ペトリコールはチョコの匂いに薄れて
昨日は雨が降った。
夏が過ぎ、もう冬の姿が見える様なこの季節にはちょっと珍しい。
秋雨とでも言うのだろうか?
そんな雨の所為か、はたまた季節が過ぎるのが早い所為なのか、僕は少し肌寒く感じていた。……上着をもってこればよかったなぁ。
「何を黄昏てるんですか」
早く来すぎてまだ冷たい教室の窓際に立って外を見ている……彼女曰く黄昏ていると後ろの戸から透き通った声がした。
「別に黄昏てるつもりはないんだけどなぁ」
「あら、それはごめんなさい」
「ちょっと笑いました?もしかして疑ってますかーー?」
「いいと思いますよー?格好つけたいお年頃でしょうに」
中二病か何かだと思われているのかな僕は。
まあ「秋雨とでも言うのだろうか」とか考えてたあたりその心は抜けきってないのではないだろうかとは思いますけれども。
「むすー」
「あはは頬を膨らませてますね」
そういってさも当たり前のように彼女は隣に立つ。
いつ見ても特徴的な、白い髪が視界に入り余計に寒さを際立てている、ような気がする。
「むすすー」
「そこまで行くともうリスを名乗っていいんじゃないですか」
「お菓子をくれるなら頬張りますけど」
「ふふ、そういえば今日はハロウィンでしたね」
「だな」
まあ誰と喋ることもない僕は他人に渡すようなお菓子は用意していないのだが。
「……とりっく おあ とりーとです」
突然なハロウィン恒例の挨拶に呼ばれて振り返る。
彼女は猫のごとくゆるく握った手を胸の前に置いていた。
……正直かわいい。
「……生憎、自分で食べる用のお菓子しか持ち合わせておりませんので」
「自分で食べる用のお菓子は持っているのですか」
「まぁ。甘いものは好きだからな」
「なるほど…… では交換といきましょう」
返事をする暇を与えることなく、彼女は鞄からお菓子を出す。
よく見たら戦争を起こしてしまいそうなお菓子だった。
「……貴様何を持っている」
「それはもちろん、たけのこを模したチョコレート菓子ですよ」
「たけのこ派か……」
「ええ。戦いますか……?」
「戦う……必要はないんだなこれが」
きのこのお菓子orたけのこのお菓子が出てくると争いになるのは暗黙の了解だ。
ただ同陣営だった場合はどうなるのか。
そう。議論することなく平和的解決である。
「……こういうのって戦うものじゃないんですか」
「まあこういうこともあるんじゃないのか……?」
「戦わないなら一緒に食べますか?」
「……そうだな」
たまには朝早くからお菓子を食べるのも悪くはないだろう。
放課後とかの方が合っているような気がするが、まあ勉強するにも糖分は必要だろうし。いいか。ハロウィンだし。
「えへへやったぁ」
そしてこの人はなんで嬉しそうなのだろうか。
……まあ好きな人と一緒に居られるならば、それでいいのだけれど。
結局自分が黄昏ていたことは疾うに忘れて、甘いチョコレートの匂いに包まれたお菓子パーティーが始まったのであった。




