北山黒羽1
あなたの色は何色ですか?
もし、そう聞かれたとしたのなら、僕は迷わず黒を選ぶだろう。これまで十六という年月を生きてきた中で、僕の心は妬みや憎しみで黒く塗りつぶされているのだから。
僕は子供の頃から、他人よりも怖い顔立ちをしている。吊り上がった目に無駄に高い鼻筋。細く引き締まった口元に、威圧的な高身長。良く言うとすれば男気のあるヤクザ、悪く言えば人を殺めることを気にも留めない、ヤクザの親分みたいな形だ。
そのせいで、今まで多くの人間が僕と関わるまいと避けて通っては、ありもしない悪いうわさばかりを影で流されてきた。誤解を解こうと話しかけても、ぎこちない返答を二、三回交わしただけですぐに会話を打ち切り、逃げるようにして僕の元から去って行ってしまう。
どうしてこんな姿に生まれてきたのだろう。
どうして他人は僕の外見ばかりを見て、内面を見てくれないのだろう。
そんな苛立ちが積もり積もって、目に映る全てのものが敵だと感じてしまうようになっていた。
当然、友達なんかいない。母親は、僕と年子となる妹を産んだ直後に他界し、色気づき始めた年頃の妹といえば、僕を見る度に眉間にしわを寄せ、しかめっ面を浮かべる始末だ。
唯一、心のよりどころとなっていたのは、いつも笑顔を絶やさない優しい父親の側だけなのだが、その父もまた仕事の関係上、家を留守にすることが多かった。
学校ではみんなに避けられ、家では孤独に打ちひしがれる――僕の精神はまさに崩壊寸前だった。
しかしそんな僕を、ある一つの細い糸が理性を支えてくれていた。それだけじゃない。暗黒に閉ざされた牢獄から、一筋の小さな光さえも照らし出してくれる、魔法の言葉があったんだ。
それは遠い記憶の片隅に自分が体験したことなのか、夢で起こった出来事なのかは何故かよく思い出せない。だけど、白い靄の中に映るシルエットから聞こえてきた言葉は、とても穏やかで、暖かいものだった。
『その人』は言った。
「人を憎むぐらいなら、人を信じる強い心をもちなさい」と。
人を、そして自分自身が憎くて抑えられない衝動に駆られたとき、いつもこの言葉がふっ、と脳裏を駆け巡る。すると、不思議と禍々しくまとわりついていた黒い霧が一斉に晴れていくんだ。
なぜこれほどまでに不安定だった心が落ち着くのか。誰からも聞く耳を持たなかった僕が、どうしてこの言葉だけ、何の違和感もなく受け入れることができたのか、自分でも分からない。
だけど、この頃よく感じることがある。もしかしたら僕は、他人に認められたいほど、人を愛おしく思っているのかもしれない。
僕が僕であり続ける為に、『その人』の言葉を信じてみようと思ったんだ。
『形ないもの』を、信じてみようと……
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