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一章エピローグ

一時間弱ほどして、三人は蕾を全て潰し終えた。


「ふぃー、やっと終わった……」

「しかしずいぶんと硬かったな……」

「まぁ見た目こそ蕾ですけど要するに卵ですからねこれ」

「数も多いし、潰すとなんか白い汁でるし……鳥というよりかは虫の卵みてぇだったな……」


そう言って軽く伸びをしたニコラは樹の下にある二つの亡骸に目をやった。


「しかし、怪しい団体を軽くつついただけで上位魔族が三体出てくるとは」


「本当にね、てか結局吸血鬼はなにがしたかったんだろ?」


「ヴァン公……吸血鬼はアルラウネを蘇らせたかったのでしょう。アルラウネの生態はかなり植物に近しいですから、接ぎ木の要領で適当な木の切り株に体の一部を挿して肥料として人血を与えていた――というのがおおよそ考えられるところです」


「なるほどなァ、互いに一途だったんだねぇ」


「思い続けた果てにようやく再開を果たす手前まで来たというのに、共々果ててしまったのです。悲恋ですね」


「殺しといてよく言う」


「まあでも、そこにどんな文脈があろうとも殺し(それ)をしての人だから、仕方ないよ」


「おっ、いいこと言うねぇレオン、仕事に誇りを持ってないと出ないよその言葉」


「この世の多くの生物はまた別の生物を糧に生きてますからね。人はそれがどんどん先鋭化して同族相手にもやっていますが」


「栄養が富に変わっただけでやってることは食物連鎖と一緒ってことか、やだねぇ資本主義ってのは」

「封建よかマシですよ」

「んなこた地図見りゃ分かるわ、てか私は北の国生まれだから尚更」

「ニコラの生まれって北の国なのか!?」

「そうだよ、差別対象だったにしては中々逞しく生きてるだろ?」


ニコラは自慢げな表情を浮かべてそう言った。

 

「まあ会って一ヶ月程度ですし仕方ないとはいえ、レオンさん僕とニコラさんの事全然知りませんよね。逆も然りですけど」

「まあ、仕事仲間なんて案外そんなもんじゃないか?」

「そりゃそうですけど冒険者として互いに命を預けるんですから」

「ま、身の上話をするにしてもまずはアレ片付けなきゃな」

「だな」

「……もう」


 ダリルが凍らせて防腐処理をした亡骸を運んで三人はヤグルマの街、そしてギルドへと戻ってきた。一晩だけで魔族の亡骸を二つも持ってきた三人はギルドの面々に好奇の目で見られていた。


「まあ、気になるのはわかりますけど夜通し戦って後処理までやったから凄い疲れてるんです。寝かせてください」

「はは、皆ごめん。話なら後でするから今は勘弁して」

「眠みぃ……」


戦いが終わり、自らのホームへと帰ってきた為にアドレナリンが切れ、惑星の三人にどっと疲労感が襲いかかる。

軽く湯浴みを終えてすぐに三人はギルドの休憩スペースの長椅子をベッド代わりに眠ってしまった。


 ――疲れもあってか、昼前に眠りについたというのに三人が目を覚ましたのは翌早朝だった。朝の支度を終した後に、ギルドの酒場に無理を言って朝食を出してもらった。


「あー、まだ疲れ残ってるかも」

「じゃあ寝ててくださいよ」

「無理、寝すぎて寝れない」

「てか昨日結局ヴァン公の家調べられてないじゃん」

「そういやそんな予定だったな……」

「まさかヴァン公自体が魔族だったなんて思いもしませんでしたしねぇ」

「またあそこいかなきゃいけないのか……」

「――その必要はありませんよ」


そう言ってギルドの酒場に入ってきたのは今回の依頼人、レンだった。


「三人ともようやく起きましたね」

「ああ、依頼人。どうしてここに?」

「いやなに、皆さんに連絡ごとがあるのでやってきたまでです。徹夜のお供を買い出しに行っている間に起きていたとは」

「徹夜?」

「皆さん昼前に眠ったとお聞きしたので起きたら話そうと思ったものの全然起きなくてですね……夜には起きるだろと思ってたんですけどね。そのままズルズルと徹夜に……」

「『せっかくここまで起きたんだし、ここで寝たらもったいないな』を繰り返した結果か」

「そう!その通りです!」

「気持ちは凄い分かるけどなんかこう……」

「馬鹿馬鹿しいのは自分でも分かってますよ……」

「まあまあ。で、連絡はなんですか?」

「おっと、そうでしたね」


レンは立ったまま買い物袋からなにかの飲料を取り出して一口飲んでから、事を伝える。


「――まあ要するにヴァン公が魔族だったことが分かってヴァン公絡みに警察からのガサ入れが入るのでその一環でノストルも調査されるから依頼についてはここで終わりって訳です」

「おっそうなのか、じゃあ今日はゆっくり休むとしようかな」

「いや〜まさか小さな組織つついただけで上位魔族が三体絡む事態になるとは大変でしたね〜皆さんに依頼して良かったですよほんと」

「「「……」」」 

「いや絶対なんか知ってますよね貴方!!」

「そういや以来の理由もなんかこじつけだった気がする!」

「いや〜そんな事言われても〜僕はただ貴方たちが適任だと思っただけですし〜」


ダリルとレオンがぎゃいぎゃい騒いでレンをまくしたてるが、とぼけるばかりでなにも言ってくれない。そこでニコラがゆらりと立ち上がりレオンとダリルを後ろへ押し退けた。


「知っているなら何か言ってくれ、知らないならばそのおちょくるような言葉遣いと態度を止めろ。ギルドとの契約を反故にするわけだから当然隠すことはないと思うが……言わないなら信用問題だぞ」


エルフ特有の長身とニコラの言葉の強い威圧感を受けてレンはその薄ら笑いを崩すことこそ無くとも、ヒュッとか細い息を吐いた。




――曰く、レンは裏の繋がりを持っており、ヴァン公が魔族の可能性があるという情報はそちらで掴んでいたらしい。


「そんな情報網持ってたんですか貴方……」

「そりゃ、教会に対して調査の為とはいえ悪いこと沢山してますから」

「自覚してんのがすげぇタチ悪ぃな……」

「僕が今より悪い人だったら十は下らない数の教会が潰れてますよ」


冗談めかして笑うレンだが、三人は白けた目で見るばかり。


「お前、人としてどこかかけてるんじゃないか?」


呆れ混じりにニコラがそう訊く。レンは冗談交じりな声色は崩さなかった。


「いやはや……それをあなた方に言われるとは思いませんでしたね」


レンは買ってきた瓶の飲料を空にして、机の上に置いた。


「社会において人のどうあるべきについてを研究している訳では無いので強くは言えませんが……私の見てきた限り、Aランク冒険者は皆人格に問題を抱えていましたよ。でも、それでも社会はそれを許すのです。法を犯した訳ではありませんから。社会が見るのは合法かどうかです。ただそれだけなのです。世間はその限りではありませんが……」

「――要するにお前と私は同類って言いたいんだな?」

「まあそこの解釈は私から言っては失礼ですので……」

「失礼なことを意味してるのか……」

「言葉の綾ですよ。では、私はこれで」


そうしてレンは退室した。残ったのは酒場の料理人と惑星の三人だけの静かな空間だった。


「その……あまり細かいことは気にしなくてもいいんじゃないかな」


料理人がカウンターから顔を覗かせて言う。


「あっ、聞いてたんですね」

「嫌でも聞こえてくるし……」

「なんか……すいませんでした」

一章が終わりました。2章が始まるまで結構空きますが、良い話だなーと少しでも思っていただけたらいいね、評価、ブックマーク、感想などしてください。この話にポイントが着く上に僕のモチベーションになります

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