民に事実を
王城のラッパの音が、
広場に近づいてきた、そのときだった。
人波を割るように、
一人の男が前へ出る。
——宰相。
ざわり、と空気が変わる。
「……なぜ、宰相様が?」
王城使者が、顔色を変える。
「宰相!これは王命による——」
宰相は、
その言葉を手で制した。
「発表の前に、一つだけ確認したい」
静かな声。
だが、逃げ道を塞ぐ響き。
「今回の“事件”」
「発生時刻は、昨夜の第三鐘」
使者が、頷く。
「その通りだ」
宰相は、懐から一枚の紙を取り出した。
「では——これは何だ」
紙が、広場の中央で広げられる。
「王城直属部隊の行軍記録」
どよめき。
「この部隊は、第三鐘の一刻前に、
件の集落付近に到達している」
使者の喉が、鳴る。
「……警備のためだ」
「ならば、次を見よ」
宰相は、
もう一束の書類を落とす。
——魔力測定記録
——焼失家屋の調査報告
「火元は、魔法ではない」
「油と、火打石だ」
ざわっ、と民が息をのむ。
宰相は、
さらに最後の一枚を出した。
それは——
王城の紋章入り命令書。
「“被害報告書を、夜明け前に完成させよ”」
「署名は——」
指でなぞる。
「——まだ事件が起きていない時刻だ」
沈黙。
重く、
逃げ場のない沈黙。
使者が、声を荒げる。
「偽造だ!」
宰相は、
冷たく返す。
「王城の印章は、私の管轄だ」
「真偽の判別は、私ができる」
空気が、凍りつく。
宰相は、
民の方を向いた。
「この“事件”は、起きていない」
「作られた」
「白髪の子を奪うために」
誰かが、
震える声で言った。
「……じゃあ」
「この子は——」
宰相は、
穂を見る。
その目は、
初めて“子供を見る目”だった。
「無実だ」
その一言が、
すべてを終わらせた。
王城使者は、
言葉を失い、後ずさる。
騎士団長が、
一歩前に出る。
「この証拠、すべて記録し、各地へ通達します」
民の中で、
怒りと、安堵と、
後悔が混じった声が上がる。
穂は、
そっと息を吐いた。
空が、
小さく囁く。
「……よく、立ったね」
穂は、
初めて少しだけ笑った。
宰相は、
深く頭を下げる。
「遅くなって、すまなかった」
「だが——
もう、誤魔化させない」
朝日が、
広場を照らす。
嘘の上に立っていた王城は、
その光の中で——
確かに、ひび割れていた。




