大公演
ギルドの酒場で惑星の三人が食事を摂りながら会話をしていた。
ダリルは白身魚の香草焼き、ニコラはポークステーキ、レオンはパンとポタージュスープと言ったように各々好みの料理をつついていた中ダリルが驚きに声を上げる。
「ニコラさんまだ宿無しだったんですか!?」
「まあな」
突然大きな声を出したダリルに特に驚く訳でもなく、食事を続けながら淡々と返す。
「お金がないわけじゃないのにどうしてですか?」
「あー?そもそもここの国籍取るのに時間がかかったからな。そこで慣れたってのもあるし、まあ他にも色々あって宿無し生活続けてたら冒険者になってもなんとなーくそのままだったってだけだ」
「苦労したんですねぇ」
「苦労で言えばそりゃもう生まれから大変でしょニコラは……」
「まあ北の国生まれのエルフですしねぇ」
「過去の話はあんまりいい気分しないからよしてくれ……」
「ああ……すまん。んで、結局ニコラはギルドに住み込むので良いのか?」
「それで頼む、なんとなく続けていたが家が……あるに越したこと無いしな」
「ニコラの生い立ちは今は聞かないとしてダリルは過去になんかないの?」
「なんですかその質問、失礼ですよ全く」
呆れた様子を見せるも、ダリルが手に持つ食器は止まることは無かった。
「でもまあ、僕の人生掘り起こしたところで面白くもありませんよ。どこまでも恵まれてきたんですから」
「でもほら、天才が故の苦悩みたいなのないの?」
あんまりにも不躾な質問にダリルは大きくため息をつく。
「他人から理解してもらえない……みたいなヤツですか?無いですよ。あの手の話は自分には見えて他人には見えないものがあるという初歩的なことすら理解できない、一歩足りない天才のモノです。相手に合わせて自分を理解させることができるだけのコミニュケーションの力も持ち合わせていました」
「生まれが生まれなんだからそっち方面のはあるだろ。下心にまみれた近づき方とかされなかったか?」
「貴方の言う通り生まれが生まれなので当然通ってた学校もそんな生まれが生まれな人たちばかりだったので無かったですよ」
「無敵かよ……」
「まあ、強いて言うならば……生みの親からの愛を受けられなかったことでしょうか」
食事を終え。カチャリと、ダリルは食器をその場に置いた。
「そうなのか?」
「ええ、父親は上役としてどこまでも私を部下として扱いますし……母親に至っては物心ついてからは一度も見たことすらありません」
「それはお前の宗教の決まりか?」
「まあそうですね。祝福の対価といいますか。端的に言うと大司教との間に生まれた子を母親と引き離すことで何故か知的能力が跳ね上がるんですよ」
「なんで?」
「分かりません。ただそうなのです。ここに僕という実例もいますしね。理由としてまともですし大した苦労でもありませんよ。育ての親もちゃんと僕を育ててくれましたし」
「なるほどなぁ」
そんな話をしていたら気付けば三人の皿はきれいになっていた。
話が一段落ついたのを見計らってかギルドマスターがやってきた。
「お前ら飯食い終わったか?仕事の話があるんだが……今度この街で首相の演説があるだろ?それの護衛にうちともう一つのギルドから護衛としてAランク冒険者を出すことになってるのは知ってるよな?」
「そりゃまあ、この前聞きましたけど……」
二百年程前に国の内乱が終わり、市民によって社会構造が大きく変えられた日、その日に首相が講演を行うのだ。
血塗られた内乱の日々こそもうエルフぐらいしか覚えては居ないが、それでも魔族の被害者など死者を悼む日として忘れてはならない一日なのは違いない。
それで国の一大イベントの護衛を任されることなど、数日前のギルド全体への連絡にその旨があったことをもう忘れてしまうには重要度が高すぎる案件だ。
「そのもう一つのギルドが決まった。北部ギルドの『ミレニウム』だそうだ」
「……で、それを私等に言うってことは?」
「お察しの通りウチからはお前たち『惑星』を出すことになった。というわけで連携を強化するために向こうに挨拶に行ってくれ。向こうはもうすでにこの近くの宿に泊っているらしい。連絡はしておいた」
「要件の重要度はそっちのほうが重要だろうが。先に言わんかい」
「悪い悪い」
「早くないですか?今度つっても一ヶ月以上あるのに……」
「そんだけ重要な案件って訳だ、寧ろ遅いまである」
「まあ、お国の中枢に関わる話ですしね」
「だとしたらなんで俺達みたいなAランクなりたてのパーティに?」
「当然他のギルドから実力を疑問視する声が上がらなかった訳じゃないが……まあいろんな要素でそれがひっくり返ったんだよ」
「ふーん」
「ま、とりあえず行ってこい」
「うぃっす」
そうして三人は席を立ち、教えられた宿へと向かう。
漆喰に塗られ真っ白な外壁をした大型の高級宿だ。
「しっかしまあずいぶんと良い宿を取ったんだな」
「情報の機密保持のためですよ。壁が薄かったり口の軽い人の運営してる宿を取った日には警備が意味をなさなくなるかもしれません」
「それもそうかぁ」
受付にバッチを見せ、職員が案内するのに従ってホテルの中を進む。
中層階の角部屋の戸を三人は叩いた。
「こちら惑星。挨拶に参りました」
「はーい、鍵は開けてあるので入って下さーい」
ドアノブをガチャリと回し、部屋に入る。中にはおっとりとした様子の女性が一人、目つきの悪い男が一人、右半身が異形の少年が一人。
「あっ!この前の!」
彼はニコラを見るや否や声を上げる。
「知り合いか?サピ坊」
「その声と……ああ。橋の上のお前か。魔族の気配がしたから怪しんでたが、本当に冒険者だったんだな」
「知ってるのかニコラ?」
「まあ、橋の上で暇してたときに話を少し」
「なるほど」
「お初にお目にかかります。中央区ギルド『メジオ』の惑星です」
「先に名乗らせて済まない。北部ギルド『ミレニウム』の『反実』だ。よろしく頼む」
「よろしくね〜」
「あっ、よろしくお願いします」
初対面ではない二人を意に介さず、ダリル、レオンと反実の二人が挨拶をする。
「個人名も一応言っておくか。俺はシャル、目を見てもらったら分かると思うがノイマンだ。前衛職をやっている」
「私はシウェル、人間よ。シャルと同じく前衛をやってるわ。ちなみにそちらのギルマスからあなた方三人については話を聞いています〜」
「僕はサピスです!種族は半魔半人になります!魔法を用いた中後衛です」
「どうもすいません。ギルマスが話通してくれてるならこちらの自己紹介は軽くで良いですかね?」
「ああ」
そうして三人が自己紹介を済ませた。
「しかし半魔の少年ねぇ……タッパもダリルと大差ないし、なかなか大変だったろ」
「そこそこには大変でしたね……でも、仮にシャル兄とシウェル姉が居なかったらもっと大変だったと思います。ニコラさんこそ、生まれで苦労したのではかと……」
「なんとか今は良い人生になったさ」
「二人共、生まれに難がある同士話が合うんですか?今は取り敢えず当日に関して簡単な段取りを……」
「あー、そのことなんだがな――」
シャルが気まずそうに言葉を続けそうになったその時、部屋の奥にある備え付けの風呂やお手洗いに続く扉が開いた。
「あれ?もう中央区ギルドの冒険者来てたの?」
かっちりと背広を着こなす白髪の初老だろう男性。その人を見て、ニコラは目を見開き、レオンは「ほえ〜」と声を漏らし、ダリルは苦虫を潰したような渋い顔をした。それもそのはず、今冒険者たちに囲まれているこの男こそがこのスクラティア国の現首相であり、彼らが一ヶ月と数週間後に護衛するその人なのだから。
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