前編 あの子に似たこの子。
僕が学校まで通う時に乗る15分間各駅停車。
家や学校で居場所がない俺でも、
この時間だけはゆっくりできる。
だからこの15分間だけは本当に好きな時間だ。
そしてもう一つ。
電車が走り出し、
僕が乗った駅から学校の最寄り駅までは7駅。
その2駅目、約3分後に、
僕の乗る車両にいつも乗ってくる女の子。
僕はこの女の子が気になっている。
限りなく好きに近いほどに。
制服からして同じ学校ではない。
セーラー服を着たその女の子は、
前髪はまっすぐに切り揃えられている、
肩くらいまでの長さの黒髪ボブヘアー。
喋ったことなどもちろんない。
これから喋る予定ももちろんない。
顔しか知らないその子に僕は好意を抱いているのだ。
まつげが長く綺麗な大きな目。
小さくて丸い可愛らしい鼻。
綺麗で柔らかそうな唇。
スカートから覗く白くて細い足。
容姿だけではなく、
雰囲気など、全てが愛おしく見えた。
性格も何も知らないはずなのに。
僕が人生で好きになった女の子は、
この子で2人目。
昔、小学2年生の僕は、
ある女の子に好意を抱いた。
同じクラスの女の子だ。
僕は一目惚れに近い形でその女の子を好きになった。
綺麗な髪のショートカットで、
色白の可愛らしい女の子だ。
その子の名前は確か『神崎』といったかな。
下の名前はもう覚えていない。
学校では、
一軍の女子みたいに騒ぐわけでもなく、
二軍の女子のようにあまり喋らないわけでもなく、
誰とでも仲良くしていた子だった。
当時神崎さんと僕は、
特に仲が良いわけでもなく、悪いわけでもなく、
たまに喋るくらいの仲だった。
それから3年が経ち、
2年生の時以降、
神崎さんとは同じクラスになることもなく、
全然喋らなくなった。
というか喋れなくなった。
そして5年生から6年生になる前の春休み。
神崎さんが転校する事になった。
神崎さんの引っ越し先の隣町は、
今の僕には自転車で数十分ほどで行ける距離。
しかし当時の僕には行ったことのない、
すごく遠い場所に思えた。
そして当然のようにその想いを伝えることがないまま、
神崎さんは引っ越して行った。
それからしばらくは神崎さんの事を考える日はあったが、
中学生になる頃には神崎さんの事など、
完全に忘れていた。
記憶の端に僅かにあるくらいまでに。
それ以外の小学校での恋愛といえば、
5年生の終わり頃初めてラブレターを貰い、
初めて告白をされた事くらいかな。
しかし差出人は不明で結局誰か分からないまま。
それから中学生になった僕は、
好きな子ができないまま、
というか作る気もないまま、
中学二年の頃にある女の子に告白されて、
好きでもないのに付き合って、
三ヶ月と経たずに別れたり。
中学での恋愛はそれくらいだった。
そしてそのまま何もなく中学を卒業し、
賢くも馬鹿でもないくらいの高校に入った。
その高校は中学の同級生は数人いるが、
どれもほぼ喋ったことがない人ばかりで、
入学して約二ヶ月経つが友達もできないまま、
僕は居場所を見出せなくなっていた。
それから、学校のようにうるさくなく、
人も少ないこの各駅停車で過ごす15分だけは、
自分の好きな小説を読んだり、
携帯で自分の好きな音楽を聴いたり、
自分の世界に入り浸って、
ゆっくりとその15分間を無駄なく過ごせた。
そして更にこの女の子が現れたのだ。
そういえばこの女の子、
昔好きだった神崎さんに雰囲気が似てるんだな。
だから惹かれたのかもしれないな。
そう思っているといつも15分の時が経ち、
僕の学校の最寄り駅に着く。
そんな日々が続く。
このまま僕はこの女の子に一度も話しかける事もなく、
名前も知らないまま高校を卒業して、
会うこともなくなり、
いずれ忘れていってしまうのだろうな。
そう思うと少し切ない気分になった。
それだけさ。
その女の子が昔好きだった神崎さんだという事に、
僕が気づいて勇気を振り絞って話しかけるのは、
もう少し先のお話。
この小説は前後編です。
後編もご覧くださいm(_ _)m