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私の遺物、その呪い


 石橋から立ち去って、ニコラは手持ち無沙汰に街をうろついた。

まだ昼食には早い。軽く射撃の練習でもしてやろうかと学会へと足を運んだ。

しかし残念なことに射撃練習場は授業で使われていた。


「えー、今回は冒険者と軍において魔法駆動機械マジック・ファンクションを軸にその装備の違い、またその違いが生じる理由などを話す。これはまあ実際に使ってみるのが早いだろう。経済だったり社会だったり、今後の授業の様々な部分で出てくる話だから簡単なことだがしっかりと理解しておくように」


 無愛想な教授が学生たちにそう説明する。自分の使っている道具についての話をするのだ、少しばかり興味を惹かれるので少し離れて聞いていないふりをしながら聞き耳を立てる。


「まずは冒険者と軍の違いだ。まあ色んな違いがあるのだけれども、今回の話とは少しずれるがまずは役割についてだ。はじめに冒険者の役割について……分かるものは者はいるか?」


一人の生徒が挙手をし、教授が当てる。


「冒険者は学会のフィールドワークや特殊な実験に従事することや、一部機関からの依頼を受けて動くある種半公式的に動く役割を果たしています」


「……質問が悪かったな。軍も冒険者も『殺し』を主に仕事としているわけだ。その『殺し』においての役割の違いを聞きたかった。いけるか?」


「あっ、はい。分かりました。えっと冒険者の殺しは前のめりで、それそのものが目的化しています。依頼を受けて、対象を探し出して殺す、排除の役割を負っています。一方現在の軍の役割の大きくは国を守ることです。『魔王』の発生により生まれる大規模な魔族の侵攻から国を守ったり、国同士の諍いにおける最終手段だったり。明白な殺害対象がおらず、殺すことそのものが目的ではないということでしょうか」


「冒険者だけでなく軍についても言及してくれたがその通りだ。さて、軍は国単位での存在のため非常に規模がでかい。当然相対する存在もだ。国なんて最たる例なわけで。他にも千年程前に起きた『魔王』による侵攻――これを一部は『魔災デビル・デストラクション』と呼ぶのだが――これにおいてこの国に攻めてきた魔族は百万を超えるという説もある。そういったものに対峙する大規模な存在である軍と、ほぼ個人と言ってもいい冒険者とでは扱う道具に差が出る。飛び道具一つとってもそうだ。冒険者は大抵の場合は弓、もしくは魔法駆動機械の銃を扱う。しかし軍は未だに火薬方式の飛び道具である大砲を用いる。これは何故か分かる者」


先ほどとはまた別の生徒が手を挙げ、当てられる。


「軍は規模が大きく物量戦になることが多いので物さえ揃っていれば少人数で動かすことができる上、仕組みを理解すれば全員ほぼ同等の出力を可能とする火薬を始めた物理系媒体の道具のほうが好ましい、その一方で冒険者の用いる道具はほぼ個人レベルでの運用になるため火薬などの高価な消え物を扱うのは難しく、自身の能力だけで完結できる魔法系媒体の道具が好ましいからです」


「うん、素晴らしい。その通りだ。この話はかなり有名でな、先の彼も恐らく読んでいるだろうが、軍事経済学本の金字塔『軍隊に於ける魔法職不要論』第一章の中の一節だ。色んな分野に通づる話をしている本だから諸君にも是非読んでもらいたい……とそんな話は置いといて。ここに魔法駆動機械の銃と火薬式の大砲を用意した。それぞれ使って使用感を確かめてみてくれ」


なるほどなぁと授業を盗み聞きしてニコラは感嘆していた。

育ちの悪く、教育も十分に受けられなかった学のないニコラにとって、基本的でわかりやすい内容で会ったことも手伝ってこういった話は非常に興味深く感じた。

しばらくそうして授業の内容を聞いていると――


「よっニコラ。授業の盗み聞き?悪いことするねぇ〜」

「やあニコラ。お久しぶり」


レオンともう一人、青い髪をした、でもダリルよりはずっと背の高い男――以前レオンがパーティを組んでいたベンである――が話しかけてきた。いつもどおりのレオンに対してベンは少しだけ気まずそうな様子を見せる。


「ベン……」

「いやぁ、まさかニコラもレオンと組むことになるとはね……思いの外に世間って狭いんだね?アハハ……」

「お前よくもまあ、ぬけぬけと私にその面見せれたなァ!!」


激昂、声を荒げてニコラがベンの胸ぐらを掴んで持ち上げる。

いつも冷静に威圧して詰めて来るタイプの怒り方をするニコラがこうも感情的な言動をしたためにレオンは少し驚いた。


「ごめんよニコラ……勝手に君の下を離れたことについては謝るから……冒険者になってから忙しくてなかなか会えなかったんだ。そこから引っ込みがつかなくなって……」

「……ッ!!」


掴んだむなぐらを離すと同時にニコラはベンを突き倒す。

声こそ出ていないが、まだ怒り心頭な様子だ。


「あのね……僕は今この学会で働いてるんだ、冒険者上がりの魔法職として教授の助手をしてる。教授は優しい人でお客さんを呼ぶことを許してくれるからいつでも来ていいよ……ニコラ」


震える声でベンはそう言った。

ニコラは大きく息を吐き出して、自分自身を落ち着かせる。


「まあ、お前がここにいることが分かって良かった。お前に会う事を願ってあのクソみたいな場所で孤独に一夜を過ごす必要がなくなったんだからな。許しはするが、もう二度とこういうことはしてくれるなよ」

「ありがとう、ニコラ」


レオンはニコラが待ち人を待つべく孤独な夜を過ごしたと知り、ニコラにも乙女チックなところがあるのだなぁと意外に思う顔をしていた。

そんなレオンを放ってニコラはどこかへと立ち去っていった。


「ベン……お前女子に嫌われやすいんだな……」

「その言い方はよしてくれレオン。ケイトに関しては単純に異常なほどそりが合わなかっただけだし、ニコラに関しては彼女から逃げた僕が純粋に悪い」

「逃げたってお前……確かにニコラって怖いけど……」

「そういうことじゃねぇって!!」


ベンはため息を吐いて続ける。

 

「僕にとって彼女は呪いなんだよ。きっと彼女にとっても僕が……いや、そうでもないか。まあ細かくは僕の口からは言えないし、僕の名誉のために言いたくないけど。本当にどうしようも無いほどの腐れ縁なのにそれを切ることができすにいるんだ」

「なるほどなぁ……あっ!てかニコラにギルドに住むかどうかの話聞くの忘れた!」

「マスターまたやらかしたの?」

「そうなんだよ……」

「あはは、変わってないんだね……いや、僕がギルド抜けてから間もないだけかな?」


レオンとベンは談笑しながらその場から立ち去った。

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