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幕間・ウル=フォレ

 朝露に濡れた湖畔の草花、湖面に朝日があたり、フォレの湖はキラキラと輝いていてキレイなのだわ。朝の空気は心地よく清々しくて好き。


「うーん!!!今日は何をしようかしら!!面白いことはないのだわ?」


 わたしはウル!ウル=フォレ!このフォレの湖に生まれて大体5000年くらい経ったかしら?理由はわからないけど、この湖をずっとずーっと見守らなくちゃいけないの。


 湖に咲く草花は綺麗だし、おいしいムーンフルーツも沢山ある!4000年前くらいに生まれたメル、そのあとに生まれたマール達と一緒にこの森を探検したり、精霊たちと魔法で遊んだり!


 やることが一杯で毎日が楽しい!!!…ハズなんだけど。なんだか物足りないのだわ。


「ね~メル~。何か楽しいことないのだわ??」


 木の枝に腰掛けながら、右隣にいるメルに声をかける。


「また言ってる。あたしたちはこの湖を守る使命があるのよ?それで充分じゃない」


 メルはウルを諭すように話す。わたしのほうが先に生まれたのに、メルは古いピクシーみたいなのだわ。


「だって毎日同じことの繰り返し。楽しいけど飽きちゃったのだわっ。」


「あ…あ…ボク…このままがいい…」


 左隣にいるマールはおどおどしながら答える。マールはフォレの中で一番若いピクシーだけど、気弱なのだわ。いつもメルの陰に隠れてる。


 メルはこの湖を守ることが使命だ!なんて言っているけれど、私はそこまで大切だとは思っていない。


 最近で楽しかったことと言えば、2200年くらい前にドワーフの(つがい)が湖に迷い込んできたり、1000年前にエルフが訪れたことくらいだったかしら。


 彼らはすぐにこの湖を去っていったけれど、この森の外には広い世界があるということを話していた。


「ちょっと前のドワーフもエルフもとっても不思議なことを話してたのだわ!この森はこの世界のほんの一部だって!ドワーフやエルフ、そして人間や、獣人ってのもいるらしいのだわ!?こんなにワクワクすることないのだわ!!わたしはこの目で見たいの!」


 でもでも、古いピクシーも世界に還り、今はわたしたち3人しかフォレはいないから外に出ていくなんてできないのだわ…。


「ウルは本当、珍しいものが好きよね!いっつも森の端まで飛んで行ってるし、この間も人間が沢山いる時に覗いてたでしょ?」


「だって~。あの子達面白いんだもの。魔法も全然使えてないし、力もないのに獣たちと遊んじゃって、いっつも逃げちゃうのよ?」


 人間はひ弱なのに、なぜかこの森に沢山の数連れてきて、森の端当たりでだいたい獣たちのご飯になってるし、沢山沢山森の外へ逃げてく。


 そういえば100年くらい前に大きな壁みたいなのができてて、それから人間があんまり入ってこなくなったのだわ?獣たちがとても元気だったことがあったから、人間が少なくなっちゃってたら残念だわ。


 あ、たまにこの近くまで迷い込んでくる子はいるし、まだ残ってるかしら?そういえば、ドワーフとエルフは今は何しているのだわ?


「あの…あの…ウルの夢が叶うといいね…。ボ…ボクたちには時間があるからきっと叶うよ」


 マールが頭をなでてくれる。この子は一番若いけど、いっちばん優しいのだわっ




「大変大変!!!どうしよう!!」


 ある日の朝、メルが大きな声で騒いでいた。後ろにはマールが震えている。お気に入りの樹の上でムーンフルーツを食べていたわたしは、何があったのか聞く。


「どうしたのだわ?」


「湖の…!!真ん中に!!!に…に…に…人間がいるのよ!!!」


 人間…?あのよわっちぃ人間??いつの間に湖に来たのかしら?


 フォレの湖の真ん中には、石の壊れた家みたいなのがあって祭壇というものがある場所がある。古いピクシーが言っていた。


 そこはいつも一番綺麗にしておかないといけない場所で、その祭壇の上に人間が寝ているそうだ。そもそも、湖に誰か入ってきたらわたし達の結界に引っかかるはずなのに…面白いのだわ!


「よし!!メル!マール!ついていらっしゃいなのだわ!!様子を見に行くのだわ!!!」


「ええええ~!!!!ボ…ボク怖いよ…」


「人間だからもう死んでるんじゃない?」


 メルとマールがそれぞれに返事をする。


「つべこべ言わないの!!楽しいことが始まる気がするのだわ!!行くのだわ!!!」


 2人の手を掴んで、湖の中央に引っ張っていく。祭壇が近づいてくると、確かのその上に人間がいる。わたし達は近くの壊れた柱の陰に隠れて様子を見ることにする。


 髪の毛の色は深いブラウン。黒に近いのかしら?おちびちゃんじゃないけど、おっきな人間になる途中みたいに見えるのだわ。


「あ!ウル!見て!!起きたみたいよ!」


 ゆっくりと人間が起き上がる。あたりをきょろきょろして、自分の体をペタペタと触っていたと思ったら、突然起きて湖に走っていき、水面に映る自分の顔を触りながら、じーっと見つめていた。


「あれ、何してるのかな??」


「わからないのだわ。人間の習性には詳しくないのだわっ」


 しばらく様子を見ていると、突然立ち上がり、ゆっくりと祭壇まで歩いてくるように見えた。その時、メルがもっとよく見ようとわたしの体を押し出そうとする。


「こら!押さないの!見つかっちゃうのだわ!!」


「あたしたちにもちゃんと見せなさいよ~!!ウルだけずるい!!」


「危ないものかもしれないから私が見てあげてるのだわ!ありがたく思うのだわ!!!」


 メルに苦情を言っていると、「こほん」という音が聞こえた。わたしたちは口を手で押さえ、石の柱の裏に身を隠す。


「あ~そこにいるのは誰じゃ?もしよかったら少し話を聞かせてくれんかのう?儂は特に怪しいものじゃない。いや…今の儂の見た目は怪しいのは怪しいのじゃが…。」


 人間は言葉を発したが、明らかに私たちに向けて声をかけてきていることが分かった。


「ちょっと!あたしたち居るのばれちゃってるわよ!どうすんの!」


 メルが慌てているが、見つかっているなら仕方がない。なんて面白…いえ、驚きの展開なのだわ!もし危ないものだったら即座に殺してしまえばいいのだわ!


「え~…ボ…ボク怖いんだけど…」


 マールは怯えているようだが気にしない。「もう遅いのだわ!行くのだわ!!」と言って人間の前に飛び出し、目の前に立つ。ぐっと体を前に出し、指さしながらわたしは問いただす。


「ねぇねぇ、あなたどこから来たの?こんなところに人間が居るなんて珍しいのだわ!ここは私たちピクシーが見守る聖域なのっ。もし悪いことしようとしてるんだったら許さないのだわ!」


 人間はきょとんとして、苦笑いしながら、ここにいる経緯を話始めた。その内容はとても不思議な、それでいて新しい何かが始まるような気配を感じるものだった。


 この世界とは違う世界で生きていて、古い人間になって?死にそうだったのに悪い神様をやっつけちゃって?そしていつの間にかここにいた??


 簡単に信じられない話ではあったけれど、体から滲むかすかな気配は、今は殆ど感じることができなくなった女神様と、精霊たちの匂いがする。


 それから、服を着たいというので、人間が着るものを探してあげたり、わたし達が知ってるこの世界のことを教えてあげたりしたのだわ。


 名前も不思議な響きで、長すぎて呼びづらいから、「シノ」って名前を付けてあげたのだわっ。


 わたしが決めた名前を嬉しそうに貰ってくれて、私もとってもとーっても幸せな気分になったの!この人間、とってもいい子なのだわ!!


 でもでも、わたしたちの話しだけではちょっと足りなかったみたい。当り前よね。わたしたちは魂に刻まれているものと、この森の話ししか知らないのだから。


 シノはもっとこの世界のことが知りたいから人がいる場所に行きたいと言い始める。


 …あれ?これってひょっとして最高にチャンスなのでは?シノについていけば、森から出て、外の世界を見れるのでは?


 面白い、面白い、面白すぎるのだわ!!!決めた!!決めたのだわ!!!わたしはこの人間の手伝いをすることに決めたのだわ!イヤと言われてもついていく。


 他の2人にもちゃんと相談しないと!わたしが居なくなったちゃうと2人が大変だもの。




 それからしばらく、シノは人間の武器をつかって、森の魔獣と戦う訓練をしていた。


 最初は全然敵わなくて、ようやく小さい獣なら倒せるようになったころ、精霊の匂いを強く感じるようになったから話をきいてみたのだわ?


 すると、体に精霊を憑依させて力を使うなんて無茶なことをしていたので思いっきり叱ってあげたの。


 精霊を体に入れるなんて…一歩間違えば死んじゃうのだわ!!こんな面白…こほん。貴重な人間を簡単に死なせるなんてもったいないのだわ!!


 そのかわり、あたしを通して自由に精霊の力を引き出せるように、シノとわたしの魂を繋げてあげたの。


 精霊の力を使えるようになったシノは森の獣たちと充分に戦えるようになったのには驚いたのだわ。さすが悪い神様をやっつけただけあるのだわ。


 魔法を使ったことが無いというシノに、簡単に魔法に似た属性の使い方も教えてあげたわ!わたし達ピクシーは魔法が大の得意なのだわっ!すごいのだわ!?


 それにしても、人間が倒した森の獣を食べちゃうのはびっくりしちゃったけど、わたしも食べてみたの。


 とーってもおいしかったのだわっ。前に来たドワーフは変な固そうなものを食べてた。エルフも似たような感じだったのだわ?こんなの初めてでわっくわくのどきどきっ。


 メルとマールはムーンフルーツや花の蜜が良いって言ってたけど、それとはまた違った美味しさがあるのだわ!!人間の世界にはもっとおいしいものがあるらしいって?さらに外の世界が楽しみなった。


 あ、ちゃんとメルとマールにも外に行くことを話さなきゃね。まだ話してなかったのかって?だってシノが面白すぎて観察するのに手一杯だったのだわ!決して忘れてたわけではないのだわ!




 ある日、2人にシノについていくことを話すと、メルから「行ってきなよ」とあっさりとした答えが返ってきた。


 ここは「行かないで~」って泣いてお願いする場面なのだわ?2人でフォレの見守りは大変なのだわ?


「大丈夫よ。あたしもマールもあんたに負けないくらい力はあるんだし。人間なんてあたしたちの時間に比べれば一瞬でいなくなっちゃうのよ。シノがいなくなったらまた戻ってくればいいじゃない。ずっと外の世界を見たいって言ってた貴女の夢が叶うんだから」


「…ウ…ウルは…毎日…楽しいけど退屈って言ってた。だ…大丈夫…湖は…ボクたちが守るから」


 メルとマールはそういって快くOKしてくれた!!


「ありがとう!!2人とも大好きなのだわ!!!」


 わたしは2人をギューッと抱きしめて精一杯のありがとうを込めた。




 30回くらい太陽が昇ったころ。シノと出発する日が来た。


「じゃぁみんな元気でね!行ってくるのだわ!」


 こうしてわたしは5000年過ごしたフォレを出発したのだわっ!


 ずっとずーーっと願ってた森の外の世界を知ること、その一歩が始まったのだわ!…ん?一歩?わたしたちは歩かないのだわ?


 まぁいいのだわっ。美味しい物たーくさん食べるのだわー!!!


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