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パーティの人間関係の不和が辛いので解散しました

冒険者ギルドの看板のかかった建物にある酒場の3人席で赤髪の女が紺色の髪をした男をまくし立てていた。

 

「いい加減にして!あんたの蒐集癖の尻拭いまでしなきゃ行けないの!」

「今回の依頼は遺跡の調査だったでしょう?研究の価値があるものは一通り持ち帰るべきです」

「それで死んでちゃ元も子もないでしょうが!」

 

強く避難する女と全く悪びれる様子の無い男。

過去の出来事まで掘り返してもうはや口論に収集がつきそうにない。

そんな間で人席の内のもうひとつに座っている男はもはや黙るしか無かった。

 

(胃が痛い……ココ最近ずっとこうだ……この前ようやくAランクに昇級したと言うのに……いや、昇格したからこそ、我武者羅にやってた時よりも2人のそりの合わなさが表面化したのかな。そうかぁここらで潮時かなぁ。)

 

彼は大きくため息をついて切り出す。

 

「ベン、ケイト、あのさ……全員の為にももうこのパーティ解散しない……?」



 ――そして彼は浮かない表情を浮かべひとりで街の大通りを歩く。


 (――さて、俺は現在事実上の無職か……そりゃ元A級冒険者ともなれば飯の種に困ることはないよ。でも生活水準が結構落ちるんだよなぁ。それは嫌だしやっぱ新しく仲間探さなきゃダメかぁ)


 ギルドの受付に仲間の紹介を頼んで見るが、フリーのAランク冒険者なんてそう居ない。

困った顔をされて追い返されてしまった。

パーティへの後からのメンバー追加は人間関係の問題に発展しやすい。

さらにギルドでのサービスがかなり充実するAランクで解散したとなるとその人間性に曰くも付く

他パーティからのスカウトはあまり期待できない。

全くないことはないだろうが一朝一夕で来るもんじゃないのだけは確かだ。

仕方あるまい、本当は行きたくはない場所だが()()()に向かうか。


 ――傭兵組合。

傭兵は冒険者に比べて変わり者が多いと聞く。

実際それなりに目立つ大通りに居を構える冒険者ギルドと異なりそれなりに入り組んだ裏路地に位置している。中に入って併設の酒場へと向かう。

先入観とは違い冒険者ギルドよりも若干賑やかなぐらいであまり荒さは覚えない。

適当な席に座り実力、コミニケーション能力ともに問題なさそうな者を探す。

ある程度顔を覚えなければならない結構な重労働だ。


 あいつはどうだろうか?いろんな人間とつるんでいて人当たりも良さそうだ。

いや武器が安い粗悪品だ。友人にはほしいが仲間にはなれない。

では今度のあいつはどうだ?

傷の様子からしてそれなりの魔族と戦っているはずだ。

いや、あいつの周りには人がよっていない。

こちらから働きかけてもなかなか採れない人材だろうな。


 あいつでもないこいつでもないと人を観察し、酒場の人間に話を聞くなどして三日目ほど。

彼の座る席の対面にキセルをふかすエルフの女性が座った。

武器は銃、それもそこそこのものを三丁持っている。

そんな観察をしていると話しかけてきた。


「この三日間何をしてたんだ?」

 

純粋に怪しんでいるのか。

それも三日間マークし続けたとなると警戒心が強くてなかなか良いな。

 

「今んところ敵意はないようだが、それが逆に怪しい。なんのためにここにいる」

「自分のレベルにある依頼がないからこうやって待ってるんですよ、アハハ」

「それはない。お前それなりに強いだろ」

「……分るのか?」

 

これは驚いた、相手の力量も測れるのか。

これは欲しい。

だがまだがっつくな、ゆっくり話を進めようじゃないか。

 

「つまらない嘘はついてくれるなよ?さあ言えよ、何がしたいんだよ」

 

机の上に乗り出し短い茶髪が私の額にかかる。

威圧感がものすごくある、正直怖い。


「――パーティ解散したからメンバースカウトに来たって訳か。しかし中々珍しいなAランク冒険者が解散だなんて」

 

もう少し引っ張りたかったのに圧に負けて全部吐いてしまった。

まあ、それでもこの人ならいいか。

 

「いやまあ、人間関係にかなり問題があってね。お恥ずかしいことですが。それで、私としてはあなたに来ていただきたいんですけど」

「お、私でいいのか?私は銃手だ、十分な資金がないと十全に力が発揮できないぞ」

 

まさか自分が選ばれると思っていなかったのか少し驚いた様子を彼女は示したが、あまりまんざらでもなさそうだった。

 

「ああ、銃含めて魔法駆動機械マジック・ファンクションは維持費が結構しますもんね。大丈夫ですよ。武器などの管理に関してはギルドがそれぞれの鍛冶屋だったりの然るべき機関と契約してかなり格安でサービスを施してくれるので。Aランクにもなると弾の値段が一般市場の三分の一割ったりした記憶があります。」

「……本当か?それはひどく魅力的だな。それなら喜んでパーティに入れてもらいたい。一応聞くが問題ないな?」

「もちろんです、私はレオンです。よろしくお願いしますね」

「私はニコラだ。よろしく頼む」

「はい、これからよろしくお願いしますね。ニコラさん。あと、砕けた話し方にしてもいいですかね」

「当然」

 

キセルを一発ふかして、ニコラはニコリと笑って答えた。

 

「で、冒険者パーティって三人からなんだけど。誰かあてとかあったりする?」

 

いきなりスカウトした手前あんまり要求しすぎるのも気が引けるので少し恐る恐る聞く。

 

「実力的に申し分ないやつなら一応知っているが……」

「なにか問題が?」

 

髪の毛を手でかき回し、少し悩んだようにいう彼女の様子にレオンが疑問を呈す。

 

「そいつは私と違って仕事が食い扶持以外の意味を持ってるからな、使命があるというか。まあ一旦会いに行ってみるかぁ」

 

そうして彼女は灰を皿に落として席を立つ。

座った様子しか見ていなかったから気づかなかったがエルフらしく身長が高くスタイルもいい。

色絡みはパーティの人間関係にヒビを入れやすい、変な気を持たないようにレオンは決意した。

 

「それじゃあ、その人のまでの案内はよろしくね」


 そうして彼女に連れられた先は教会だった。

 

「まあここに来た時点でわかると思うが今から話をするのは聖職者(プリースト)だ。何回か私に依頼してきてな、そこで知り合った」

「ああなるほど、確かに聖職者は冒険者として動くことは珍しい」

「しかもそれだけじゃない。この教会の神は土着系でこの辺じゃそう知られてない。で、そいつはその総本山からこっちの地方に布教を命じられてるエリート聖職者だ」

「それ、無理じゃない?」

「一概にそうとも思えんからここに来た」

 

そう言ってニコラは門へと進み、それを開いた。


「おーい、銭ゲバ聖職者いるか〜?」

 

よくもまあ教会の中で聖職者を銭ゲバ呼ばわりするもんだな

というツッコミは置いといて、教会の中は静かでがらんとしていた。

そう感じた矢先に祭壇横の扉が開き「誰が銭ゲバ聖職者ですか!」と大きな声が聞こえてくる。

見れば青色の髪をした少年が立っていた。

不満げそうにこちらに近づいて話しかけてくる。

 

「ニコラさん、なんの用でしょうか」

「ああ、私が傭兵やめて冒険者やるからその勧誘に来た。このレオンってやつがAランクだから割はいいぞ」

 

その言葉を聞いた瞬間不満を顕にしていた彼の顔は真面目な表情になり。

思案を始めた。

 

「ニコラさん、正直すごい美味しい話ですねこれ。僕が活躍して広告塔になれば布教にもつながるし火の車の予算もある程度なんとかなる……よし!乗りました!上に話つけたり引き継ぎがあるので明後日ぐらいでいいですかね?」

 

すごい、なにも言っていないのにトントン拍子で話が進んでいる……

 

「いやあの、まず君何歳?僕の肩ぐらいの身長しか無いけど」

 

流石においていかれたまま話を進められると困るので割って入る。

 

「十六ですね」

「若っ!?」

 

適当に差し込んだ質問とはいえ、あんまりの若さに思わず声が出た。

 

「ニコラ本当に大丈夫?俺より五つも年下だよ?俺ニコラの年齢も知らないけどなんか思うところあるでしょ?」

「私はあんたとタメだよ。二十一歳。それと安心しろ、こいつの強さは今から見せる」

 

そう言いながらニコラはショットガンを取り出して弾を詰める。

彼は少し嫌そうな顔をするが渋々OKといった感じだ。

 

「私の銃は魔物にも対応できるように全体的に口径が割とでかい。この銃から放たれるスラグ弾は普通の人間が脳天に喰らえばそれなりに距離があろうと首から上がキレイになくなるだろうな」

「俺でも流石に脳天ゼロ距離なら生きてるかわからんな、少なくとも三日はギルドの医務室に監禁。というかまさかとは思うが……」

「そのまさかだよ」

 

ニコラはショットガンを彼の側頭部に当てて、銃が破損しないように少し離す。

「いくぞ」と軽くそう言って引き金を引いた。

圧縮された魔力が開放されるブシュッという音と同時に鈍い音が響き、それとほぼ同時にスラグ弾が彼の側頭部に直撃、彼の首は勢いよくニコラのいる側の反対に曲がり体が大きくよろける。

だが、それだけだった。

出血もなく、目立った形状の変化もない。

 

「いきなり中々の無理させますね、怪我がないとはいえ痛いものは痛いですしムチウチになりそうで怖いですし……でもまあ、レオンさんの役に立つ証明にはなりましたかね」

 

側頭部をさすりながらニコラに文句を垂れる様子には余裕すらも感じられる。

 

「まあ、こんなもんだ。聖職者としては大したもんだろう?」

「ああ、攻撃から仲間を守ることに特化した戦士ですら無傷は中々いない。ここから回復や補助ができることを考えると戦力としては十二分だ。君、名前は?」

 

聖職者の彼は認めてもらえたことに満足げな様子を見せながら大きな声で「ダリルです!」と名乗った。

その後ダリルがいろんな事の整理のために帰っていったのを確認して、ニコラともうすっかり日の落ちた街道を歩いていた。

 

「しかし十六かぁ……」

 

ため息交じりにダリルの年齢を反芻する。

 

「そんなに不満か?」

「いや、仲間としては不満じゃないんだけどさ、五歳下がああだとこう、才能が妬ましくってね……」


レオンのその言葉にニコラは少し驚いたような様子を見せた。


「意外だな、冒険者やってるなら自分より年下の強者なんてたくさんいるだろ?」

「いや、二十一より下でAランクってなかなかにいないんだよなぁ。それも五つ下となると本当にいなかったなぁ」

「ふーん、そうか。ま、いいじゃん仲間が天才なら頼もしいことこの上ないだろう?」

「実際肩並べて戦ったらすげぇ安心感だろうな。まあ、ダリルだけじゃなくてお前も頼りにするさ。よろしくなニコラ」

「こちらこそ。レオン」


「――一つ言い忘れていたがダリルはあれ滅茶苦茶猫かぶってるからな。ある程度距離が縮まるとクソガキなことが分るから覚悟しておけ」

「ええ……」



――んで、パーティ結成届けを受付にもってきたはいいんだが。

困ったことになった。

 

「えっと……傭兵酒場の稼ぎ頭と新進気鋭の聖職者ですので実力的には申し分ないのですが、ギルドと連携した組織からの加入ではないので、こちらで扱える実績がないといいますか。要するに一番下のDランクから初めてもらうことになるんですよ」


うむ、そういえばそうだった。

軍や魔法学会は気まずくて行きたくなかったが、そういえばこんな弊害があったな。

どうしよう、二人ともAランク目当てで組んでくれたのに。

ほら見てみろ眼光から「話が違うだろ」って主張が聞こえてくるもん。

ごめんて。

 

「まあまあ。考えなしのレオンさんに文句を言う前に話を聞いて下さい」

 

笑顔ですごい傷つくこと言ってくるじゃん。

 

「Dランクから始めてもらうとは言いましたが、Dランクの依頼をAランク相当の戦力で荒されても困るんですよね。ランク分けっていうのは依頼の難易度に対して適性の冒険者をあてがって死者を増やさないようにするためのものですからね。Dランクのほぼ研修とも言えるレベルの依頼をどんどん消費されても後進育成に困ります」

「じゃあどうするんだ」

 

目に見えて苛ついてるニコラが受付嬢にがっつく。

前職(傭兵)の弊害だろうか。

 

「あなた方には曰く付きの依頼をやってもらおうかと」

「曰く付きぃ?」

 

ニコラさん、怖いですよ。

落ち着いてください。

んで受付嬢も全然ひるまないな。

慣れてんのかな?

 

「はい、学会が出してくれてる比較的この辺に近い平野――具体的にはエレノ平野でのサンプル採取の依頼なんですけど、この依頼を受けたときだけこの地域に出ない凶悪な魔物が襲ってくるんですよね。この前はラミアが現れました。腕試しだと思ってこの依頼やってください。強い魔物倒したらその強さに応じてランク上げますんで」

 

要するに力を示せば依頼一個でランクを上げてくれるのだ。

はっきり言って破格である。

どれほどのスピード出世だとしてもDランクからCランクに上がるのに数ヶ月、CランクからBランクに上がるには一年、BからAとなると二年かかかる。

レオン本人も齢十五にして冒険者ギルドに属し、Aランクになったのは今年になってからだ。

 

「いいんですか?そんなこと一介の受付嬢に決める権限は無いと思いますけど」

 

流石にどこか引っかかるのかダリルが切り込んできた。

 

「そうですね。本来ならそうです。ですがギルドマスター含めて皆からレオンさんはこういう事が起こりうるだろうなと思われてたので、あらかじめ上司から許可を取ってます。というかギルマスからそうするように言われました。感謝してくださいねレオンさん」

「はい、ありがとうございます……」

 

深々と頭を下げてその依頼の受諾手続きを一通り終えた後に出発の準備をしに街へ出かけた。

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