第8話 『最初の授業』
王立魔法学院の教室に、期待に満ちた視線が注がれていた。
「本日より『魔法料理学』の特別講座を始めさせていただきます。私は青山智也と申します」
教室には様々な種族の生徒たちが集まっていた。人間、エルフ、ドワーフ、そして獣人たち。中には、珍しい種族の姿も見える。
「最初の実習は、基本の出汁を取ることから始めましょう」
智也が出汁昆布を取り出すと、生徒たちからどよめきが起こった。
「あれは...伝説の海藻!」
「深海の魔境にしか生息しないって聞いていたのに!」
「これは日本では『昆布』と呼ばれる海藻です。実は先日、この世界でも似たものを見つけました」
智也は、コリアンドルの市場で偶然見つけた「人魚の髪」という海藻を取り出した。見た目は昆布とそっくりだ。
「さて、まずは...」
鍋に水を張り、昆布を入れる。
すると、水面から淡い青い光が漏れ始めた。
「なんという美しい光...」
「これが『魔法の共鳴』です。食材の持つ魔力と、調理者の想いが響き合う瞬間ですね」
アリシアが補足説明を加えた。
生徒たちは熱心にメモを取っている。
「では、実際に各自で試してみましょう」
生徒たちは準備された調理台に散らばり、真剣な面持ちで実習に取り組み始めた。
その中で、一人の少女が智也の目を引いた。
銀色の髪を持つ少女は、何度も失敗を繰り返しながらも、諦めずに挑戦を続けている。
「何か困っていますか?」
「あ、先生...私、どうしても魔力の調整ができなくて...」
「リリアです。魔力の制御が苦手で、いつも周りに迷惑をかけてしまって...」
確かに、彼女の周りの空気が不安定に揺れている。強すぎる魔力が、制御されないまま漏れ出しているようだ。
「料理は力加減が大切です。でも、それは魔力も同じはず」
智也は、自分の包丁を取り出した。
「包丁を使う時、最初は力が入りすぎて、食材を潰してしまうことがある。でも、少しずつ力を抜いていくと、自然と手が覚えていく」
リリアは静かに頷いた。
「もう一度、やってみましょう」
今度は、リリアの手の動きに合わせて、智也も一緒に手順を確認していく。
「そう、その調子です。魔力も、自然に流れるままに...」
すると、鍋の中で静かに光が灯り始めた。
決して派手な輝きではないが、確かな温かみを感じる光だった。
「できました!」
リリアの顔が輝く。
「よくできました」
教室の隅で見守っていたアリシアが、満足げな表情を浮かべている。
授業の終わり際、リリアが智也に近づいてきた。
「先生、『まかない亭』にも行ってみたいです。私も、料理で誰かを喜ばせられるようになりたいんです」
その言葉に、智也は心を打たれた。