レッド 今日も始末書か……
「今日も始末書か……。ったく、何で俺が全員分書かにゃならんのだ。あれか、リーダーだからか。くそ、だからリーダーなんてやりたくなかったんだ。くそが……」
時間は十時過ぎ。すっかり暗くなった部屋の一箇所だけスタンドライトが灯る机で、全身赤タイツというひどく場違いな格好の男(つまり俺)が悪態をつきながら始末書を書いていた。
俺の名は○×レンジャーのリーダー、○×レッド。
本名、山田 勤。彼女のいない暦イコール年齢の、いたって普通の正義の味方である。
ちなみにタイツ姿なのは決して俺の趣味ではない。
ヒーローの決まりというやつである。ホントこんな決まりなくなればいいのに。
「え~っと、最初はブルーか。なになに、ピンクといちゃついていてウザいです。何とかして下さい、俺だってウザいわ」
ブルー。世間では一般的にブルーはクールで知的とかいうのがお約束だが、うちのブルーはクールでもないし知的でもない。ただのチャラ男だ。そして誠にムカつくが部隊の男で唯一の彼女持ちである。ホントなんでこんな奴に彼女なんているんだろう、死ねばいいのに。
そしてピンク。こいつも清楚で可憐とかいうのがお約束だが、うちのピンクはこれまた真逆のギャルである。
といっても最初からギャルだったわけではない。最初はもうホント可愛かった。まさに清楚で可憐な大和撫子だった。それが今じゃただのウザい娘である。あの真面目だった娘に何があったのだろうか。
唯一つ言えるのは、そうなった原因がブルーにあるということだけだ。
ホントブルー死ねばいいのに。
「次はイエロー。またカレーを残しました。イメージを崩さないように注意してください。また残したのかよアイツ。いい加減カレーくらい食えっつうの」
イエローは世間で言われるお坊ちゃんという奴を絵に描いたような奴である。とにかくわがままで自分の嫌いなことは一切しない。
俺が全員の始末書を書くようになったのも、元はと言えばこいつが原因である。
ホントなんであのとき、代わりに書いてやろうなんて仏心出したんだろう、今じゃ俺が始末書書くのが当たり前みたいになっちまった。
そして今回はどうやらまたカレーを残しやがったらしい。イエローはカレーが好き、これはヒーローの決まりであるにもかかわらず(ちなみにブルー達には特に決まりはない。何でないんだよ畜生)
本人曰く『カレーとか野暮ったいものは食べたくない』らしい。知るかそんなもん。
「今度はグリーン。付近住民から町に汚染物質があふれて危険だと抗議活動がありました。新兵器開発を止めさせてください、ね。できりゃ苦労しねぇよ」
グリーンは所謂マッドサイエンティストだ。
戦闘になると毎回自主開発した新兵器を持ち出すのだが、そのほとんどが大概何かしらの汚染物質やらを撒き散らす。
しかしちゃんと結果も伴うのでたちが悪い。おかげで強く止めろと言えずにいる。
前に言ったときは『そういうことはあんたが必殺技でも開発してからいいな』と言われて撃沈した。
気にしてるのに!それめっちゃ気にしてたのに!!
だいたいな、俺はライダーじゃねぇんだよ!レンジャーのリーダーなんだよ!レンジャーの必殺技は全員で出すものなんだよ、個人で出すもんじゃねぇんだよ。それをアイツは……
止めよう、空しくなるだけだ。
「さてと、最後は俺か。え~っとなになに、長々と説教するのは止めろ、だと。説教されるのが悪いんだろうがよ」
つうかこれ提出したのブルー達じゃねぇか却下だこんなもん。
大体説教される原因考えたことあるのかコイツら、絶対無いよな、うん。
だいたいよ~誰のおかげで首にならずにすんでると思ってるわけコイツら。絶対俺がいなきゃコイツら首になってるよ、自信もって言えるよ。ヒーローだってな、所詮サラリーマンなんだよ、こんだけ問題あったら普通切られるんだよ、畜生が
辞めよっかな~、もう辞めちゃおっかな~この仕事。
もういろいろ限界だし疲れちゃったし……。
あ、でも今不況だしな、今辞めてもどこも雇ってくれないだろうな~。なんだかんだいって給料は高いしなこの仕事。
まぁ、また明日アイツらに説教しまくって鬱憤晴らせばいいか、どうせアイツらの自業自得だし。
とりあえず今日はもう寝よ。
ちなみに彼(レッド)の説教は平均三、四時間以上かかり、部隊員だけでなく周りの人間も大概巻き込む。