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第一話

近未来の地球は現在、温暖化が進み海面が上昇し陸地はほぼ無くなってしまった。

人類は新たな住む場所を求め、国家ごとに浮上都市(フロート)を作った。

さらに人類はこれ以上の温暖化の進行を防ぐべく、とある策を講じた。

『電子虚構計画』

これは浮上都市を電子虚構世界とすることによってあらゆる物体を電子化するという計画だった。

しかしこれは失敗に終わる。

詳しくは語られていないが、簡単に言うと技術力の低さだったらしい。

しかし、二酸化炭素の排出0%は実現し、結果としては目的を果たされた。

そしてこの計画の副産物として、あるものが作られた。

VRMMORPG『アルディマインド』

精神を電子化し、電子虚構世界で遊ぶというRPGだった。

そしてそれが今日、正式実装されることとなった。


「待ちに待ったよ、ほんと!!」


と、朝の人の少ない教室で叫んでるのは親友の加賀美マコトだった。

こいつとは幼稚園からの腐れ縁で、高校2年になった今でもクラスが離れたことは一度もない。

顔は中の上くらいで、髪は男子にしては少し長め、身長は確か170だったか。

頭は悪く、いつも赤点ぎりぎりをさまよっている。

そして、重度のゲーマーでもあり、こいつが騒いでる理由は簡単に分かった。


「アルディマインド、今日が実装だったな」

「そうだぜ。

 ま、今日と言っても夜9時にオープンだけどな」


アルディマインドはオンラインゲームで、基本のプレイは無料だ。

しかし、プレイするには専用の機械が必要となる。

精神電子装置、通称MED。

精神を電子化する唯一の装置である。

形状は頭をすっぽりと覆うヘルメット状で、外部電源。

予備バッテリーは存在せず、かなり軽いものとなっている。

値段も法外に高いと言うわけでもないが、軽くゲームソフト5つは買える。

しかし、それだけ払ってでもやりたいという魅力はアルディマインドにはあった。

詳細はあまり発表されておらず、情報はあまりないのだが、その中でもプレイヤーは魅力に感じる部分は大いにあった。

まず一つに、VRMMOということで自分が剣士や魔法使いと言ったファンタジーの中の人になれるという点。

居住場所は変わったが、人々が求めるものは変わらなかったのだ。

2つ目に、スキルの多さだ。

アルディマインドのスキルはメインスキルとサポートスキルに分かれている。

メインスキルは主に攻撃スキルで、剣や銃などの種類がある。

サポートスキルは補助と生活スキルで、戦闘時の強化やアルディマインドでの料理や釣といった娯楽系のスキルはここに分類される。

この時点でもとても多いのだが、さらに2つのスキルに共通したことがある。

それは派生スキルだ。

この派生スキルは人によって変わっており、すなわち人によってスキルが違うということ。

このシステムがアルディマインドの最大の魅力と言ってる人もいるくらいだ。

こういったまさに夢のようなゲームが今日オープンする。


「で、シンはもうクライアント落としたのか?」

「ああ、もう落としてるよ。

 そういうマコトは・・・聞くまでもないか」

「ま、そういうことだ」


オレ、神薙シンもマコトほどではないがゲーマーだったりする。

マコトや多くのゲーマー同様、オレもこの日を待ち遠しく思っていた。

マコトは窓枠に腰掛けて、少し眉をひそめて不満を漏らした。


「なんで今日学校があるんだろな、ほんと」

「世間一般は普通に平日だぞ。

 それにオープンも学校終わりなんだから変わらないだろ」

「いやいや、オープン前にすることはたくさんあるぜ?

 情報の再確認とか、MEDのメンテとか」

「・・・さすがだよ、ほんと」


これこそ重度と軽度の違いなんだろう。


「シンは何時から潜るんだ?9時から行けるくちか?」


とマコトが聞いてきた。

オレはもちろんと答えようとしたが、


「悪い、用事があって9時からはいけそうにないかも知れない」

「そっか、まあ仕方ねえか。

 先に初めてレベル差をつけといてやるよ」

「・・・そこはお手柔らかに頼みたいな」


そんな会話をしているうちに人がどんどん集まってきた。

時間を見ると、チャイムの鳴る5分前だった。

マコトは腰掛けていた窓枠から離れ、


「んじゃ、ちょっとめんどくさい授業を受けるとするかな」

「お前は赤点ギリギリなんだからちゃんとしろ」

「はいはい」


と肩をすくめながらマコトは自分の席に戻って行った。

オレは授業の準備をするため、かばんから授業の用意を取り出した。

技術が発展しても、紙の需要はまだ高い。

教科書・ノート・書類はいまだに紙が使われている。

木はフロートで育てられているものを使用している。(土ではなく、特殊な栽培環境らしい)

準備を終えると、ちょうどチャイムが鳴った。

現在時刻は朝の9時。

アルディマインド実装まで、残り12時間だった。


この学校は東京フロート第三研究学区にある、南雲高校だ。

特段他の学校と違う点はないが、あえて言うならば電子関連のカリキュラムが多い気もする。

この第三研究学区は『電子虚構計画』時に一番進んだ技術を持っていたからか、その名残が今も残っている。

計画自体は失敗に終わっているが、研究はまだ行われているらしい。

そんな学区であるため、研究者を目指す者も多い。

そして犯罪者も・・・


「次、神薙くん」

「え?」

「え?じゃないわよ、この問題を解いて」


と、数学担当の先生が電子黒板に書かれた方程式を指でさしながらそう言った。

いつの間にか少し考え込んでいたらしい。


「分かりました」


と俺は焦ることなく黒板の前に行き、その方程式を解いて見せた。

先生は過程・結論を見て、


「正解ですね、席に戻ってください」


と言った。

オレはその言葉に従い、元いた自分の席に戻った。


「ではわからない人も多いと思うので、解説をしていきますね。

まず・・・」


と先生はオレが席に着いたのを確認すると先ほどの方程式の解説に入った。

他の生徒が熱心に聞いているところを見ると、かなり難しい類の方程式だったらしい。

オレは解いてはみたが、それでうぬぼれたりできるほど頭がよく無かった。

ただ単に昨日少し予習した問題がたまたまピンポイントで出ただけだった。

なので、オレは皆と一緒に先生の解説を聞きながらノートをとることにした。


この学校の時間割は午前4時限の午後3時限になっている。

授業は40分程度で、合間に15分の休憩が与えられている。

また午前と午後の合間には40分程度の休み時間が与えられている。

その間に生徒は食事を済ましたり、図書館に行ったりする。

しかし、例外も存在する。

そして神薙シンはその例外の一人であった・・・。


「ありがとうね、神薙くん。

 あとでジュースおごるから」

「ジュースはいいんで、二度と呼ばないでほしいんですが」

「つれないね、ほんと」


ここは南雲高校生徒会室。

普通の教室の半分くらいの広さに机と椅子、資料棚に数台のPCが置いてあるだけのシンプルな部屋だ。

その生徒会室でオレが何をしているかと言うと


「何で先生方に提出する資料をこんなぎりぎりになって思い出すんですか・・・」

「いやあ、いろんな行事の準備が重なって忙しくてね・・・」

「まったく・・・」


そういっててきぱきと仕事を続けているのはこの学校の生徒会長、竜胆アヤカ先輩だった。

身長は160cmで、黒髪ロングを後ろでポニーテイルにしている。

外面的には頼りになる先輩で通っているが、身内、特にオレから見る先輩は


「本当に先輩は肝心なところで抜けてますね」

「それは言わないでほしいな・・・」


PC画面に顔を向けたまま先輩は苦笑いして言った。

オレもPC画面を見ながら作業を続けた。


出さなければならない資料と言うのは、今夏に行う合宿に関することだ。

この学校は研究方面でも有名だが、運動面でも有名でもある。

その運動部は毎年夏と冬に合宿を行う。

その施設は学校の敷地内にあるのだが、その使用申請を行うのは生徒会だったりするのだが。

この会長は締め切り前日にそのことを思い出したのだ。

というか、その関連資料がほかの資料に埋もれていて、片付けていたらたまたま見つかったらしい。


「でも、神薙くんのおかげでなんとか間に合いそうだよ」

「それはよかったですね」

「・・・もしかしなくても怒ってる?」

「いえ、ただあきれてるだけです。みんなには品行方正で頼りになると言われている先輩が実はこんな人なんて知ったらみんな驚くでしょうね」

「・・・神薙くんってたまに意地悪だよね」

「そんなことありませんよ、っと終わりましたよ」

「うん、こっちも終わったから印刷始めてくれる?」

「了解しました」


そういってオレは自分が作った資料と先輩が作った資料を順番どおりに印刷し始めた。

先輩は先生に出す用の封筒などを用意していた。

部数はそんなに多くなかったので印刷作業はすぐに終わった。

封筒などに入れるのもそれほど時間はかからず、昼休み半ばぐらいに全作業が終わった。


「本当に助かったよ。ありがとうね」

「いえ、それではオレはこれで」


仕事も終わり、ここに長居する理由もない。

そう思い退出しようとしたオレを


「ちょっと待ってよ」

「ちょっ、先輩?!」


オレの腕を絡めてがっちりとホールドした。

オレの腕は先輩に抱かれているわけなので、先輩の感触を感じてしまっていた。

竜胆先輩は南雲高校の中でも五指に入る美少女とされており、そのスタイルも男女問わず見とれてしまうほど均等が取れている。

オレも並みの男子高校生なのでそれに何も感じずにいられるわけじゃない。


「せ、先輩。お願いですからそういうことはしないでください!」

「じゃあ待ってくれる?」

「・・・」


苦渋の決断ではあったが、オレは先輩の魔の手(?)から逃れるために首を縦に振った。

その瞬間、先輩はがっちりとホールドしていた腕を放してくれた。


「で、何ですかいったい?」

「だからお礼だって。さっきジュースおごるって言ったじゃない」

「・・・ジュースは要らないんで二度と呼ばないでほしいとも言ったと思うんですが?」

「そんなこと聞いてないよー」


と都合の悪いことはまるで覚えていない会長は机においていたこの部屋の鍵を持って


「さ、食堂に行くよ」


とドアへ向かった。

はあ、とオレはため息をこぼし竜胆先輩の後ろについていった。


結局オレは今日お弁当を持ってきていないことを思い出し、学食を食べることにした。

まあこれも先輩のおごりなのだが。


「本当によかったんですか先輩?」


とオレは向かいの席で日替わり定食を食べている先輩に尋ねた。

すると先輩は口に入れていた食べ物を飲み込んでから答えた。


「いいって、手伝ってくれた御礼なんだから。

 今日だけじゃなくて日ごろから助かってるし、給料だと思っておいてよ」

「そうですか・・・」


正直女性におごってもらうのは気が引けるのだが、先輩が良いといってるので素直におごってもらった。


「ねえ、シンくん」


と普段は上の名前で呼ぶ先輩が下の名で呼んできた。


「はい」

「あの約束、覚えてるよね?」


あの約束。

先輩がこの言い方で言う『約束』とはある一つしかささない。


「ええ、覚えてますよ」

「それならいいんだ。」


先輩は確認したかっただけらしい。

なにしろあの約束は、それほど大事なものだから。


「ごめんね、いきなり暗い話して」


と先輩は話は終わったといつもの明るい表情で謝ってきた。


「いえ、大丈夫ですよ。もう食べ終わってたんで」

「うそ!?神薙くん食べるの早いよね」

「まあうどんなので食べやすかったと言うのもありますけど」

「だめだよ、よくかんで食べないと。

 そのうちのどに詰まったりするよ」

「はいはい、わかりました」


そのあと先輩が早く食べ終わろうとしてのどに詰まったのは、まあある意味らしかったなと思う。

そしてオレは先輩に買ってもらったジュースを飲みながら、食べている先輩を見てこう思った。

願わくば、あの『約束』が果たされる日が来ないことを。

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