第6話 『魔法と料理の饗宴』
王立魔法学院の晩餐会場は、まるで宮殿のようだった。
天井まで届きそうな大きな窓からは夕暮れの光が差し込み、クリスタルの シャンデリアが幻想的な光を放っている。
「青山さん、よくいらっしゃいました」
アリシアが出迎えてくれた。彼女の隣には、白髪の老魔法師が立っている。
「こちらが、魔法料理研究部門の責任者、マルセル・ヴァイス教授です」
「はじめまして。異世界からいらした料理人さんですね」
マルセル教授は智也の手をしっかりと握った。
「あなたの料理に宿る力。あれは間違いなく、新しい形の魔法です」
準備は既に整っていた。
王立魔法学院の最新設備を備えたキッチンには、智也が指定した食材が全て揃えられていた。
「では、始めましょうか」
智也は静かに包丁を取り出した。
今夜のメニューは全七品。
前菜からデザートまで、全ての料理に日本の伝統と異世界の魔法を織り交ぜる。
特に力を入れたのは、メインディッシュの「五行の星彩御膳」。
火、水、木、金、土の五つの属性を持つ魔法食材を、五つの調理法で仕上げた特別な一皿だ。
「まるで...料理が歌っているようです」
アリシアが驚きの声を上げた。
五つの料理からは、それぞれ異なる色の魔力が立ち昇り、空中で美しい光の渦を作っている。
「この現象...」
マルセル教授が身を乗り出す。
「料理に込められた想いが、魔力と共鳴しているのです」
会場には、王国の重鎮たちが集まっていた。
魔法省の高官、各領地の領主、そして噂では王族の姿もあるという。
「素晴らしい...」
「こんな料理は初めてだ」
「まるで魔法そのものを食べているかのよう」
賞賛の声が会場を包む。
そして、デザートとして出された「追憶の氷華菓子」。
故郷の和菓子の技法と、氷霜の魔法を組み合わせた一品は、口に入れた瞬間に懐かしい思い出が蘇るという不思議な効果を持っていた。
晩餐会は大成功を収めた。
「青山さん」
片付けを終えた後、アリシアが真剣な表情で話しかけてきた。
「私たちは、魔法料理学科の設立を計画しています。あなたには、特別講師として教鞭を執っていただきたい」
「特別講師...ですか?」
「ええ。『まかない亭』の営業はそのままに、月に数回、王都に来ていただければ」
智也は考え込んだ。
新しい可能性が開けようとしている。
だが、それは同時に大きな責任も意味する。