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星がそう在れと叫ぶから〜神と魔法を科学して〜  作者: 鰆の天竺
二章

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21/56

シャルの日記(※一部抜粋)


 今日からダミアン首相の護衛が始まった。報告書代わりに使えるように手記を残しておこうと思う。

といっても手記には変わりないので主観を排する訳では無いが。

ちなみに七人同時に動くのは少し多すぎるということで宿に二人置いてローテーションを組むことにした。

首相には完全な変装をさせておいた。体型から目元までメイクでなんとか別人に仕上げた。シウェル様様だ。


 ヤグルマの街には北部、南部、西部、中央区の四つの区分があるが最初の四日は北部を見て回ることになった。

その間は北部の宿に泊まることになるのだが、一体何の為に中央区の宿を取ったのか分からなくなる。

ダリルが真っ先に機密事項に付いての一切の会話を禁止するように全員に釘を刺して回ってくれていた。

立場が故にそこのあたりにしっかり気が回るのは非常にありがたい。

文書などの形に残してある機密情報は誰一人持っていないのは幸いだった。


護衛一日目

メンバー:シャル、シウェル、レオン、ダリル


 一日目は様子見ということもあり、なるべく人間(サピエンス)かつことを荒立てない者で行くべきであるとニコラから提案があった。

当人も自身の血の気の多さを自覚しているらしく、サピスのお守りを買って出てくれた。

特に北部は歓楽街が多く変な絡みをされる可能性が高いからその判断は正しいと思える。

俺自身も頭に血が登りやすい方故に冷静な時に正しく判断を下せるとう言うのは見習いたいものだ。


 首相は北部においては主に嗜好品や娯楽産業についての情報を集めていた。

なんでも酒や煙草などの一部の嗜好品を規制するべきかどうかが議会で議論されているようだ。


「――もし仮に酒とタバコが麻薬みたいに規制されたら?国がンな馬鹿なことするかは疑問だが……俺は大人しく店を畳むね、食い扶持をつなぐ為のツテには困っちゃいねぇからな。だが間違いなく治安は悪化するだろう。」

「それは何故かね?」

「犯罪組織にでっかい資金源ができるからだよ。幾つかは当然潰されるだろうが酒には麻薬よりもずっと充実した製造元と販路が有る加えて元々好きで飲んでやつからの需要も大きい。これを抱え込まれたらマフィア共に大量の金が入ってくるだろうな。」


多くの店では感情論以外の返事はなかった中で一人だけこう答えた。

今度のスピーチに盛り込むのは難しそうだし首相がどう思ったかは知らないが俺にとっては新しい知見だったのでここに認めておく。

この日は特に荒事もなく、初日である今日はこれ以外書くべきこともなく終わった。





護衛二日目

メンバー:シウェル、サピス、レオン、ニコラ


この日は俺とダリルが宿で留守番することになった。

ダリルはほとんど初対面みたいなものだし、初日にめちゃくちゃ怒らせたことが強く印象に残っているからどうにも苦手意識があったが、まず初めにそのことについて謝ってきてくれた。

もともとこちらが悪く、その怒りは当然である旨を伝えたら「お互い様にしましょう」と行ってくれた。

それで、気さくに話しかけてくれた。

 


「ところでサピス君ですが……彼とはどこで?」

「拾ったんだよ、森の中で。んで少しでも人間であれるように『サピス』って、名付けて俺とシウェルで育てた」

「やっぱりサピスって名前はそこからですか」 

「それがどうしたってんだ」

「ちゃんと人に育ててることが出来ていてすごいなと」

「それはどういう?」


「えっ?気づいていなかったんですか?人間は魔族と『認識』したものに対して九割以上の確率で強い攻撃性を覚える事はご存知ですよね?」


「それは知っている。かなり前の有名な実験だろ?リンゴだろうとカブトムシだろうと魔族と認識したら攻撃的になっちまうってやつ」

 

「首相は知りませんが、僕もレオンさんも、街でばったり会って魔族と認識したはずのニコラさんも、そして貴方がた自身もサピス君にその強い攻撃性を覚えていないじゃないですか」



「首相は知りませんが、僕もレオンさんも、街でばったり会ったニコラさんも、そして貴方がた自身もサピス君にその強い攻撃性を覚えていないじゃないですか」彼のその言葉で俺はハッとして、思わず泣いてしまった。宗教家は人誑しばかりで困る。



護衛三日目

メンバー:シャル、サピス、ダリル、ニコラ


 この日は賭博場にやってきた。一応公営のものではあるのだが、やっぱり北部にはその手のイメージがついているからか惑星のダリルとニコラは何も言わずとも警戒していることが読み取れた。

が、そんな殺気立っている二人を気にする様子もなく首相は賭博場の外周を回り始めた。一通り見て回ると突然物乞い、それも子どもの物乞いに膝を落として話しかけた。


「ねぇボク、おとおさんとおかあさんは?」

「おうちにいる」

「どうしてここにいるの?」

「こうしたらおかねをもらえるからもらってこいって言われた」

「そうなんだ、じゃあこれ。ここで食べてね」


首相がそう言って子供に非常食として持ち歩いていた乾パンを渡すと、子供はそれを口に放り込んだ。

子供には固くて仕方ないのか、奥歯で砕こうと顔を真っ赤にして涙を浮かべている。

首相は水を渡し、口の中でふやかすように促す。食べきるのを見守った後こちらに帰ってきた。


「妙に子どもの乞食が多い。捨て子だと思っていたが……あの様子だと金を持ってくる道具として使われてるようだな。ただの孤児ならばある程度は保護のしようは有るのだが、扶養者がその責任を放棄してるとなると線引が難しいな……」


いい気分はしなかった。

この歳になってみっともないなと思う。

それでも、この世の中にどうしようもない親がまだ居ることが、少しだけ苦しかった。



四日目

メンバー:全員


今日は宿を出て南部へと向かうため全員で動く。

やっぱりこれだけの人数が居ると仰々しいな。

首相に関して、いくら変装しているとはいえやんごとない身柄なのはバレてもおかしくないし、人数が多いと馬車も狭い。

北部を出て中央区と南部の境目ぐらいで馬を休めている時に、首相が皆に言った。


「君たちのお陰で安全に街を見て回ることが出来たし、まだ議論になっていない課題も見つけることが出来た。感謝するよ。そして、後二週間ほどよろしく頼む」


皆それぞれ顔を合わせた後、やれやれと言った表情で頷いた。

政治家もまた、人誑しばかりで困る。

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