田原坂
ある日の夜、私は玉名から家路を急いでいた。
なのになぜか、その日は田原坂を経由しようと思い立ち、田原坂公園へと登る一本道を走り出した。
軽自動車ではあるが、百キロほどの速度で坂に突入した。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、田原坂はくねくねした切通の一本道。車線は一車線で、対向車が来たときにはスピードを緩めて走らねばならないほどの道。
坂を上りはじめてすぐに、私は違和感を感じた。
それというのも、前方に対向車の明かりが見えていたからである。最初は前方の車のバックライトかブレーキランプが見えているのかと思ったが、それにしては不自然なほど明るい。
百キロもの速度である、普通は前方車両に追い付いてもおかしくはない。
しかし、ライトは私の前方で光続け、距離は狭まらない。
おかしいぞ……。
気がついた私はさらに速度を上げた。
けれど追い付かない。
そのうちに公園前の駐車場の道に差し掛かった。
この道で唯一の直線。
ライトの具合からしても追い付かないはずはない。
が、直線に差し掛かったとたん、ライトは消えてしまった。
公園駐車場に停車している車もない。
冷や汗がしたたり落ちる。
後ろを見てはダメだ……。
私は猛スピードで田原坂を抜けきった。
あれはなんの光だったのだろう……。
未だに謎の一つである。