空から落ちてきた5
「うわぁ~!そこ退けぇ~!」
何処から声がした。
周囲を見渡しても、それらしき人は居なくて。
こつんと頭に何かが当たったと思ったら、それはそのまま地面に落ちた。
視線を地面に向ける。
はっ? 靴?
そう私の頭に当たったのは大きなスニーカー。
どこから落ちてきたの? そう思って上を見上げようとした私の頭上から、何かの影が迫ってきた。
・・・あぶねぇ。
防衛本能が働いた私は咄嗟に体を翻して、落ちてきた物体から避ける事に成功。
「あ~良かった」
ほっと胸を撫で下ろしてると、
「良かったじゃねぇよ」
不機嫌な声が聞こえてきた。
それは落ちてきた物体から出たモノだと思われた。
視線を足元に移す。
漆黒の髪をした男が地面に突っ伏した状態で首だけをもたげて、鋭い視線で私を睨み上げていた。
見惚れる程に整った顔つき、切れ長な瞳、薄くて赤い唇。
そこに居たのは、驚く程のイケメンな外国人。
こわっ? てか、落ちてきた?
どこから・・・
彼が落ちてきたと思われる上空に視線を向ける。
何もない空、落ちてくるような場所は何処にもない。
まさか、空の上から・・・フフフ、それは非現実だね。
100歩譲って落ちてきたとしても、無事で居られる訳がない。
内臓破裂とか・・・脳ミソでちゃうとか・・・うぅぅ、スプラッターは無理だ。
考えるのよそう。
胸悪さを押さえながら、足元に転がる人を無視して空を見つづけた。
私は名前の通り、空が大好き。
特に名前と同じ蒼空が好き。
夕焼けと混ざり合う蒼がやけに綺麗に見えた。
「おい! いつまで俺を放置するつもりだ」
低いその声にはっと我に返る。
おっと、空を見つめすぎた。
視線を移した先には、落ちてきたと思われる男が、不機嫌な様相で胡座をかいて私を見上げてた。
うん、揺るぎないイケメンだ。
「あっ・・・無事そうね」
咄嗟にそんな言葉が出た。
「無事そうね、じゃねぇよ。なんで避けんだよ」
なんとも理不尽な事を言われた。
「はぁ? 避けろって言ったでしょ、あなた。それに私が受け止めなきゃいけない義理はないし」
当たり前よね、の意味も込めて彼を冷めた目で見る。
「けっ、可愛くねぇ女」
む・・・ムカつく、こいつ。
初対面で、どうしてそんな事を言われなきゃいけないのよ。
「うざっ」
それだけ言って、回れ右した。
こんな奴に裂いてやる時間はない。
ムカつく男に背中を向けて歩き始める。
「はっ? ちょ・・・ちょっと待てよ」
焦った声を出してたみたいだけど、超無視。
構ってやる義理さえもない。
見ず知らずの男が、空から落ちてきたのを目撃しただけだしね。
背を向けてスタスタ歩く私を追い掛けて来る足音が聞こえる。
うわっ・・・面倒、早めに巻いてしまおう。
しかめっ面をしながらも足早に進む。
どんなに格好良くったって、空から落ちて来た奴なんかに関わりたくない。
とんでもないことに巻き込まれるのが落ちだ。
これが...いつもと違う放課後の始まり。
私は自分の意思とは別にかなりの面倒ごとに巻き込まれていくことになる。