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灰にかえらない  作者: 水底 眠
10 recollection
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 入場ゲートを通って、園内に入ると、途端に軽快な音楽に包み込まれた。それから楽し気な人々の声が耳に届く。


 回れ右して出て行きたい気持ちに駆られたが、命が手を引いてきた。


「何から乗りましょうか。お腹は空いていませんか?」

「出る前に食べてきたから腹は空いてない。あんたも乗りたいアトラクションがないなら、近いところから順番に回っていこう」


 入り口から最も近いクルーズアトラクションへ向かう途中で、入園者たちがLookBeeを飛ばして写真や動画を撮影しているのに気づいた。


 日本で最も売れている超小型カメラドローン、LookBee。グラスやICLでは当人の写真は撮れないため、若者の間で大流行しているのだ。


 秋人も若者の範疇だったが、写真も動画も大嫌いなので、画角に入らないよう避けて歩いた。もし画角に入ったとしてもモザイクがかかるようになっているが、それでも嫌だ。


「僕も一応持って来てるんですよ」


 命がポケットから白いLookBeeを取り出して見せてきた。秋人が苦虫を嚙み潰したような顔をすると、命はすぐにしまった。


「そういう顔をされると思っていました。撮らないから安心してください」


 秋人と命は、クルーズアトラクションに始まり、近い場所にあるアトラクションを順番に乗っていった。


 列に並んで待つ時間もあり、秋人は息苦しい沈黙が発生しないかとひやひやしたが、命が他愛ない話を延々とし続けてくれた。


 秋人が疲れると、飲み物や菓子を買ってベンチで休んだ。遊園地は海からほど近く、時々風に乗って潮の匂いを感じた。


 そうして遊園地での時間を楽しんでいると、いつの間にか風が冷たくなり、空が暗くなって、閉園の時間が近づいてきていた。何時間も外にいて歩き回っていたにしては、疲労の蓄積は少なく感じた。


「遊園地って、こんな閉園ギリギリまでいるものか?」

「ええ、ギリギリまでいてこそですよ」


 一日中歩き回っていたとは思えないほど元気そうな命が、やはり元気に言った。


「最後に何か乗りますか? 観覧車とか、メリーゴーランドもありますよ」


 二人は全てのアトラクションを制覇することを目的としていなかったので、この時間になっても乗ったのは半分ほどだった。


 秋人は夜空を背景に輝く観覧車を見上げたが、密閉空間にいるのは辛そうだと判断した。


「……メリーゴーランドがいい」

「じゃあ行きましょう」


 閉園近くということもあり、メリーゴーランドは待ち時間なしで乗ることができた。秋人は一番近くにあった黒い馬に、命はその隣の白い馬に乗った。


 ふるぼけたメリーゴーランドは華やかな音楽と共にゆっくりと回り始めた。閉園間際にメリーゴーランドに乗る客は他におらず、秋人と命の二人きりだった。


「なあ、今日は、その……」


 ごめんとありがとうが一気に喉元に押し寄せてきて、頭が混乱した。ありがとうと言うべきだ、きっとそうだ。


 秋人が言うより先に、命が口を開いた。


「楽しかったです。遊園地に来るのは高校生の時以来で、久しぶりでした。秋人さんがいなかったら、僕はきっと二度と来ることもなかったでしょう。だから、今日は来れて良かったです。秋人さんはどうでした?」

「た、楽しかった。ありがとう」


 ようやく言いたかったことが言えてほっとした。手のひらにはうっすらと汗をかいていて、さりげなくズボンにこすりつけて誤魔化した。


「ああ、でも」


 命が何か言いかけて、どきりと心臓が嫌な跳ね方をする。


「最後は観覧車でもよかったかもしれません。頂上でキスしたカップルは別れないってジンクス、知っていますか?」

「大馬鹿野郎、古い映画の見過ぎだ」


 恥ずかしまぎれの暴言にも、命は微笑みを浮かべた。彼はこういう時だけ余裕を見せる。


 秋人は命のポケットに手を突っ込むと、LookBeeを取り出して起動させた。ぶうんと蜂の羽音のような音を鳴らして小さな躯体が浮遊した。


「秋人さん」

「……何だよ、撮りたいんじゃなかったのか?」

「ええ。でも、笑って」


 命が手を伸ばしてきて、秋人の髪を耳にかけた。命の言いつけで伸ばしている髪が赤い耳を隠していたのに、露わにされてしまった。


 一枚だけ写真を撮ると、秋人はさっとLookBeeを掴んで命に突き返した。


「あんな辛気臭い顔の写真大事にするなら、こっちにしろ」

「そうします。ありがとうございます」


 命は宝物でももらったようにLookBeeを大事そうにポケットに入れた。


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