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レオンの休日


 レオンはヘレンの研究室に訪れていた。ダリルが二十面体魔法に覚醒した事や吸血鬼についてなど、共有すべきことが多くあったからだ。


「前のパーティの時はご無沙汰だったっていうのに、今となってはこうも頻繁に来るようになったねぇ」

「前は色々大変でなかなかここに来れなかったんでね……」

「なるほどね。あんたの元仲間もこの学会に居るわけだし、たまには顔出してやりな」

「えっ、そうなんすか?」

「あんたやっぱり把握してなかったんだね……本当に薄情な奴だよ」


元同僚のその後について全く知っていなさそうなその態度に対してヘレンは思わずため息を吐いた。


「あははは〜……円満解散ってわけでもなかったんでその辺はねぇ……その話は置いといてダリルについて何かあります?」


露骨に話をそらしたレオンだったが、ヘレンとしてもそこを深堀りするつもりはないので次の話題へ移る。


「あぁ〜、そうだな。できれば三日……いやできれば五日間ぐらい借りたいんだが……彼は立場が立場だろう?そんなまとまった時間が取れるのかどうか……」

「そこはプライベートで借りるんじゃなくて住み込みの依頼ってことにすればいいんじゃないですか?なんだかんだ依頼の間は結構な日数で教会から離れてるんで、問題ないと思いますよ」

「んじゃあ、そうするかねぇ」

「そうしてください。んじゃ、僕はお暇させてもらいますね」


そう言ってレオンは学会を出てギルドへと帰る。


「レオン、只今帰りました〜」

「お疲れ様でした」


帰ってきたときの受付嬢のネモの挨拶も今日は何故かいつもよりか丁寧な気がする。

やっぱり気の所為かもしれないが。


「だいぶレオンさん達の話題も薄れてきましたね」

「まあねぇ、同じ話ばかりしててもつまらないしそういうもんなんでしょ」

「もうちょっとチヤホヤされたかったりしましたか?」

「うーん、気分が良くなかったといえば嘘になるが……それよりもあの忙しない感じの大変さの方が大きかったかな」


惑星が吸血鬼とアルラウネを一晩にして突如討伐した事はその後しばらくの語り草だった。

三人が目を覚まし、依頼人のレンとの話を終えて数時間するとギルドに住み込みの冒険者たちが下りてきて三人を取り囲み、あれやこれやと質問をし始めた。

吸血鬼の討伐そのものよりも、団体の調査依頼を受けていたはずなのに気づけば上位魔族と何度も戦う羽目になっていたということが話として非常に面白そうだったからだ。

やれどうやって尻尾を掴んだのかだの、やれどういった経緯だったのか教えろだの。

十数人の冒険者に囲まれて根掘り葉掘り聞かれるのは、依頼の疲れも相まって非常に鬱陶しかった。

途中でダリルの二十面体魔法の覚醒もバレて更に質問は加速、もはや収集がつかなくなっていたのでギルマスに泣きついてなんとか事なきを得たが……


「そうですか、なら私がゆっくりと余裕を持ってレオンさんを褒めてあげてもいいですよ。ほら、いつも貴方には強く当たってますし……」


照れ隠しなのか、唇を尖らせながらネモがそう言った。


「うーん?ネモが?俺を褒めるの?なんか調子狂うからいいや」

「あー、はいはいそうですか。分かりましたよこのヤロウ」


ネモはそう言って悪態をついて舌打ちをした。

なんとなくいつもよりも丁寧だったネモの機嫌が突然悪くなったのでレオンは当惑した。


「えっと……なんか……ごめん……」

「謝るこたぁないですよ。私が百悪いので」

「あっ……えっ……うん……そうなんだ……」

「まあいいでしょう。今度食事にでも行きましょうか、私に強く当たられるのがいいというなら、私がよりそうできるように貴方を知らなければなりませんから。どこかで食事をして、貴方をよく知ろうと思います」

「え、えぇ……うん……お手柔らかによろしくね……」

「じゃあ、明後日にいきましょう。約束ですよ。貴方はそれを破るような人じゃないと、私は今のところそう考えているので」


そうやってネモはレオンとのデートの約束を取り付けられた事を、心の中でガッツポーズして喜んだ。

ちょうどそんな折に「レオーン」とギルドマスターの呼ぶ声が聞こえてきた。


「はーい、今行きまーす。じゃあネモ、明後日ね」


そう言ってギルマスに呼ばれたレオンはギルマスの部屋へと入る。


「談笑を遮って済まなかったな」

「大丈夫ですよ、ちょうど一通り話はついたところですから」

「そうか、なら良かった」

「して、何用ですか?」

「ああ、お前のパーティのニコラとダリルに付いてなんだが――」


そう言ってギルドマスターは一枚の紙を取り出した。


「これは……ギルドへの入居についての紙?」


ギルドはCランク以上から様々なサービスを所属した冒険者に対して行ってくれる。

レオンがニコラに話した武器のメンテナンス関連に始まり、酒場での食事の提供、そうしてギルドの居住区に住まわせてもらうこともできるのだ。

先の住み込み組もここに住んでいるし当のレオンもそうだ。

本来はギルドに入るタイミングの手続きで入居希望かどうかを聞くのだが……


「その……なんだろうか……普通に忘れててね……」

「マスター……やっぱりギルドに入る手続きも事務に投げたほうがいいですって」

「それは俺も分かってる……分かってるんだがよ。それが俺のポリシーだから……」


冒険者上がりのギルドマスターは純粋に事務能力が低い。

なので殆どの書類仕事は事務に投げ、当人は外回りや主な依頼主に対しての顔出しなどの外交よりの仕事に専念している。

だが、ギルドに入る手続きだけはギルドマスター本人が行っている。なんでも「これから面倒を見る相手だからはじめぐらいは自分で相手しなければならない」らしい。


「まあいいですよ。取り敢えずダリルとニコラには聞いておきます。俺、ダリルはともかくニコラがどこに住んでるかわかんないんで三人集まった時聞いたんでいいですよね?この後すぐにやらなきゃならない急ぎの話でもなさそうですし」

「ああ、問題ない。悪いな」

「大丈夫っすよ」


そうしてレオンは部屋をあとにして街へと繰り出した。

特にやることもないが依頼を終えて若干財布に余裕ができたから適当な本でも買おうかと、そう思ってやってきたマーケットでレオンは意外なものに目を奪われた。

幾つもの歯車が合わさったような見た目のアクセサリーだった。

まじまじとそれを見つめるレオンに気づいて老齢の婆さん店主が声をかけてきた。


「兄ちゃんあんたこれが欲しいのかい?特に動いたりしないただのアクセだよ」

「あ、うん。分かってます。純粋に僕のセンスがこのアクセサリーを欲しがっただけですよ」

「そうかい。このアクセサリはねぇ……魔法工学のコンテストで優勝したらもらえるトロフィーと同じ形なのよ。要するにレプリカだね」

「へ〜そうなんですね」

「優勝すればこれと同じ形のトロフィーが無料でもらえるよ」

「僕はそっち方面には疎いんで無理ですね」

「じゃあ買いだな」


互いの冗談に軽く笑った後。レオンはそのアクセサリーを買い、近くの喫茶でコーヒーを飲みながらそれを見つめていた。


「だいぶヘレン(先生)の趣味が移ってきたな……コーヒーをこうも楽しめるようになるとは」


そんな感嘆混じりの独り言を漏らしながらそれを見つめる。

数えてみれば八つの歯車が複雑に絡み合っていて、幾つかの歯車の中心には赤や青などの色のついたクリスタルが嵌められている。

ただ景品に似せたアクセサリーであり、これに恐ろしい曰くや、気の遠くなるような文脈は一切ない。

ただ、彼の感性にこのアクセサリーがフィットしただけなのだ。

自分が美しいと思う感性に従っただけなのだ。

コーヒーを飲み干す頃には日も随分と傾いてきた。

レオンは店を出て、軽い足取りでギルドへと戻っていった。

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