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落ちてきたのは神様  作者:
最終章
146/151

最終章9


ミソラが押し開けた大広間の扉。

中には沢山の神様が居て賑わっていた。

背後の扉から入って来た俺達の存在に気付く物なんて居ない。

誰もが王座に座るゼウス様の言葉を今か今かと待っている。


「じゃあ、また後でね」

とロキ様に言った蒼空様に、

「ああ。後でな」

と彼女を抱き寄せて触れるだけのキスをしたロキ様。


「なっ・・・」

真っ赤になった蒼空様と、

「ぶ、無礼者」

と憤慨したミソラ。

そして満足そうに口角を上げたロキ様は、蒼空様の頭ををポンポンと撫でた。


「行ってこい」

「ん」

「危険だと思ったら直ぐに逃げろよ」

「うん」

「待ってる」

「うん、待ってて」

2人のほんわりしたやり取りに、この2人の間と入れる奴なんて居ねぇだろうと改めて思った。


ずっと見守ってきた蒼空様をロキ様に掻っ攫われるのは癪だけど、こんなに幸せそうな彼女を見たらそうも言ってらんねぇよな。

苦笑いのミソラと目が合う。

こいつも同じ事を思ったんだろうな。

俺はちいさく笑うと、動き出した蒼空様の肩でブラブラと足を遊ばせた。


蒼空様は迷いなく壇上に居る主様の元へと向かう。

それを見てタイミングよく、主様はゆるりと立ち上がった。


「では、皆が待ち望んでおる話をしようかの?」

長い顎髭を左手で擦りながら微笑んだ主様の声は広間中に広がった。

ザワザワしていた大広間に一瞬にして静寂に包まれた。

誰もが王座の前に立つ主様の言葉を今かと待っている。

緊張した空気の漂う中、主様は再び口を開いた。


「みなが、もっとも気にしている事を話すとしようか。訳あって人間界で暮らしていた娘が先頃帰ってきた。みなに紹介しようと集まって貰った次第じゃ」

主様の言葉に小さなざわめきが沸き起こる。


「娘だって」

「ゼウス様の血を引いた娘が」

「どんな神様だろうな」

口々に近隣の神達と言葉を交わす面々。


「我が娘は今まで空席だった愛の女神であることを皆に伝える。心根の優しい娘が愛の女神に選ばれた事は親としても鼻が高い事じゃ」

主様の言葉にざわめきがピタリと止まり、誰もが息を飲んだ。

空席だった愛の女神の座につける者が現れた奇跡に、大広間に集まっていた全員が喜びに満ち溢れていた。

あの糞女でさえも、愛の女神の存在に歓喜してる。


「では、紹介しよう、我が娘を。蒼空様よ、こちらに来てみなに挨拶を」

主様はそう言うと、自分に向かって歩いてくる蒼空様へと目を向けた。

大広間の中央を迷いもなく歩いていく蒼空様。

次第にその存在に気付き始める者が現れてくる。

ざわざわ、ヒソヒソと賑やかになっていく大広間。

蒼空様の存在を見付けた者は彼女の美しさに目を奪われていく。

彼女の周囲だけが照らされたように明るく見える。

もちろん、蒼空様の肩に乗る俺には分からなかったけどな。

割れていく神様達の間を堂々と歩く蒼空様を誰もが息を飲んでその姿を見守っていた。


蒼空様は時折、羽をバサリバサリと動かす。

その度にキラキラと舞い飛ぶ銀色の粉に、皆が目を見開いた。


「何と神々しい羽」

「さずが、ゼウス様の娘」

「彼女はなにもかも特別なのか」

聞こえてくる蒼空様を褒め称える声に俺のテンションも上がっていく。


「お父さん」

主様の正面に立つと蒼空様はそう言って微笑んだ。


「よくぞ参ったな。天界のみなに挨拶をしてやってくれんか?」

「はい、喜んで」

蒼空様の背中越しに2人の会話を聞いていた神々は、蒼空様の言葉を待ちどうしそうに見つめていた。

俺はふわりと浮き上がると、蒼空様が座るであろう椅子の背もたれの上に移動した。

ここから高みの見物と行こうじゃねぇかよ。

ずっと側で見守ってたご褒美にそれぐらい許されるだろ。


驚きを隠せないような戸惑っているような、複雑な顔触れの神様達をしっかりと観察してやんぜ。

さぁ、蒼空様、ここは一つ頑張ってくれよな。




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