深いキス。
唇を貪るように攻め立てられた。
「・・・あ・・・っ・・・ロキ」
体がふわふわし始めたと同時に下半身に違和感を覚えた。
切ないようなそんな感覚。
やだ・・・私、体が熱い。
なんなの・・・これ。
ロキに触れて欲しいと思った。
恥ずかしいのに、優しい手で触れて欲しいんだ。
「蒼空・・・そんな顔すんな我慢出来なくなる」
ロキと視線が絡む。
切なげな表情のロキにゾクゾクした。
初めて感じた感覚を怖いと思った。
このままじゃロキを手放せなくなっちゃう。
「蒼空・・・好きだ」
ロキは私の腕を離して、両腕で私の体を抱き竦める。
「・・・ロキ・・・ダメ」
ロキとの別れが来た時、離れられなくなっちゃうよ。
だから、これ以上触れないで。
本当はもっと触れて。
両極端の思いが心に渦巻いた。
ロキが欲しい。
だけど、欲しくない。
「・・・・蒼空、泣くな。俺は何処にも行かねぇ」
いつの間にか、溢れてしまった涙をロキが拭ってくれる。
「・・・ロキ・・・ロキ・・・好き。大好き」
心が溢れるのを止められなかった。
全てをロキにあげる。
いつか終わりが来る関係でもいい。
ロキの首に腕を巻き付けて、ロキの顔を引き寄せて初めて私からのキスをした。
一瞬目を見開いたロキもすぐに私のキスに答えてくれた。
「煽ったのはお前だ。もう止めてやらねぇ。泣いてもやめられねぇぞ?」
これはロキがくれた最終宣告。
私は小さく首を縦に振った。
いいよ、の意味を込めて。
ロキに全てあげる。
キスも、体も、心も。
全部全部、あげるから。
私だけを愛して。
私だけを見て。
「馬鹿やろう。可愛い顔すんな」
ロキのキスがあちこちに降り注ぐ。
「・・・っ・・・ん・・・ロ・・・キ」
掠れた声が出た。
「優しくするから、全てを俺にくれ。蒼空・・・愛してる」
ロキの優しい声に心が震えた。
愛してる、お母さん以外に言われた事なんてなかった。
こんなにも、嬉しい言葉だったんだね。
頬が自然と緩んだ。
「・・私も・・・・愛してる」
ロキの体が一瞬ビクッと揺れた。




