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バレンタイン司祭

 ワシはウァレンティヌス。

 世の中的にはバレンタインとして知られている聖職者である。

 最近、日本という国でバレンタインデーを勘違いしている輩が多いため、それをただしにあの世からやってきたのだが、どういうわけか軽薄そうな男の前に現れてしまった。


 チャラい男は「パネエ、パネエ」と謎の呪文を唱えながらパシャパシャと板状の何かをワシに向けている。


「マジモンのユーレイなんて初めてっすよ、超パネエ!」

「……あー、もういいかね? 実は君にお願いがあって遠路はるばるあの世からやってきたのだが」

「あ、もうちょっと待って。こっちのアングルから……。パネエ、マジモンの心霊写真じゃん。超パネエ」

「……もういいかね?」

「あざーす! いい写真撮れました、あざーす! お帰りはあちらで、あざーす!」

「いや、帰らないよ!?」


 なに帰らそうとするの?

 まだ目的果たしてないんだけど!


「え? なになに? なんかオレに用? めんどいの勘弁なんだけど」


 散々勝手をしておいてよく言う。


「君は2月14日が何の日か、知っているかね」


 尋ねると軽薄そうな男は腕を組んで投げやりに答えた。


「知ってるっつーか、どーでもいいっつーか、おふくろの誕生日だけど?」

「いや、君の親御さんのことじゃなくて…」

「もしかして、おっさん、おふくろの元カレ? うっわ、マジキモ。なんまいだーなんまいだー。消えろ」

「いや、違うから! ちょっと、やめて。昇天しちゃうから! ちょっと消えかかってきてるから!」


 日本のお経、霊体にはよくないんだから気をつけて!


「じゃあ、あんた誰だよ」

「だから、私は今日この日に処刑された司祭様じゃて」

「え? もしかして、怨霊のたぐい? 無理無理無理、オレ、呪いとかそういうの無理」

「だから、違うと言うとろう!」


 人の話聞かねーな、こいつ!


「なんまいだーなんまいだー」

「だから消えるっつってんだろ! 人の話を聞け、こぞう!」


 ワシは思わずポルターガイストを引き起こして男の頭を漫画本で叩いてやった。


「あいた!」

「余計な霊力を使わせるんじゃない!」

「……なんすか、じゃあ」

「実は、君にお願いがあるのじゃ。日本では2月14日は女が男にチョコをあげるという風習があるらしいな」

「ああ、そういえば今日はそう日だったっけ。あ、もしかしておっさん、チョコもらいたくてやってきたの!? うわ、ハンパねえ。なに、その執念」

「違うわ! チョコなどいらんわ!」

「チョコがいらない? も、も、もしかして……おっさん、遠路はるばるあの世からやってきてチョコがもらえなかったのか? うぷす、やべ、超ウケる」


 ちょいちょい人の神経逆なでるヤツじゃ。


「ふう、おぬしにワシの願いを託そうと思ったのが間違いじゃった。ワシは、もともとそういう風習にとらわれず、恋人たちの聖なる日となっていってほしいという想いからやってきたのじゃ」

「恋人たちの聖なる日?」

「2月14日は、もともとそうあるべきだとワシは思う。2月14日は、恋人たちが愛をはぐくむ祝いの日なのだ」

「ローブを着たおっさんが言うと、けっこうドギツイものがあるな……」


 ドギツイとか言うな。


「……コホン。まあ、そんなわけで、2月14日はチョコレートをあげるのではなく、恋人たちの聖なる日に制定してもらいたい」

「いや、そういうのは総理大臣とか防衛大臣とか外務大臣とか、そういうヤツに言ってもらわないと」

「おぬしには無理なのか?」

「オレ、普通のパンピーだし? そこまで影響力ないし?」

「いや、ほら、なんかあるじゃろ。Xとか、そんなの」

「司祭様、X知ってるんすか!? マジ、パネエ!」

「ふふふ、恋人たちの守護聖人と崇拝されてきたワシをなめるでないぞ」

「すげーっす! サイコーっす! わかりました、なんとかしてみるっす!」

「頼んだぞ、日本の若者よ」


 これできっと日本の2月14日はまともな日になるだろう。

 ワシはホッと胸をなで下ろしながら天界へと帰って行ったのだった。




 後日、彼のXには

『キモいジジイ、あらわる!』

 と書かれていた。



 おい。



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