第29話 『魔狼の真実』
広間を包む金色の光は、しだいに形を成していった。
それは遥か昔の記憶。
美食の魔狼の記憶だった。
「これは...」
アリシアが息を呑む。
映し出されたのは、かつて人間だった魔狼の姿。
彼もまた、異世界から来た料理人だったのだ。
「その通り」
魔狼の声が響く。
「私は千年前、日本からこの世界に来た。当時の名は...橘佐助」
記憶の中で、着物姿の男が料理を作っている。
その手には、「包丁の太刀」が握られていた。
「この世界で、私は料理の可能性を追い求めた。そして気づいたのだ」
「料理には、世界を繋ぐ力がある」
魔狼...いや、佐助の記憶は続く。
彼は研究の末に、魔力と料理の関係を解明。
しかし、あまりに強大な力を扱ったため、徐々に人の姿を失っていった。
「私は決意した。この姿のまま、次に来る者を待とうと」
「そして、ここに料理の神器を集め、ふさわしい継承者たちを待ち続けた」
光が消え、広間に静寂が戻る。
魔狼は智也たちの料理を、もう一度口にした。
「この味は...」
金色の目に、涙が光る。
「故郷の味。しかし、それだけではない」
「新しい世界の可能性も秘めている」
魔狼は大きく頷いた。
「試練合格だ。包丁の太刀は、お前たちのものだ」
氷壁が溶け、包丁の太刀が姿を現す。
その刃には、千年の時を超えた輝きが宿っていた。
智也が包丁の太刀に手を伸ばした瞬間。
予想外の事が起きた。
さくらの持つ重箱が強く反応し、
眩い光を放ち始めたのだ。
「これは...」
大将が驚きの声を上げる。
二つの神器が共鳴し、
広間に神秘的な景色が広がっていく。
そこには、料理にまつわる無数の記憶。
様々な時代、様々な世界の料理人たちの想いが詰まっていた。
「神器は、互いに呼応する力を持っている」
魔狼が説明する。
「五つの神器が揃えば、料理の究極の可能性が開かれる」
「しかし、その力は両刃の剣」
「使い方を誤れば、世界の秩序すら崩しかねない」
「だからこそ、私は神器を分け、ふさわしい者たちを待っていた」
智也は包丁の太刀を手に取り、
その力を感じ取る。
刃は食材の本質を見抜き、
最高の状態へと導く力を持っていた。
「私たちに、できるでしょうか」
さくらが不安そうに呟く。
「大丈夫です」
智也は確信を持って答えた。
「私たちには仲間がいる。一人じゃない」




