空から落ちてきた9
悔しさに流れ落ちる涙は止まらない。
「あ~もう、泣き止めって」
困った顔をして、私の顔を覗き込む。
「だ・・・だって・・・グズッ」
こんな弱々しのは私じゃないのに、どうしていいか分からない。
「さっきまでの、強気はどうしたよ」
「・・・」
そんな事言われたって知らないわよ。
悔し涙の止め方が分かんない。
「あ~も、よし。しっかり掴まってろよ」
そう言うと、ロキは私を抱き抱えたまま背の高いベランダの柵に飛び乗った。
はっ? なにやってんの。
普通の人間が、私の身長ぐらいの高さの柵に簡単に飛び乗るなんて。
あまりに驚き過ぎて、涙が引っ込んだ。
ロキは私を抱き抱えたままま、余裕の表情で柵に立ってる。
チラリと下を盗み見たら、道路を歩く人達が小さく見えた。
ダメダメダメ・・・落ちたら死んじゃう。
恐怖に体が震え出す。
ロキの体が風でグラッと揺れる。
ヤダ~、まだ死にたくな~い。
私、16年しか生きてないのに、そんなのヤダ~。
固く瞼を閉じて、落ちないようにロキの首に両腕を巻き付けて、必死にしがみついた。
「おっ、泣き止んだな? さぁ、行くぞ」
ロキはそう言って笑うと、ベランダの柵を蹴り上げて体を空中に投げ出した。
ダメ~死んじゃう~~~。
必ず来るであろう衝撃に身を固くした。
でも、いつまで経っても衝撃が私の体に伝わる事は無かった。
「ほら、目、開けてみろよ!」
ロキのそんな言葉に、固く閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる。
「・・・なっ」
目の前に広がるのはロキの顔。
至近距離で見ると、やっぱり整い過ぎてて見惚れてしまった。
違う違う、こんなことしてる場合じゃない。
「おい、しがみついてないで。下を見やがれ」
そう言われて恐る恐る下を見た。
「・・・う、浮いてる」
あまりの出来事に、口をついて出たのはそれだけだった。
人間は驚きすぎると普通の言葉しかでないらしい。
「気持ちいいだろ。空中遊泳だ」
うん・・・確かにふわふわしてて気持ちいい。
それに頬を撫でる風が、どこか懐かしい気がした。
で、でも、どうして浮いてんのよ。
「・・・ど、ど、うして」
言葉を上手く繋げない。
「どうしてって、聞きてぇの?」
ロキがクスッと笑う。
ウンウンと首を縦に数回振る。
「だから神だって言ったじゃねぇか。空ぐらい簡単に飛べるぜ。こんな事も出来るぞ」
奴は私を抱き抱えたまま空中で一回転した。
するな~!
ぐるんと回る視界。
「やめてぇ~、ぎゃ~!」
叫ぶ私に、
「色気ねぇ。つうか、また唇を塞がれてぇの」
ペロリと自分の上唇を舐めるロキ。
「いい、いい。黙ります」
取れるんじゃないかってぐらい首を左右に振った。
「そこまで拒否られると、逆に萌える」
「萌えなくてもいい」
「即答すんなよなぁ、ククク」
ウザい、こいつかなりウザ過ぎる。
「でも、これで信じただろ。俺が力を使える神だって事を」
「・・・」
こんなの経験させられたら、信じるしかないじゃん。
でも、こんな軽そうな奴が神だってのは、腑に落ちない。
・・・ちょっと待って。
「飛べるのに、どうして落ちて来たのよ」
そうよ、初めて会った時、こいつは空から落ちてきたじゃない。
「ああ、その時は力を奪われたままだったから」
「奪われた?」
「そっ、クソ親父に」
憎々しげに顔を歪めるロキ。
「どうして?」
「俺の素行が悪いからって、天界から追放された」
うん、意外にも納得出来ちゃう内容だったわ。




