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灰にかえらない  作者: 水底 眠
7 complication
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 その後、ほどなくして安楽死の受け入れ先病院から連絡があり、日程の希望を聞かれた。命と相談して次の春にしようと決めた。病院からは問題ないと返答があり、希望通りの日程で安楽死することが決まった。


 家では、秋人の肉体をより理想的なものにするための指導が本格化した。契約書を取り交わしてからというもの、命の指示はさらに厳格で、秋人もかなり苦労するようになった。


 食事は命の指示通りのものをとり、間食を取りたい場合には命の許しがなけれ取れないし、寝坊して朝食を抜こうとするとくどくど言われ、こっそり夜食を食べようとするとこっぴどく叱られた。


 最初は怒られるたびに自分が情けなくて死にたくなっていたが、だんだんと反抗心も芽生えるようになった。とはいえ、死後この体は命に引き渡す契約になっているので、最終的にはしぶしぶ従った。


 命の指示は、食事だけに留まらず、生活全般に渡った。特に運動するよう言い含められ、一日中家に居ようとすると散歩にでも行くよう促された。


 適度に筋肉がつくよう組まれていたトレーニングメニューは以前よりも細かくなり、どこの何の筋肉を鍛えるのかよくわからないまま取り組んだ。命が家にいない日でもメニューをこなしたか厳しくチェックされた。命も時間が合えばトレーニングに付き合ってきたので、自分だけ運動させるのはいかがなものかと文句をつけるは難しかった。


 といっても、鬱の症状がひどくベッドから起き上がれない日などは、命は秋人をそっとしておいてくれた。


 命の作った栄養バランスの取れた食事をとり、運動やストレッチをして、風呂に入りスキンケアをして、生活のリズムを整える。


 秋人を追い詰めるものはもうどこにもなかった。過去の暗い影を見つめる必要もなかった。ただ、命の言うことを聞いて、終わりに向かって歩き続けるだけでよかった。濁流に飲み込まれたいという欲求もいつしか消えていた。


 時々反抗しながらも素直に言うことを聞く秋人を、命はよく褒めてくれた。最初は褒められるのが嫌だった秋人も、だんだん嬉しくなった。


 また、このころから、命が前よりも距離を詰めてくるようになった。元からパーソナルスペースが狭い質なのだろう。しかし、秋人が人に触れられるのが嫌いなのを理解しているから、秋人が不快にならない程度の場所まで近づいてくる。


 対する秋人は、戸惑っていた。


 友人もろくにおらず、恋人は一人もいなかった人生において、急に結婚相手ができたのだ。本来踏むべき段階も全てすっ飛ばして。しかも相手は究極の体目的で良好な関係性を維持する必要もろくにないはずなのに、当然のように優しくしてくるし楽しいことを共有してくる。


 何のためにそういうことをするのか。秋人は必死で考えたが、結論としては、命は深く考えていないということだった。


 秋人とは一緒に暮らしているし、仲良くできそうだからそうしたい。命の態度や言葉の端々から感じられるのは、それだけだ。


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