空から落ちてきた16
ここから暫くロキの視点です。
面白い女と出会った。
親父に天界から蹴落とされて、落ちた場所にあいつが居た。
胸まである茶色い髪をおさげにして、淵なし眼鏡をかけた女。
真面目っ子でもなけりゃ、ギャルでもねぇ。
とんでもなく中途半端な女だった。
でも、そんな考えが吹き飛んじまうぐらい可愛い顔の女だった。
クリッとした瞳に長い睫、ピンクのぷっくりした唇、少し赤らんだ頬。
その全てが目を奪われるものだったのは間違いない。
でも、話してみると、口が悪くて男みてぇな性格の女で。
それでも契約のキスをしたのは、どうしょうもなく俺を真っ直ぐに見据えた女の強い瞳に惹かれたから。
今思えば、一目ぼれだったのかもしれない。
それから、その女と住むようになった。
初めは悪戯神のロキだって事を信じてもらえずに困ったけど、なんとか納得させた。
女なんて俺にかかればいちころだ・・・と言いたいがあいつは一筋縄ではいかない女だ。
名前を蒼空だと教えられて、綺麗な名前だと思った。
明らかに俺を避け、俺を嫌う女。
俺の美貌に妖艶さに屈しなかった2人目の女。
ただしくは一人目は神様の一人だから、人間の女としてはあいつが初めてだ。
俺は昔、どうしようもなく惚れた女が居た。
そいつは兄貴を思っていつも泣いていた。
俺が傍に居たのに、俺なんてちっとも見てくれなくて告白をして大失恋をした。
兄貴に振られて自暴自棄になった女は、そんな俺を利用して快楽に溺れた。
女が欲しかった俺は体だけの繋がりでもよかった。
それなのに、あいつは俺を捨てて新しい男にもとに走った。
今じゃ立派な人妻を演じてやがる。
女に捨てられた俺は女と言うモノを信用し無くなった。
適当に遊んで、適当に快楽に溺れる。
相手にもそれを求めた。
名前を覚える必要もねぇし、キスをすることもねぇ。
ただ動物の様に腰を振り続けた。
さすがにそんな事を2年近くも続けていたら、親父の雷が落ちた。
そして、力を奪われ下界に突き落とされた。
で・・・今に至る。
よく考えたら、俺のファーストキスはこいつだな?
キッチンに立つ蒼空の背中を見ながらそう思う。
俺を弄んで捨てた女は、俺が求めても絶対にキスをしてくれなかったし、その後の遊び相手の女達とは一度たりともした事がねぇからな。
「なぁ、今さらだがお互いにファーストキスだな」
「えっ? なんだって」
フライパン片手に俺の言葉が聞こえずらかった蒼空は、こちらに顔を向ける。
「おまえさぁ、俺がファーストキスの相手だよな?」
「・・・う・・・煩いわよ」
少し頬赤らめてプイッと横を向く。
そんな仕草も、可愛いんだけどよ。
「俺もだわ」
「・・・」
蒼空は俺の言葉に疑いの目を向けてくる。




