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落ちてきたのは神様  作者:
最終章
144/151

最終章7


「姫様、合図があるまでここでお待ちください。そこの男もこの場所で待つように」

とロキを睨み付けるのはムルシリさん。


セイラに嫌味をたっぷり言われながら、連れてこられたのは城の大広間の一つ手前の部屋。

そして、そこに待ってたのは気難しい顔をしたムルシリさんで。

明らかにロキを嫌悪感たっぷり睨み付けていた。


「随分と態度がちげぇな」

と吐き捨てたロキに、

「当たり前だ。我らが姫様と悪戯神のロキを同じ様に扱えるか。お前の悪い噂は耳が痛いほど聞いておる。姫様が望まなければ城から追い出してる所だ」

ロキを城に入れた事がかなり不服らしいムルシリさん。

ま、勝手に連れ込んじゃったしね。


「ムルシリさん、勝手に入れちゃってごめんなさい」

と言えば、

「ひ、姫様が謝られる事はありません」

焦ったように首を左右に振ったムルシリさん。


「いやいや、でもロキを連れてきたのは私だし、気分を害したならごめんなさい」

両手を胸の前で組んで謝ったら、

「いえいえ、滅相もない。気分など害しておりません。ただ、我が姫様の相手がこの男だと言うのが・・・少し」

と言いにくそうに口ごもったムルシリさん。

これもそれも、ロキのこの世界での行いが悪いのは間違いないけど、ずっと皆に嫌がられたままってのは可哀想だと思うんだよね。


「あ・・・ロキが不届き者だったのは分かっていますが、心を入れ替えたので許してやってくださいね」

ニコッと笑った私の視界に、ニヤッと口角を上げたロキが映った。

いやいや、自分でもなにか言いなさいよ。


「わ、分かりました。姫様に免じて今後のこの男の行いを見ていくとします」

しっかりするのだぞ、とロキに釘を差したムルシリさんに、

「分かった分かった。蒼空は俺が幸せにするし」

と軽い返事を返したロキの脛を爪先で蹴ってやった。


「・・・っ・・」

脛を押さえて身悶えするロキは恨めしげに私を見上げる。


「本当にこの男は反省しているんでしょうか」

はぁ・・・とロキを見ながら大きな溜め息をついたムルシリさんにはもうしわけない気持ちになった。

不安げなムルシリさんを見送った私達は、広間の隣の部屋で2人きりになる。

シルビィはお父さんに用があるとかで別行動だ。



「んもう、ロキ、しっかり反省してよね。皆がロキを毛嫌いするのはロキが原因なのよ」

ソファーに並んで隣に座ってるロキを睨んだ。

この城の皆がロキを警戒するのは、ロキの悪名が災いしてるんだからね。

ほんと、こんなに皆に嫌がられるってどんな生活してたのよ。


「昔の事だろ? 今はお前だけだしな。それを今言われても・・・な」

軽い・・・本当に軽いのよ。


「反省してないよね?」

「してるって。蒼空に出会ってから自分がどれだけバカな事をしてたのか分かったしな。誓ってもうバカな事はしねぇよ」

そう言って私の腰に腕を回して引き寄せたロキ。


「・・・だったら良いけど。昔の話でも耳に入ると気分悪いんだからね」

過去にヤキモチを妬いても仕方ないのは分かってるけど、やっぱり妬いちゃうし。


「ククク・・・久しぶりに会ったら随分と可愛くなってんじゃん」

満足そうに口角を上げたロキは優しい瞳で私を見下ろした。


「べ、別にそんなんじゃないし」

恥ずかしくてそっぽを向いた。


「ツンデレは健在だな」

ツンツンと頬を指で突っつかれる。

2人の空間には甘い空気が流れていた。

この後に、彼女と直接対決することになるだろう。

あの冷たい瞳と戦わなきゃなんないんだよね。


「ツンデレ上等よ」

「やべぇ、蒼空が可愛すぎる」

ロキの瞳が愛に満ち溢れてる。


「ねぇ、ロキ。お披露目会で彼女と対決する」

ロキにはまだ伝えてなかったよね。


「はっ? 彼女って誰だよ」

低い声でそう聞いたロキは私を心配そうに見つめる。


「バカね。アテーナーさんに決まってるでしょ」

「・・・ダメだ。危ない事はして欲しくねぇ。それにあいつとの事は俺が決着をつける」

「無理よ。私は売られた喧嘩は買う主義なのよ。人間界であの人は私を挑発してくれたじゃない」

あの時は何も返せなかったけれど、今なら対等に対決できるもん。

人間じゃ神様相手に喧嘩をする事なんて出来なかったけど。

あの時に、ロキの事を思って諦めようとしてしまった弱かった私。

人間の私の側に居るよりも天界に帰る方が良いと考えた自分勝手な私。

そんな自分とはおさらばだよ。

もうバカな事をして後悔なんてしたくないから、逃げずに正面切って戦うと決めたんだ。


「お前、それ本気で言ってんのか?」

少し険しい顔つきになったロキ。


「当たり前でしょ。嘘なんかで皆に手伝って貰って大掛かりな段取りなんてしないわよ」

お父さんにもムルシリさん達にも、全て説明済みだ。

皆口々に、売られた喧嘩に負けちゃダメだと応援してくれてる。


「・・・段取り?」

ロキは怪訝そうに眉を寄せた。


「うん。計画を皆で立てたのよ。戦うと言っても醜い争いなんてしないよ。殴り合いなんて私には向いてないしね」

魔法の応酬だとか、殴り合いだとかナンセンスだ。

折角神様になったんだから、綺麗にスマートに実力を見せつけてあげれば良いだけ。

皆が言うには私の羽も潜在能力もアテーナーさんより、随分と素晴らしいモノらしいし。

彼女が人間界で力の差を私に見せつけてくれたように、今度は私が見せつけてあげれば良いだけ。


「蒼空には仲間が相当居るらしいな。俺が何を言っても止まる事はねぇんだな。言い出したら聞かないのは前からだもんな」

諦めた様にそう言うロキに、

「良くお分かりで」

と微笑んだ。

私の座右の銘は[目には目を歯には歯を]なんだよね。


「お前・・・笑い方が黒いぞ」

とロキが肩を竦める。

「この後に対面する彼女の顔を思い浮かべると楽しくて堪んないもん」

「マジで怖いな」

「やられたらやり返せ、よ」

「蒼空の決意が固いのは分かった。もう止めねぇよ」

「そうして貰えると助かる」

「大方、ゼウスも一口噛んでるんだろ?」

「うん、良く分かったね。お父さんノリノリだよ」

可愛い蒼空をバカにするとか何様だって切れてたし。


「・・・っ・・そうか、ゼウス様は蒼空の親父なんだよな」

感慨深げにそう言ったロキは遠くを見つめる。


やべぇよな? あの人を義父さんとか呼ぶのかよ・・・独り言大きいんですけど。

ま、ロキが複雑な気持ちも分からなくも無いけどね。


「とにかく、ロキも協力してよね」

1人でボゾボソ言ってるロキの腕をパシッと叩いた。


「おっ・・・おぉ」

頷いたロキにニッコリと笑う。

もうロキを連れてかれたりしない。

今度は同じ神様なんだから。

私はもう一歩も譲らないわよ。





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