パンドラの箱8
ここから蒼空の視点です。
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気が付いたら夢の中にいた。
白髪の若い紳士が、小さな私の手をひいて歩く。
太陽がさんさんと降り注ぐ公園。
顔は分からないけど、私は彼を知ってる。
幼い時に抱きしめたり、手をひいてくれた人。
何度か彼に会ったのを覚えてる。
暖かくて優しい人。
子供ながらに、太陽みたいな人だと思った。
私の小さな手は、彼の大きな手にすっぽりと包まれてしまう。
「・・・・・蒼空」
彼の呼ぶ声に、3、4才の小さな私が駆け寄る。
お母さんは近くのベンチに座って笑顔で、それを見てる。
「・・・さん」
私は彼をなんと呼んでいたんだろうか?
彼が尋ねて来なくなったのは、いつ頃だろう?
気が付いたら、彼が手を引いて歩いてくれることは無くなってた。
一度だけ、お母さんの涙を見た。
夜中に喉が渇いて起きた時、襖から漏れ出た光に吸い寄せられるように覗いた襖の隙間。
彼の写ってるたった一枚の写真を抱き抱えるようにして、お母さんは静かに涙を流していた。
あれっきりあの写真を見る事も、お母さんの涙を見る事も無かった。
あの人は一体誰なの?
私に向かって両手を伸ばしてる彼。
一歩ずつ近付く私。
後少しで彼に辿り着けるって言う時に、眩しい光に包まれた。
『ああ...消えないで』
伸ばした指先が空を切った。
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「はぁはぁ・・・」
上がった息をしながら、ゆっくりと瞼を開いた。
ここは・・・?
視界に飛び込んで来たのは、見慣れた白い天井。
ホッと一息つくと、右手の違和感に気付いた。
暖かい何かに包まれてるそれに視線を向ける。
しなやかな長い指先が私の手を包み込むように繋がれていた。
隣に横たわり、スースーと規則正しい呼吸を繰り返す人物は、ロキ。
長い睫毛が、呼吸をする度に微かに揺れる。
本当に、綺麗な顔・・・。
つるりとした肌に、整ったパーツ。
こうやって、見てると神秘的に見えてくるから不思議。
やっぱりロキは、天界から来た神様だと、思わずには居られない。
人を魅了してしまうオーラが自然と備わってるんだよね。
エロいけど。
口が悪いけど。
俺様だけど。
やっぱり人間とは、違う力を備えてる。
こんな時、いつもロキとの距離を感じてしまう。
どんなに傍に居たって、その距離は埋まらない。
私が人間で、ロキが神様である以上。
そして、ロキは何時かは居なくなる存在。
だから、私は一線を引く。
自分がそれ以上踏み込んでしまわないように。
だって、離れてしまうのが分かってる相手に、依存してしまうのが怖いから。
別れの時は、きっと来る。
だから、踏み込まないし、踏み込ませない。
それがロキと暮らし始めた時に、私が決めた私だけのルール。
ロキには言ってない。
言った所で何も変わらないから。
自分の思いを封印して、気付かない振りをする。
ただ、それだけ・・・。




