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灰にかえらない  作者: 水底 眠
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 湾曲モニターでできた通路には、三百六十度どこを見てもネオンカラーの渦巻くアニメーションが映っていた。すでに拡張空間に視覚エフェクトがかかっているのか、奥へと吸い込まれていくような感覚に陥った。


 会場に入ると、一気に空間が開けた。そして、ポスターの情報量の比ではないほど色彩鮮やかな文字で視界が埋め尽くされる。それはすぐに収まって、シャープなフォントの『WELCOME』が視界をモノクロで洗い流すように表示された。


 続けて『WELCOME』の文字が滲んで、会場内の案内図へと変わった。このクラブは三階まであり、一階がフロア、二階がバーと小規模フロア、三階がラウンジとなっていた。


 ナイトクラブに不慣れな客も来るからか、親切にナイトクラブの楽しみ方の説明まであった。


 二人が説明を見ていると、主催者である橋爪功がにこやかに近づいてきた。


 橋爪はTシャツに袴のような幅の広いパンツを履き、さらにヒールのある靴を履いていたので、高い身長を殊更に強調していた。おしゃれと言っていいのかよくわからなかったが、橋爪から溢れる自信というか雰囲気とよく調和していた。


「久しぶり、海野。よく来てくれたな」

「久しぶり。こちらこそ招待してくれてありがとう」


 橋爪は力強く命と握手をすると、視線を秋人の方へと移し、ぱっと鮮やかな笑顔を浮かべた。


「こちらが結婚相手の秋人さんか、いやあ海野が結婚するとは思ってなかったよ。初めまして、橋爪と申します、本日はお越し下さりありがとうございます」

「どうも、こちらこそありがとうございます」


 秋人は差し出された橋爪の手を握ると、びっくりするほど強い力で握り返された。作品の与える印象そのままの人物だと感じた。橋爪の表情は常に移り変わり、放つ雰囲気はカラフルに見えた。


「海野、飲み会も参加するよな? 秋人さんも?」

「ああ、二人で参加するよ」

「じゃあ、それまで作品楽しんでくれよ。静止画は二階だ、比較的静かだから落ち着いて鑑賞できる。後で最上階のラウンジで会おう、またな」


 橋爪はさわやかな笑顔を残して他の客の元へ挨拶に行った。


「二階を見て回って、三階に行きましょうか」

 

 そう言った命は、一刻も早く一階の騒がしい空間から逃げたいようだった。


 二階のフロアに行くと、額に入った静止画のグラフィティ作品が並んでいて、客は静かに鑑賞していた。秋人は作品にあまり興味がなかったので一通り見て回っただけで満足できたが、命は説明文までじっくり読みこんでいた。


 三階のラウンジに行くと、すでに命や橋爪の友人たちが歓談していた。酒を飲んでいる人が多く、初めて飲み会に入っていくことを考えただけで緊張した。しかし、今更引き返せず、命にくっついていった。


 命は秋人を結婚相手だと普通の調子で紹介したが、秋人の方は恥ずかしくてたまらなかった。単なる事実だが、命が口にすると気恥ずかしくてむずむずした。


 飲み物をもらいに行くついでに命から離れた。遠目に見る命の楽しそうな姿は、心をざわつかせた。命が外で友人と過ごしている姿を見てみたくてついてきたのに、彼の友人の多さに嫉妬するなんて、なんて器が小さい人間なのだろう。


 気を紛らわせるために暇そうな男女に声をかけてみると、命の学生時代の後輩だと教えてくれた。女の方は南と名乗った。男の方はすでに出来上がっており眠たげで、高橋ですと挨拶だけしてソファーで眠り始めてしまった。


「彼、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよお。彼、いつもあんな感じですから。あっちで飲みましょ」


 南はまったく高橋を心配する風でもなく、顎でフロアの見えるガラス窓の方を示した。


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