空から落ちてきた19
蒼空の視点に戻ります。
当たり前の日常が当たり前じゃなくなって、私の世界は色付いた。
もうモノクロじゃない。
ロキと暮らすようになって、寂しさは随分と少なくなった。
「ほらほら、早く起きなさい」
いつまでもベッドに潜り込んでる居候をたたき起こす。
「・・・ん・・・もう少し」
そんな色っぽい声を出してもダメだし。
「ばか言ってないで起きなさい。・・・きゃ」
肩を揺すろうと手を伸ばした瞬間、布団の中から伸びてきた手に腕を掴まれてベッドの中に引きずり込まれた。
すぐに体に巻き付いてくるがっしりとした両腕。
「やっ・・・ちょっと離しなさいよ」
胸元にしっかりと顔を埋めてるロキの後頭部をバシバシと叩いてみる。
最近、ロキはベタベタとスキンシップが多すぎる。
それに触り方が一々イヤらしいのよ。
「・・・蒼空の胸ふかふか~」
グリグリと顔を私の胸に擦り寄せてくる。
「なっ・・・止めんかい、寝惚けんのもいい加減にしろ」
グーで思いきり頭を殴ってやった。
緩んだロキの腕からすり抜けて、ベッドから降りる。
「・・・っ・・・痛てぇ」
頭を摩りながら恨めしそうな目付きで私を見る、ロキ。
「さっさと、起きてきなさいよ」
それだけ言い残してベッドルームを出た途端に真っ赤になった顔。
閉めた扉に背を預けて、鳴り止まない心を押さえた。
なに・・・これ?
ドキドキし過ぎて苦しい。
ロキにこんなにドキドキした事は悟られたくない。
早く気持ちを切り替えなきゃと自分に言い聞かせながらキッチンに戻る。
この胸の高鳴りの正体を私はまだ知らない。
だけど、ロキには今の私は見られたくないんだ
こんなのロキに恋してるみたいじゃない。
違う、違う・・・こんなの絶対違う。
首を何度も左右に振った。
とにかく深呼吸よ、蒼空。
2人分のお弁当にオカズを詰め終えた辺りで制服に着替えたロキが、眠そうに目を擦りながらキッチンに入って来る。
その頃には、ドキドキも収まってくれた。
「おはよ、蒼空」
カウンター越しに声を掛けてくるロキ。
「おはよう、お寝坊さん。昨日の夜は遅くまで遊んでたんだね」
抑揚のない声で言う。
嫌味の一つも言ってやらなきゃね。
ロキは晩御飯を食べた後、時々どこかに出掛ける。
どうせ女絡みだから、敢えて聞いたりしないけど。
夜中に帰って来ては、私の寝てるベッドに静かに入り込む。
夜遊びした日は、別の部屋で寝て欲しいと言っても全然聞いてくれない。
女の匂いの移った体でベッドに入られるのも不愉快だし、寝てる側でごそごそ動かれると目が覚めるから、そんな日は別の部屋で寝てと注意したら、帰ってくると必ずシャワーを浴びて、静かにベッドに潜り込むようになった。
いちいち、面倒な事をしなくても、別の部屋で寝ればいいのに・・・。
「ヤキモチか? 蒼空が嫌なら女遊び止めても良いぜ」
ニヤリとしながら聞いてくるロキ。
「はっ?なにを言ってんの」
白い目を向けたあと、ロキの前に朝食を載せたプレートを置いた。
「・・・チッ、んだよ、少しは妬けよ」
ブスッとした表情でフォークを手に取った。
どうやら、私の返答が気にくわないらしい。
「はいはい、ヤキモチ妬きましたよぉ」
そう言いながら、自分のプレートをテーブルに置いて席につく。
「気持ちが篭ってねぇ」
ウインナーをかじりながら睨んで来るロキ。
「あら、そう?」
「ホント、可愛いげねぇ。キスの時はあ~んなに可愛いのになぁ」
仕返しとばかり爆弾を投げて来る。
「ブッ・・・」
口に含んだばかりの紅茶を吹き出しそうになった。
このエロ神様が。
涙目のままジロリと睨んだ。
素直になんか、なれるわけないじゃない。




