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第1話 灰色の朝に、私は手を広げた
前の人生では過労死だった。この人生では、婚約破棄だった。どちらも突然で、どちらも朝のことで、どちらも「あなたはもう必要ない」という意味だった。
アルトハイム王国、宮廷魔道具工房の前。私は今朝、ここを追い出された。手には退去命令書が一枚。理由の欄には「素行不良および技術不適合」と書かれている。
(──嘘だ。)
私が作った魔道具は、いつも筆頭技師の名前で提出されていた。私の深夜残業の成果が、毎回、彼の功績になった。前世でも同じだった。終電間際のオフィスで資料を作り、朝になると上司のプレゼン資料に変わっていた。
既視感に、笑いが込み上げる。けれど、今の私には前世にはなかったものがある。
魔力と、この手で「作る」技術。そして──もう二度と、自分を安売りしないと決めた心臓の鼓動。退去命令書を折りたたみ、ポケットにしまう。振り返らない。
足は自然と、王都の外れにある古い鍛冶通りへ向かっていた。──その通りの突き当たりに、煤けた看板の工房がひとつ、まるで私を待っていたかのように扉を開けていた。




