奪われた幸せ14
「蒼空は・・・あの子は天界の血を半分引いておる」
小さきモノは息を飲んで我の話に聞き入る。
「だから、ここに連れてきても問題はない」
「本当ですか?」
小さきモノは嬉しそうに顔を破顔させた。
喜ぶのは早すぎるぞ、小さきモノ。
「ただし・・・ここへ来ることはあの子が神になり人間を止めると言うこと。二度と人間としての生活は送れない」
「えっ?」
小さきモノは顔を青ざめる。
これは重要な決断。
あの子にとっても、我らにとっても。
天界は観光旅行のような気分ではこれる場所ではない。
「あの子はここへ来れば、神としての力と引き換えに人では無くなる」
これが現実。
「・・・」
頭を抱え込んだ小さきモノ。
これは、我にも変えられないモノなのだよ。
この世界に足を踏み入れた瞬間、自然の摂理と共にあの子はここの住人となる。
「シルビィよ、あの子に告げるかどうかはおぬしに任せる。だが、ここへ来たからと言ってロキを取り戻せるとは限らぬ」
ここへ来て奴を取り戻せるかは、あの子の努力しだい。
アテーナーから取り戻せる確証たるものは何一つもない。
それを覚悟で人間界と決別する必要がある。
「友を捨てて人を辞める。ここへ来るとはそう言うことなんじゃ。あの子が、そうしてまでここに来たいと言うかは分からんがな」
我の言葉に顔を歪める小さきモノ。
「・・・蒼空様から全てを奪う事になるんですね?」
小さきモノは声が震えてた。
「そうじゃな。ロキを追いかけてここへ来ることは言うことは、必ずしもあの子を幸せに導くとは限らないんじゃよ」
胸が傷む。
あの子を幸せにしてやりたいのに。
我はこんなにも無力なのか?
「・・・分かりました」
何かを決心した様に小さきモノは立ち上がる。
「あの子を頼む」
心からの言葉を。
「もちろんです。何があっても守ります。この命に代えても」
本当に蒼空は幸せじゃな?
「あの子がここへ来ると言うのならば、生活の全ては我が面倒を見るつもりでおる。だから、もう1人にはせぬよ。もちろん、おぬしもおるしの」
これだけは保証する。
「そうですか、なら安心です。では、俺はこれで失礼します。あまり、蒼空様を1人にはしたくないので」
小さきモノは優しく微笑む。
この者に任せておけば、蒼空は自分で進む道を導きだすであろう。
「あの子を宜しく頼む、この通りじゃ」
我は頭を下げる。
神としてではなく、あの子を血縁者として。
「あ、頭をおあげください」
混乱した小さきモノは、バタバタと羽を羽ばたかせて飛びながら慌てる。
「帰り道、気を付けるのじゃぞ? そんなに焦ってては無事に帰れぬぞ」
からかい半分でそう言えば、
「主様も、お人柄悪い。では、蒼空様の意志が固まり次第ご連絡します」
そう言ってペコリと頭を下げると、急かせかと帰っていった。
静になった神殿の大の間。
白い壁に白い柱。
我の座るこの玉座だけが、黄金に輝いてる。
あの子が来てくれれば、この寂しい神殿も賑やかになってくれるかの?
欲が出る。
我とて心を持つモノなのだ。
側に置くことが出来なかったあの子が、天界にきてくれるかも知れると考えれば小さな望みが出てくるものじゃよ。
「誰か、誰か居るか?」
と、声はスピーカーを通した様に神殿へ広がる。
「ははぁ、わたしくめが」
玉座の前にぽんっと姿現したのは側近のムルシリ。
「部屋を一つ用意して貰いたい」
「部屋ですか?」
不思議そうに訪ねるムルシリに、
「ああ、10代の女子が喜びそうな可愛らしい部屋を頼む。天涯つきのキングサイズのベッドは絶対じゃぞ?」
あの子はどんな風に喜ぶだろうか?
そう思えば顔が綻ぶ。
「は・・・はぁ。御意」
ムルシリは首を捻りながらもしっかりと頷くと、再び姿を消した。
気が早いと笑われるかの?
蒼空・・・・我の可愛い蒼空。
出来るならば、ここへ来てくれぬかの。
そして、我と共に暮らしてはくれまいかな。
今まで伏せていた思いが沸いてくる。
瑠美、おぬしはあの子を神にしようとしている、我を恨むかのぉ?
あの子の幸せを心から願っておるのならば、ここへ呼ぶべきではないのかも知れぬが。
シルビィが言うた通り、今のあの子は見ておれん。
毎日、天界の鏡から見るあの子は悲しげに笑うんじゃ。
自らの意思で。
自らの手で。
未来を開く手伝いを少しだけさせてくれ。
我はどんな叱りも受けるから、あの子の望むき生き方をさせてやろうぞ。




