穂は語る
夜明け。
鐘が、短く鳴った。
館の前広場に、
急ぎ集められた民たち。
不安と混乱が、
空気に混じっている。
「火事があったらしい」
「白髪の子の……」
「やっぱり……」
その中央に、
空が立つ。
そして——
一歩遅れて、穂。
白髪が、朝の光を受ける。
ざわめきが、
一段大きくなる。
穂の足が、止まりかける。
その瞬間、
和子がそっと背中に手を置いた。
「……大丈夫」
穂は、
小さく息を吸った。
そして——
一歩、前へ。
空が、静かに告げる。
「王城は、今朝“事件”が起きたと発表するだろう」
「でも——本人の言葉を、先に聞いてほしい」
視線が、
一斉に穂に集まる。
穂は、
震える手を胸の前で握りしめた。
「……穂は」
声は、小さい。
でも——
確かに、届く。
「穂は、火事なんて、起こしてない」
ざわ、と空気が揺れる。
「怖かった」
正直な言葉。
「昔から、白い髪だからって、悪いこと言われてき
た」
「でも……」
穂は、顔を上げた。
涙は、こぼれていない。
「穂、誰かを傷つけたいって思ったこと、ない」
「魔法も……使ってない」
一人の民が、思わず言う。
「……証拠は?」
穂は、少し考えてから答えた。
「……ない」
正直すぎる答えに、
どよめきが起きる。
でも、穂は続けた。
「でも」
「穂は、ここにいた」
「ずっと」
「空と、和子と、一緒に」
空が、はっきりと言う。
「それは、この場にいる者全員が証言できる」
騎士団長が、一歩前へ。
「昨夜から今朝まで、穂様は館を出ていない」
「記録も、見張りもある」
静寂。
穂は、最後に言った。
「……穂は」
「奪われるのも、閉じ込められるのも、嫌」
「でも——」
ぎゅっと拳を握る。
「ここで生きたい」
「嘘を、本当にされるのは、もっと嫌」
沈黙が、長く続いた。
やがて——
一人の女性が、前に出る。
「……この子、嘘ついてない」
誰かが、頷く。
「目が……逃げてない」
「怖いのに、立ってる」
ざわめきが、
少しずつ変わる。
疑いから、
迷いへ。
迷いから——
判断へ。
遠くで、
王城のラッパの音が聞こえた。
——発表の時間。
空は、穂の肩に手を置く。
「もう、十分だ」
穂は、
小さく頷いた。
民は、
知ってしまった。
“事件”が起きる前に。
“物語”が語られる前に。




