第34話 『異世界からの訪問者』
世界樹の新しい実が熟した朝、思いがけない来客があった。
銀色の鎧に身を包んだ騎士と、
青い羽を持つ妖精のような少女。
「はじめまして。私はアーサー」
「こちらは妹のティターニア」
彼らは『銀の月』と呼ばれる世界からの来訪者だった。
「実は私たちの世界で、深刻な問題が起きていまして...」
アーサーが説明を始める。
銀の月の世界では、突如として全ての料理の味が失われ始めていた。
どんな料理も、灰のように味気ないものになってしまうという。
「私たち料理人に、何かできることはありませんか?」
さくらが神器の重箱を強く握る。
智也は他の神器の使い手たちに連絡を取った。
これは一つの店だけでは対処できない問題かもしれない。
世界樹の実が開いた門を通り、
料理人たちは銀の月の世界へと足を踏み入れた。
そこは幻想的な風景が広がる世界。
空には常に三つの月が浮かび、
街並みは銀色の光に包まれていた。
「これが私たちの首都、ルナ・クラウン」
アーサーが案内する。
しかし、街の様子はどこか寂しげだ。
レストランは閑散とし、市場も活気がない。
調査を進めると、
ある事実が浮かび上がってきた。
「これは...魔法の歪みですね」
アリシアが指摘する。
「この世界の魔法システムが乱れ、
味覚に関する魔力が失われているんです」
五人の料理人は相談し、
それぞれの神器の力を結集することにした。
ミレイの「味見の杯」で世界の味を診断し、
ヴォルグの「炎翼の鍋」で魔力を活性化させ、
クロノスの「時告の匙」で時間の歪みを正す。
智也の「包丁の太刀」は食材の本質を呼び覚まし、
さくらの「盛物の重箱」は失われた味の記憶を呼び戻す。
料理人たちは、大規模な料理祭りを開催することを提案した。
「この世界の人々の記憶の中には、
確かな味の記憶が残っているはず」
「その記憶を呼び覚ますような料理を...」
準備が始まった。
世界中から、様々な料理人が集められる。
エルフの風の料理、
ドワーフの大地の料理、
影喰らいの闇の料理。
そして智也たちの異世界料理。
全てが一堂に会する、かつてない饗宴の準備だ。
祭りの当日。
ルナ・クラウンの大広場は、
料理の香りと人々の笑顔で溢れかえった。
五つの神器が放つ光が空に向かって伸び、
三つの月と共鳴するように輝く。
「この香り...」
「懐かしい味...」
「思い出すわ...」
人々の目に涙が光る。
失われていた味が、少しずつ戻ってくる。
祭りの最後を飾ったのは、
五人の料理人による特別な一品だった。
「月光の饗宴」と名付けられたその料理は、
銀の月の世界の魔法と、
五つの神器の力が織りなす傑作となった。
料理が供される中、
空では不思議な現象が起きていた。
三つの月が重なり、
まるで巨大な神器のような輝きを放つ。
「世界の魔法が...元に戻っていく」
アリシアが歓喜の声を上げる。
味が戻った瞬間、
街全体が祝福に包まれた。
「ありがとうございます」
アーサーとティターニアが深々と頭を下げる。
「私たちの世界に、もう一度訪れてください」
「今度は、この世界の料理をご馳走します」
帰り道、智也は考えていた。
料理には、世界を救う力がある。
それは決して大げさな表現ではない。
人々の心を繋ぎ、
失われたものを取り戻し、
新しい希望を生み出す力。
それこそが、料理の真の姿なのかもしれない。
『まかない亭』に戻ると、
世界樹の新しい芽が、
またいくつも伸び始めていた。




