第31話 『帰還の喜び』
コリアンドルの街が見えてきた時、夕陽が街並みを優しく染めていた。
「ただいま戻りました!」
店の前で待っていた常連たちに、智也たちは声をかけた。
「おかえり!」
「無事で何より!」
「さあ、話を聞かせてくれ!」
『まかない亭』はその夜、特別な宴会場と化した。
常連たちが集まり、冒険の報告に熱心に耳を傾ける。
「包丁の太刀を使って、特別メニューを用意しました」
智也は新しい神器を披露する。
刃を振るうと、食材が最高の状態で切り分けられていく。
まるで食材自身が望む形に導かれるかのよう。
さくらも重箱の力を披露。
盛り付けられた料理が、まるで物語を語るように輝きを放つ。
「すごい...」
「まるで料理に命が宿ったみたい」
「こんな料理、見たことない!」
宴は夜更けまで続いた。
人々は料理を通じて、冒険の物語を味わっていく。
翌日、『星風亭』でも特別な集まりが開かれた。
「実は、重大な提案があります」
アリシアが切り出した。
「魔法料理学科を、大きく拡充することになりました」
「氷の城での研究成果を、正式なカリキュラムに組み込むのです」
リリアたちの目が輝く。
「さらに、定期的に氷の城で特別講座を開講します」
「世界中から研究者や料理人が集まる予定です」
「そこで、智也先生には...」
二つの提案がなされた。
一つは、魔法料理学科の専任教授として、
より本格的に教育に関わること。
もう一つは、『まかない亭』の営業を続けながら、
非常勤として教えること。
「考える時間をください」
智也は即答を避けた。
その夜、『まかない亭』で一人考え込む智也。
すると、大将が訪ねてきた。
「悩んでいるようだな」
「はい...両方とも魅力的な道で」
「私から一つ、話をしよう」
大将は静かに語り始めた。
「料理人の道に、正解はない」
「ただ、自分の心に正直であることだ」
翌朝、智也は決意を固めていた。
「『まかない亭』の営業は続けます」
アリシアに告げる。
「ただし、氷の城での研究には積極的に関わりたい」
「そして、世界料理魔法研究会の活動も」
「それが、私の選んだ道です」
アリシアは満足げに頷いた。
「実は、それが一番望ましい形だと思っていました」
「実践の場を持ちながら、研究と教育に関わる」
新しい体制が整っていく。
『まかない亭』は通常営業を続けながら、
時には特別な研究会の場としても機能する。
『星風亭』は魔法料理学科の実習施設として、
さらに充実した設備を整えることに。
そして月に一度、氷の城で特別講座が開かれる。
世界中から集まる料理人たちとの交流の場だ。
ある日の『まかない亭』。
珍しい来客があった。
「やあ、噂の店に来てみたよ」
「私たち、東の島々から来ました」
来客の手には見覚えのある器が。
まさに、伝説の神器「味見の杯」だった。
「神器を持つ者同士、交流を深めたいと思いまして」
また別の日には、
南方の火山群から「炎翼の鍋」の使い手が。
西の時の迷宮からは「時告の匙」の継承者が訪れた。
神器を持つ料理人たちが、自然と集まってくる。
それぞれが新しい可能性を見出し、共有していく。
さくらは日々、重箱の力を深めていった。
今では料理に込められた想いを、より鮮やかに表現できるように。
智也も包丁の太刀との対話を重ね、
新しい料理の可能性を追求している。
そしてある日、影喰らいが興味深い発見を報告した。
「五つの神器には、もう一つの力が」
「全ての神器が揃う時、新たな扉が開くかもしれない」
料理人たちの冒険は、まだ始まったばかり。
新しい物語が、また一つ動き始めようとしていた。




