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落ちてきたのは神様  作者:
神々の住まう世界
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神々の住まう世界5


淡々と話す私に、部屋の中に居た全員が息を飲んでたのは分かる。

だけど、今はこのスタンスを変えるつもりはない。

自分を暴走させない為にはこれが一番だから。

ごちゃごちゃ考えが纏まらなかった頭がどんどんスッキリしていく。


「私と母を捨てた貴方にも何かしらの事情は有ったのだと思います。だけど、母を見送る最後の日ぐらいは来て欲しかった。今、何を言っても後の祭りなのは分かっています」

自分でも怖いぐらいに抑揚なく話せていた。


「・・・そうじゃな。蒼空の言い分は間違ってない」

そう言うと居たたまれないと言うように顔を歪めたゼウス。


「貴方は私の父親なんですよね?」

「ああ、間違いなく、そなたはわしの娘じゃ」

そこは胸を張って言い切ったゼウス。


「そうですか・・・母を、母を愛していましたか?」

「ああ、無論じゃ。神を止めてしまっても良いほどに瑠美を愛しておったよ」

懐かしそうに目を細めたゼウス。

彼の愛が本物だったのは今の彼を見ていたら分かる。


「なら良かったです。母は生前、私の父の事を幸せそうに話してくれていました。2人が離れ離れにならなきゃいけなかった事情は分からないし、2人の事は2人が決めた事だから私に口出しする権利なんてないから。でも、互いに思い合ってたって事が分かったからもう良いです」

自分の言葉がストンと胸の中に落ちてきた。

さっきまでの怒りや込み上げてきていた何とも言えない思いは、自然と霧散されていく。

互いに愛し合い私が生まれ、そして互いに思い合っていたのなら、私がもう怒る理由なんてないんだもん。

お母さんは死の間際までこの人を確かに愛していたんだから。


「・・・蒼空」

お父さんは私の言葉には驚きを隠せないと目を丸くしている。


「・・・お父さんて呼んでも良いですか?」

今更照れ臭いがずっとずっと呼んでみたかったんだ。


「・・・っ・・あぁ、構わんよ」

お父さんは潤んだ瞳をして何度も頷いた。


「・・・ゼウス様、よろしかったですね」

ミソラさん、号泣はどうかと思いますよ。


「・・・」

未だ怪訝そうに私を見つめるムルシリさん。

仕方ない羽を披露しますか。


「蒼空様、主様との距離を近付けてはどうですか?」

私の横顔を見ていたシルビィが悪戯っ子みたいに笑みを浮かべた。

私が何かしようとしてる事にどうやら気付いたらしい。


「うん、そうする。て言うか、飛べるかな?」

私は選ばれた者だろうか?

羽を広げて飛べなかったらかなり間抜けだし。


「大丈夫ですよ。貴方はきっと飛べる」

シルビィは自信満々にそう言った。


「じゃ、飛んでみる」


小声で悪巧みを完了させた私達は、互いに頷いた。

そして、私は羽をバサッと広げると大きく羽ばたかせた。

羽の風圧で銀の粉がキラキラと舞い飛んだ。

目を丸くするムルシリとお父さんを他所に、大きく床を蹴って飛び上がった。

ふわりと浮いた体、羽をバサバサ揺らせば体は上昇していった。


「ほらね、飛べたでしょ?」

肩に乗るシルビィはとても嬉しそうだ。

高い部屋の天井すれすれで、体制を変えて急降下して王座の直ぐ側に舞い降りた。

キラキラと銀の粉が私の周囲に纏まりつくようにクルクルと回っている。


「・・・見事な羽じゃな。さすが我が娘じゃ」

お父さんは満足そうにクハハと笑う。


「どうやら、本当に私は貴方の娘らしいですね」

クスッと笑って肩を竦めた。


「なっ・・・なんと神々しい。この場で飛ぶことも可能だとは疑いようがありませんな。姫様、ようこそおこしくださいました」

さっきまでとは違って尊敬の念を込めた視線を送ってきたのはムルシリさん。

あぁ、手のひら返しちゃったのね。


「私の言った通りだっただろ、ムルシリよ」

と満足そうに胸を張るのはミソラさん。


「ああ。この方は間違いなく天空神様の愛娘。先程までの無礼をお許しください」

ここでもまた片膝をついて頭を下げられた。

天界の挨拶はこんな感じが主流なのだろうか。


「あ~良いです良いです。頭を上げてください。こんな小娘が急に現れたら誰だって警戒しますし」

ムルシリさんを立たせようとした。


「なんとお心まで優しいお方だとは。このムルシリ、誠心誠意お側勤めをさせていただきます」

さらに頭を下げられた。

いやいや・・・だから、頭上げろって。

大きな溜め息をついたのは間違いない。


積もる話は食事の時でもと言う事になり、私は自室に案内された。

初めての飛行で疲れた体を休めたかったから、助かったのは間違いない。

部屋までの案内役を買って出たのはムルシリさん。

やっぱりね? と思った人は手を上げて。

ムルシリさんは人が変わった様に接してくる。

本当に誠心誠意尽くしてくれるつもりらしい。

それで良いのか? と苦笑いしたくなったのは仕方ない。


「こちらが、姫様のお部屋になります」

と扉を押し開けてくれた部屋は20畳は有ろうかと言う広さ。

どっかのリビングかって突っ込みそうになった。

足を踏み入れてさらに驚く。

部屋の左側のベランダ付近に置かれた天蓋付きのベッド。

何人寝れるの? ってぐらい大きいそれ。

他にも白い鏡台や猫足の背の高いテーブル、そのテーブルに合わせたこれまた猫足の4脚の椅子、大きな窓には白いレースのカーテンが舞台の幕みたいに飾られてる。

だから、どこのメルヘンだよ。

色々と衝撃的すぎて笑えた。


「すっげぇ、部屋だな」

私の肩から飛び立ったシルビィは部屋をぐるぐる飛び回りながら見学してる。


「・・・確かにね」

驚きすぎてそれしか返せない。

マジでさ、誰だ、これ用意したの。


「お気に召されましたか?」

と満足そうに微笑みながら効いてくるこいつが犯人だな。


「あの・・・えっと、この部屋はムルシリさんが?」

「はい。ゼウス様より承った書物を参考にご用意しました」

胸を張るムルシリさんに、気に入らないとは言えそうにない。

てか、どんな本を渡したのよ、お父さんてば。


「えっと・・・それはどんな本で?」


「確か題名は『貴女もこれで姫コーデ』だった様に思います」

「・・・」

なんて本を渡してるんだ、あの人は。


『貴女もこれで姫コーデ』

ちまたで今話題のお姫様キャラの格好をして秋葉なんかに出没する女子達の愛用してる本だ。

ゴリゴリのお姫様仕様のそれは、先日テレビで特集されてた。

私の趣味はそっちじゃないと声を大にして言いたい。


「では姫様、私はこれで一度失礼します。姫様付きの侍女を1人寄越しますので、ご用はそちらの者に遠慮なく言いつけてください。困った事がありましたら、このムルシリが誠心誠意尽力いたしますのでご安心を、では」

ムルシリさんは丁寧に頭を下げて出ていった。



静まった部屋。

背後の扉は完全に閉まり、シルビィと私だけになった。


「なんなのこれ。こんな趣味ないってば」

そう叫んだ私に、

「ま、諦めるしか無さそうですね」

と苦笑いのシルビィ。


「姫様って呼ばれる上に、この姫仕様の部屋。どこの娘だよ」

突っ込まずにはいられない。


「蒼空様はゼウス様の愛娘ですからね、あながちこの仕様も間違ってませんけどね」

「んもう、他人事だと思って」

良いもん、シルビィにもシル○ニアファミリー的なドールハウスを買ってやる。

そしてそこを家にしてやるもんね。

天界にもあるかな? 


なんだか本気で疲れた。

七割精神的ダメージだ。

天蓋付きのベッドにポフッと倒れ込む。

フワフワしてるベッドは悔しいが寝心地最高だった。

うつらうつらと眠りを誘われて。

ベッドにうつ伏せになったまま、目を瞑った。


扉をノックする音と、「休ませてあげてください」と言うシルビィの声を夢うつつに聞いた気がした。




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